ジブリの仕事のやりかた。
宮崎駿・高畑勲・大塚康生の好奇心。


 先人からのバトンタッチ。


糸井 宮崎さんも高畑さんも大塚さんも、
なんだか、八犬伝みたいに
どこからともなく、
すごい人たちとして集まってくるわけだけど、
3人とも、もとは東映動画にいたんですよね。

その大きな広場から育ったとも言えるのだから、
東映動画というものが、誰の意志によって
どういう動機でつくられたのかも、
知っておく必要があるなぁとは思いました。
鈴木 日本映画は
ある時期まで5社が支配していて、
そのいちばん後発が東映ですよね。
大川博という社長が作って、
いちばん後発だったにも関わらず、
映画会社としては大成功するわけです。

市川右太衛門、片岡千恵蔵が、
日本国内で大ヒットしていた……
だけど、大川さんという人は、
野心があったんですね。

「確かに日本の国内ではうまくいっている。
 ところが、日本の映画というのは
 なかなか海外に出ていくことがない。
 日本人はたいがいの人が
 洋画をたのしんでいるじゃないか。
 なんとか、この日本から
 海外に発信できるものはないか……」

そこでこの人が目をつけたのが
アニメーションなんです。
糸井 へぇー。
そういうふうにはじまったんですか?
鈴木 東映のアニメーションの
長編映画第1作目は
『白蛇伝』っていうものだけど、
この作品から、実はもくろみとしては
「海外進出」が設定されていたんです。

「中国ものをやりましょう。
 中国ものを作れば、
 中国に輸出ができますし、
 広く東南アジアはうまくいきます」

大川博という人は、
こうやって大風呂敷を広げて、
実際にうまくいくんですけど、
そうして作った
『白蛇伝』の映画の予告編のなかに、
みずから登場しているんです。

そこで演説をぶつんですね。
なんだか、すごかったんですよ。
「私は……東洋のディズニーになります!」と。
糸井 (笑)
鈴木 「これから向こう10年、
 1年に1本ずつ、
 長編映画を作っていきます。
 だから、我こそはと思う人は、
 どんどん来ちゃって下さい」


社長みずから、
予告編で求人をしちゃうんです。
その呼びかけに応じたのが、
まだ学習院大学に入るために
受験生をしていた宮崎駿なんですよ。

高畑さんは『白蛇伝』を見たときには
翌年の入社が決まっていたんですが、
やはりその予告編を見ていたそうです。

宮崎駿は、高校時代に見た『白蛇伝』で
ガーンときて、東映動画に行っちゃうんです。
他にも、とにかくいろんな人材が、
翌年から東映動画に
ポンポンポンポン入ってくるんです。
これがスタートになっちゃうんです。

なにしろ
「東洋のディズニーになる」
と言うわけでしょう?

「毎年一本、長編を作るのですが、
 作る人が少ないので、
 来た人にはぜんぶ作らせます」
と宣言しちゃったもんだから、
みんな、どんどん来ちゃったんです……
大川さんの行動は
「ほんとうの経営者」のものですよね。
糸井 ええ。
鈴木 儲かるか儲からないか、
まだわかってないのに、
やるっていったらやっちゃったんですから。

作りかたもわからないまま、
あちこちの
ちいさなアニメーションの
プロダクションを集めて会社にしてしまうし、
いっぱい人を集めて、
年に一度の映画の封切り日だけ
決めてしまって……。
糸井 じゃあ、
『千と千尋の神隠し』がアメリカで
アカデミー賞を取るなんていうのは、
大川博さんの野望の延長線上に
起きた出来事なのかもしれない。
鈴木 あのアカデミー賞を、
いちばんよろこんでいるのは
大川博だと思うんです。

大川博がアニメーションづくりを
スタートさせたのが
昭和33年、1958年ですよ。

それから10年ちょっとで作った
『太陽の王子 ホルスの大冒険』
という映画は、ある評論家からは
「日本の長編アニメが、
 はじめてディズニーを超えた」
と絶賛されているんです。

大川さんはうれしかったでしょうねぇ。
この『ホルス』は、
高畑・宮崎のコンビで作られたもので、
そこに大塚さんも入っているわけで……
だからこそ、糸井さんがおっしゃるように、
『千と千尋』が、いろんな賞をいただけたのを、
たぶんいちばん喜んでいるのは、
大川博じゃないかなぁと思うんです。
糸井 すごい物語ですね、それは。
宮崎さんと高畑さんと大塚さんが会って、
で、そこに鈴木さんが合流してみたいな、
そんなことが、
自然発生的に起こるはずがないんですね。
鈴木 それは、
先人からのバトンタッチですよ。
糸井 ですよね?
鈴木 そう。
糸井 大川さんという人は、
やっぱり最初に
アニメーションの広場を作ったんでしょうね。

東洋という概念を出して、
「ディズニーのような
 ソフト産業を日本発でやりたい」
と最初に言いきったわけだから、
アニメの世界での
正力松太郎(読売新聞創始者)
みたいなものなんですね。
大きな野望が動かした……。

いま、ジブリに実際に入ってくる人には、
いろんな役割がいるとは思うんですが、
いまは、
「もともと何かができて入ってくる」
ということが多いんですか?
鈴木 だいたい、大きくいえば、
やっぱり「絵」ですよね。
糸井 プロ野球でいえば
1軍に入ってくるような人ですか?
鈴木 プロ野球のドラフト会議に、似ています。
  (つづきます)

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2004-07-26-MON


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