ほぼ日刊イトイ新聞プレゼンツ

モノはコトなり、コトはモノなり。
そしてコトバは、すべてをつなぐ。

目指すのは金メダル!
世界一の歯車は
こうやってできあがった。

糸井重里の「会いたい! 取り上げたい!」という思いが
実現した今週のGOODS JOCKEY。
世界一の中小企業経営者、樹研工業の松浦元男さんを
ゲストにお招きしたスタジオでは
世界一小さい100万分の1グラムの歯車について
様々な話が繰り広げられました。


 世界一小さい100万分の1グラム(径0.1489mm)の
 歯車をパッケージしたカード。
 比較のために10万分の1グラムの歯車も入ってます。
 右側は米粒の上にのった拡大写真。


あまりにもおもしろい話が展開されていますので、
本ページでも放送内容のダイジェストと
放送後のスタジオの会話をお届けします。
(ラジオで聴くとスタジオの熱気が伝わってきます。
 こちらもぜひ聴いてみてくださいね。
 放送の詳細はこのページの下へ)

※2月10日放送内容のダイジェストはこちらからどうぞ

●見た人が感動する極限の歯車を作る!

柳井(柳井麻希さん「GOODS JOCKEY」アシスタント)
 今日から、いよいよ、この歯車について、
 ググッと深くお聞きしたいんですけれども、
 まず、この歯車ができるまでの経緯というのを、
 簡単にご紹介しておきます。
 もともと樹研工業さんというのは、
 1千分の1グラムの歯車を作ってらっしゃった。


松浦(松浦元男さん)
 これは日本、それから外国の時計でも
 ずいぶん使っています。
 月に1千万個ぐらい作ったのかな。


柳井
 そしてあるとき、10万分の1グラムの歯車を作って、
 展示会に出展なさったんです。
 このときは歯車を作る機械も出されたそうなんですが、
 それを見た方が「機械は動いてるけど、
 なんにも作ってないじゃないか」と(笑)。
 よーく見ると、10万分の1の歯車を作っている。
 見えなかったっていうぐらい小さいという
 エピソードがあるんです。
 この時は驚く方が多かったものの、
 同業者の方の中には
 「ウチだってやろうと思えばできる」
 なんていう冷ややかな反応もあったんですねぇ。


松浦
 ヤキモチもありますよね。


柳井
 そこで次は100万分の5グラムという歯車を
 作るということを決意されました。
 そうすると社員の方から
 「100万分の5グラムではなく、
  100万分の1グラムの歯車を作りましょう。

  でも、それを作るには莫大な費用が
  かかるということになるから
  社長も腹をくくって下さい」と言われた(笑)。


松浦
 まあ、脅されたんですね、私。


糸井(糸井重里)
 社員にね。

柳井
 すごい会社ですね(笑)。
 「100万分の5グラムだと、
  100万分の3グラムの歯車を作れたら終わりだ」

 というふうに考えて100万分の1グラムの歯車と、
 この開発を手がけるようになった。


松浦
 つまり極限のものを作らないと
 見た人がやっぱり感動しないんです
よね。
 せっかく売名行為と、宣伝をしようと思ったら、
 やっぱり極限のものをやらないとダメなんです。
 いい加減なとこで妥協すると、
 言ってみれば、銀メダル、銅メダルでしょ?
 ここを狙ったらもう今の若い人は情熱を燃やしません。
 よく今の若い人に対してね、批判がありますけど
 昔の若い人でアメリカの大リーグへ行って
 スタープレーヤーになろうと思った人なんか
 誰もいなかったですよ。
 大阪の水泳の女子の選手が、
 「金じゃなきゃイヤだーっ!」って、
 もうあれはね、素敵な叫び声なんです。
 僕は大好きなんです。
 だって、「銀は嫌」ですよ。
 これをね、スパッと言うのが今の若い人ですからね、
 そこを理解しないと企業もなにも、
 死んだような雰囲気になっちゃいますよ。


糸井
 「昔は良かった。今の人はダメになった」って、
 必ず言いますよね、年寄りの人(笑)。

松浦
 うそ、うそ、今のほうがよっぽどいい。




●見てくれじゃない!
 どんな社員とも真剣勝負。


糸井
 「100万分の5じゃダメです、100万分の1です」
 って言った社員の方はもともと何やってた方ですか?

松浦
 工業高校卒業した連中なんです。
 ウチは工業高校の連中が多いんですわ。
 こいつら、乱暴なんですわ。もうとにかく。


糸井
 オートバイで就職試験にババババッて来る?

松浦
 もうね、バイクは来るわ、
 地ベタ擦ってくるような大型の車に乗って来るわ。
 出てくりゃズボンは太っといズボン履いて
 眉毛半分ぐらいなくて、頭グリグリパーマなんですよ。
 でも、それってね、犯罪じゃないんですよ。
 学校のルールに反してるだけで、
 僕のルールには違反してないんですよ。

 僕は就職試験受けるときに、
 真っ黒の上下のスーツを着て、割れると、
 中は真っ赤なネクタイはめてました。
 その時の社長が
 「こいつは面白い。こいつ入れようじゃないか」
 っていって、雇ってくれたのが前の会社なんですよ。
 だからやっぱり見てくれじゃなくて、
 もう自分の信念貫いているようなヤツ。

 そういうのが面白いですね。
 今の連中はまた心意気がすごいんですよ。
 ただ、大人がちゃんと勉強をして相手をしないと、
 あいつらすぐバカにしやがるんだ。
 こっちがいい加減なこと言うと、
 もう二度と相手にしない。
 だから、毎日、僕は会社で真剣勝負ですよ。
 自分の知らないことを相手が知ってたら、
 どんなに年下でも
 「申し訳ない、ちょっと教えてくれ」って。

 知ったかぶりでごまかそうなんてのは
 もう相手が翌日から相手しませんから。
 それをキチッとするとね、
 今の人たちの能力っていうのは、
 僕らの18、19の頃に比べたらね、
 3倍から5倍、能力があるわけですよ。


糸井
 はぁー! その、数字で3倍から5倍っていわれると、
 なんか、リアリティありますね(笑)。

松浦
 僕らが5年で憶えたことをね、
 今の若い連中は1年ですよ。


●採用は先着順。
 人に合わせて商売は展開する。


糸井
 100万分の1の歯車を作った方も、
 やっぱりそういう系統の方ですか?

松浦
 そうです。そうです。
 何人か、そういう連中がいます。
 とにかく見学者が怖がってそばに寄らなかったとか
 そういう話がいくらでもあるんですよ。
 だけど、そういうのがやる気を起して
 エンジン掛かると、もうすごいんです。


糸井
 その人たちは数学がどうだとか、
 物理学がどうだとかみたいなことっていうのは、
 後で勉強するんですか?

松浦
 やりながら勉強するんですよね。
 あっという間にマスターします。
 頭は良かったと思います。だけど学校の勉強に対して
 情熱を持ってたかどうかはわかりません。
 僕は成績も学歴も何も見てませんから。
 採用するときは先着順です。
 3分や5分、あるいは10分や20分話をして、
 その人の過去がわかるわけないでしょう。

 だからそこでポーンと会って、「一緒にやろう!」。
 もうここがスタートですよ。


糸井
 それは、人間の使い道っていうのも
 よくわからない状態で採るわけですね?

松浦
 その人に合わせて商売展開すればいいんですわ。
 商売に合わしてもらう必要ないんですよ。

 その人が「こういうことやれそうだな」って思ったら、
 そこへ投資をして「一緒にやろう!」と
 こういうふうにしてけば、一流の技術者になるんですね。


糸井
 っていうことは、この歯車と
 おんなじような意味が‥‥。
 今は役に立つもんじゃないんですよね。

松浦
 同じです。今は全く役に立ちません。
 向こう30年経っても50年経ってもないでしょうね(笑)。


●不良品は1千万分の1個。品質管理も世界一。

糸井
 カードの裏を見ると、説明図みたいになってて、
 絵が描いてあるんですけど、
 歯車の形をしているかどうかは、
 僕らは目では見えないですね。



松浦
 そうなんですよ。顕微鏡でないとダメです。
 最低で30倍から50倍の顕微鏡で見ていただくと、
 きれーなカーブになってます。


糸井
 確か歯車っていうのは、
 歯のカーブがきれいじゃないと、
 擦れてしまったり‥‥。

松浦
 滑り摩擦になるとね、簡単に減っちゃうんです。
 転がり摩擦になると、きれいに転がって、
 減らないんですね。


糸井
 転がり摩擦でお互いが回転できる設計になってて、
 この大きさ。

松浦
 実はその大きさのものができることによって、
 世界中からいろんなビジネスオファーがあって、
 自動車が精密な歯車を使い始めたんです。
 スピードメーターだとか、ガソリンゲージだとか、
 回転計だとか。
 そこらへんのギアは、だいたい日本中というか、
 世界の2分の1ぐらいは、我々が作ってるんです。
 ヨーロッパのメーカーにも、
 ぜんっぶ我々が送ってるんです。
 しかも私たちの品質の管理水準というのは、
 不良品は1千万分の1個から
 1千万分の4個ぐらいなんです。

 だから、ほとんどゼロなんです。
 これは世界中ね、誰もついてこれません。


糸井
 松浦さんの本の中で「ISOなんかクソ食らえ」
 とか言ってますけど、ISOの基準っていうのは、
 それに合わせよう、合わせようとしてたら、
 今まで日本が持ってたもっと厳しい基準を
 捨てちゃうことになると。

松浦
 そうなんです。
 ですから堂々と「あんなものやらないよ」
 っていってんのは
 変な話、ウチとトヨタ自動車だけなんですよ(笑)。
 私たちは取引はありませんけども、
 トヨタ自動車の生産方式と品質や管理方式を、
 もういちばん正しい先生だと思って
 30年やってきたんです。
 今さら、それを捨てる気はありません。


●パウダーギアのカードの
 作られ方はいかに?!


糸井
 この歯車は自分の手に載せて驚いてほしいね。

松浦
 これはシャレでいきますと
 パウダーギアっていうんです(笑)。


糸井
 粉? 粉歯車。フッと吹いたら、バーッと‥‥。

松浦
 そう、飛んでっちゃう(笑)。


糸井
 問題は結果じゃないんだよな。
 そういえば、このカード作ってくれる人、
 すごい大変だと思うんですよ。
 この見えないようなヤツをのっけて、
 作んなきゃなんないわけでしょ?

松浦
 (笑)恥ずかしくて言えないような
 やり方なんですけどね。
 べつに商品じゃありませんから‥‥。
 綿棒を濡らしてね、チョコッと付けてるんです。
 だから、3つ入ってるやつもあれば、
 4つ入ってるやつもある。
 いい加減なもんなんですよ。


糸井
 そうですか。3つ入ってても、
 誰も怒んないですもんね。

松浦
 多少は無駄になりますけどね(笑)。


糸井
 多少ね。100万分の1グラムぐらいの無駄になる。
 あ、そうですか。あいたたたたたた(笑)。
 俺にはこれは作れないな、綿棒。見えないもん。

松浦
 いや、大きいレンズがありますからね。
 だいたいいい加減でやってるんです。
 時々入ってないヤツもあるもん。


糸井
 それはまずいですね。多いのはいいけど!(笑)

松浦
 だから、終わってから顕微鏡で検査してね、
 これ、ダメだよ、なんて(笑)。
 それ作ってるのはね、中国人の子なんです。
 目がよく見えるんです(笑)。


糸井
 昔から中国って、細密とか得意ですもんね。

松浦
 外国籍の子も順番に来るもんだから
 そうするとやっぱり個性の集団になって
 面白いんですよ。


糸井
 先着順の話はやっぱり感動的ですよ。
 だって、振るい落とすからいい子が入るって、
 みんな思い込んでますからね。

松浦
 もうぜんぜん、あれでいいヤツを落としてくれるから、
 助かるんですよ(笑)。


糸井
 今、学生さんとか、どうやって気に
 入っていただこうかって
 ばっかり考えてるじゃないですか。
 そんなこといっても
 松浦さんのとこで全部の人間を
 採るわけにいかないから。

松浦
 だから先着順なんですよ。


糸井
 そういうことですね。


今晩の放送では松浦さんが代表を務める
樹研工業についてさらにほりさげて聴いていきます。
放送内容は明日の更新でまたダイジェストを
お届けしますが、ぜひ放送も聴いてくださいね。




ほぼ日刊イトイ新聞プレゼンツ 
GOODS JOCKEY(グッズジョッキー)


見よ! 日本の底力。
世界一小さい
「100万分の1グラムの歯車」。


今週のGOODS JOCKEYはいつもより
熱気10倍増しと言っても過言ではありません。
GOODS JOCKEYをはじめる当初から
「ぜひとりあげたい!」とdarlingが熱望していた
世界一小さな歯車と、
その歯車を作った樹研工業の代表取締役松浦元男さんに
スタジオにお越しいただいているのです。

販売する商品は以下の2点です。


世界一小さい100万分の1グラム(径0.1489mm)の
歯車をパッケージしたカード。
比較のために10万分の1グラムの歯車も入ってます。
右側は米粒の上にのった拡大写真。



松浦元男さんが書かれた本
『百万分の一の歯車!』


今週は本ページでも放送の翌日に
松浦さんとdarlingのラジオでのやり取りを
掲載していきます。
ラジオで松浦さんの肉声を聴いていただいて、
翌日、「ほぼ日」でぜひもう一度
「100万分の一グラムの歯車」のこと、
「世界一の中小企業経営のこと」
「日本の底力のこと」などを味わってください。
どうぞお聞き逃し&お見逃しなく!

放送は火曜日から金曜日 21時35分頃〜
TBSラジオ(AM 954)
(「mix」(ミックス)という番組内で放送されます。
 放送開始時間は若干変更となる可能性があります)


リアルタイムでラジオで聞くことができるのは
TBSラジオ、新潟放送、信越放送、大分放送、
北陸放送、和歌山放送、山陰放送、琉球放送となります。
ラジオで聴くことができない地域のみなさま、
放送を聴き逃してしまったみなさまは
放送終了後、22時ごろから
TBSラジオのGOODS JOCKEYのページ
聴くことができます。
土曜日には本編では流れない、
インターネットだけの放送も予定してます。
こちらもお楽しみに。

2004-02-12-THU

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