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糸井 |
ベンチャーキャピタル以外の選択肢は、
なかったんですか?
つまり、原さんは
若者たちが「大金持ち」になっていくのを
横で見ていたわけじゃないですか。 |
原 |
ふつうの企業をつくっても、
ひとつのことしかできないからね。 |
糸井 |
ああ‥‥そうか、そうか。 |
原 |
社会のしくみをつくっているのは、「システム」。
ひとつのことだけをやってたんでは、
ものごとを動かすシステムは構成できない。
でも、そのシステムの構成要素を
ひとつひとつ、同時に見ていける立場というのが、
ベンチャーキャピタルだったんですよ。 |
糸井 |
それも、どこか考古学的ですよね。
だって、
全体を見ているわけじゃないですか。 |
原 |
なにかの会社で大成功したら、
有名になれたり、
大金持ちになれたりするのかもしれないけれど、
ひとつのことしかできない職業には、
あんまり、興味がないんですよ。 |
糸井 |
‥‥おもしろいなぁ。 |
原 |
糸井さんがいちばん最初に言われた、
エリートとその他大勢のあいだに、
ひどい格差のない社会。 |
糸井 |
ええ。 |
原 |
そういう社会のしくみを実現するのも
ひとつの「システム」を考えることじゃないですか。 |
糸井 |
そして、あたまで考えたら、
かならず実行に移してきたんですね。 |
原 |
そう、あたまで考えたあとは‥‥
「腹の底からやりたい」と思ってるかどうか。
これです。
あたまなんかはね、適当に使ってりゃ‥‥っていうのも
乱暴な話ですが(笑)、
わたしが使ってるのは「腹」なんですよ。 |
糸井 |
その「腹」は、どうやってできたんですか? |
原 |
それもやっぱりね、
考古学をやってるときでしょう。
当時の中米では、内戦なんかもあって、
いかに自分で自分の命を守るか‥‥。
絶体絶命だっていう危機は
もう、なんどもありましたから。 |
糸井 |
そういう経験を経て「腹が据わった」と。 |
原 |
だからね、バングラデシュの現場にも
日本の若い人を送り込んであげたいんですよ。 |
糸井 |
じゃあ、エルサルバドルが変えたんですね、
原さんを。 |
原 |
そうかもしれません。
今、いろいろな仕事をやっていますが、
そういう意味で、私の原点は、
エルサルバドルで、自分とは違った価値観で
生きている人たちに出会ったことと、
彼らの現実を見たところにあるんです。
‥‥でね、エルサルバドルって国も
バングラデシュ並みに貧しい。
識字率なんかも、すごく低いんです。
だから、学童用品なんかは、
ユニセフやユネスコが持ってくる。 |
糸井 |
うん。 |
原 |
食料については、「FAO」という国連の機関が。 |
糸井 |
はい。 |
原 |
で、医薬品なんかは「WHO」、
つまり世界保健機構が援助している。 |
糸井 |
なるほど。 |
原 |
‥‥と、聞いていたのにもかかわらず、
まったく、だれもやって来ない。
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糸井 |
え? |
原 |
エルサルバドルの首都にある
国連開発計画の代表事務所に行っても、
みんな、無関心なんです。 |
糸井 |
はぁ‥‥。 |
原 |
で、国連はなにやってるんだ、と。
もしも、なにか動かない理由があって、
なんらかの修正をすれば
動くようになるのかと思って、国連に入るんです。 |
糸井 |
だれが? |
原 |
わたし。 |
糸井 |
また、入っちゃったんですか!? |
原 |
ええ、スタンフォードの学生のとき、
「UNフェロー」といういう
ある種の上級外務公務員みたいな試験があって、
それを受けて、国連に入ったんです。
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糸井 |
はぁ‥‥こんどは「そっち」だったんですね。 |
原 |
で、入ってみたら、
国連がいかにダメな機関かっていうことが
はっきり、わかった。
こんなとこにいたら、
わたしまでダメになると思って、
また、スタンフォードに戻ったんです。 |
糸井 |
おもしろいなぁ‥‥現場を「たしかめる」ために
実際に行ってみるっていうやりかたが
まったくもって「穴掘り」じゃないですか。
言葉は、わるいかもしれないけど。 |
原 |
そうそう、たしかめるために入る。
試験に受かりさえすりゃあね、入れるわけだから。 |
糸井 |
ぜんぶ、見てやろうって‥‥。
やってることが、考古学そのものですね。 |