第8回 なんのために測るのか。
糸井 | 早野さんは、太陽光発電のグラフも 毎日つけてらっしゃいますよね。 |
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早野 | ああ、はい。 |
糸井 | 太陽光発電によって毎日つくられている電気量を、 晴れの日も、雨の日も、曇りの日も、ずーっと。 |
早野 | とくに論評もせずに、ひたすらグラフだけを。 今年の8月15日でちょうど2年になるので、 そこでやめようと思ってます。 |
糸井 | つまり、あれも、ちょっと切ないんだけど、 現状はこうなんですよ、っていうデータですよね。 |
早野 | まぁ、そうですね。 誰が見ても、この程度ですっていうことがわかる。 |
糸井 | つまり、現状の規模では、太陽光だけで エネルギー問題を解決できない、ということが 毎日のグラフを見ていると自然にわかるんです。 それはやっぱりちょっと切ないんですよ。 役に立ってくれたほうがいいに決まってるから。 でも、早野さんは、事実だけをグラフにしている。 それこそ、エネルギー問題は専門外なんでしょうけど。 |
早野 | 専門外です(笑)。 |
糸井 | でも、あれは、誰が見てもわかるんだよなぁ。 で、あの事実というのは、 エネルギー問題を考えるときに やっぱり知っておいたほうがいい。 でも、実際に毎日グラフをつけてる人はいないし、 ほかにいないなら、自分でやるかなっていう? |
早野 | そんな感じですよね。 |
糸井 | それは放射線量の測定をしたときと同じですね。 たまたま自分がやっているというか、 ほかにいないというか。 |
早野 | うん、やってる人はいないですね。 |
糸井 | 「もっと太陽光を!」って言ってる会社も、 毎日の発電量をつけているわけじゃないし。 |
早野 | してないですね。 |
糸井 | で、早野さんは、だから無駄だとも言わないし、 もっとがんばれとも言わない。 なにしろ、早野さんは事実を公開しているだけ。 |
早野 | ええ。 |
糸井 | 一貫してますよね、早野さんの姿勢は。 事実や過程を、こうなってほしいとか、 自分はこう進めていきたいとかいう 願望抜きにいつも開示している。 |
早野 | そうですね。 |
糸井 | あの、早野さんの個人的な願望というのは、 それはそれで、別の引き出しにあるんですよね? |
早野 | ありますね。きっとね、あるんですよ。 |
糸井 | それを発表する時期はないんですね。 |
早野 | それは、ないと思いますね。 |
糸井 | 一生ないですかね。 |
早野 | ないと思いますね。 |
糸井 | はーーー。そうですか。 |
早野 | いや、個人の願望というか、 自分の本職に関していえば、野望はありますよ。 それはもう、いろいろ、 「ノーベル賞獲りたいぞ」とか(笑)、 いろいろあるわけですよ、それは。 |
糸井 | ああ、プロとしての野望は。 |
早野 | そう、もちろん、それはどこかにはあって。 このくらいの高さのハードルを 跳び越えられるようにならないと 自分はプロとはいえない、とか、 そういうことは、若い頃から 常に頭に置きながら暮らしてきました。 だから、あそこの山を登ってやるぞとか、 そういうことは常に思っているわけですよ。 だけど、それは人に言う必要もない。 ときには、今度これをやるからねって 言うこともありますけどね。 でも、あんまりそのことを言う必要はなくて。 |
糸井 | 寝て、夢見てうれしかった、みたいな話ですね。 |
早野 | そうそうそうそう(笑)、 そういうのはあります。 でも、いまやってる、福島に関することとしては、 こういうふうにするぞという願望や野望じゃなくて、 「だいたいいいな」と思ってる部分と、 「まだまだこれからだな」と思ってる部分と、 あと、「やめられないな」と思ってる部分がある。 そういう感じだと思いますね。 |
糸井 | なるほど、なるほど。 |
早野 | ひとつ、まさにスタートしたプロジェクトでいうと、 測定の現場で「赤ちゃんが測れないんですよ」って 言われていた問題があるんですね。 これまでの測定って、使ってる装置の限界から、 4歳未満の子って測ってないんですよ。 というのは、いまいちばん普及している ホールボディカウンターって、立って測るんですね。 ところが、赤ちゃんをはじめ、4歳未満の子に 2分間立ってじっとしてなさい、 っていうのは難しいわけで。 仮に、チャイルドシートみたいなものに 身体を固定して測ったとしても、 あまり精度が出ないんです。 なので、これまでは4歳未満のお子さんは 残念ながら測れません、といってきたんです。 いっしょにいるお母さんをしっかり測りましょう、 というような説明をして。 でも、やっぱり納得されないんですよね。 |
糸井 | そりゃあ、測りたいですよね。 むしろ小さいお子さんの数値こそが いちばん知りたいことでしょうし。 |
早野 | そうなんです。 「この子を測ってください」って、 必ず言われるわけですよ。 それで、「ベビースキャン」っていう 赤ちゃん専用のホールボディカウンターを 開発することにしたんです。 これはもう、国の補助金とか一切使わない。 さっきお話しした、東京大学基金を通じて 寄付していただいたお金も この「ベビースキャン」の開発費に つかわせていただいています。 で、1号機をこの夏に納入するということで、 ぼくがプロジェクトマネージャーをやって、 チームもぼくが集めました。 アメリカのホールボディカウンターを つくっている会社の許可も取って。 |
糸井 | 改造するわけですか? |
早野 | ある装置を元にしているんですけどね。 いまは立って測るものなんだけど、 寝て測るようにする。 まぁ、技術的にはですね、少し改造すれば、 寝ても測れるようになるっていうことは、 誰の目にも明らかなんですよ。 あとはだから、実際に取り組むことというか、 お金の問題だけともいえるんです。 |
糸井 | あー、それもそのパターンですね。 やればいいのはわかってるけど、 やる人がいないから、という。 |
早野 | そうなんです(笑)。 ただね、難しかったのは、 ホールボディカウンターって 4トンもあるような鉄のごつい箱なんですね。 それで寝かせて測るとなると、なんというか、 すごく不吉な感じがしてしまうんですよ。 想像するだに、お母さんは赤ちゃんを そこに入れたくないないだろうなっていう。 測るというだけだったら、 たしかにイメージなんてどうでもいいんだけど、 だけど、これって何のためかっていうと、 測ってもらって、よかったねって、 お互いに言い合うためっていうか、 感謝したりされたりっていうことが重要で、 測ってよかったねって みんなが思ってくれるようでないと、 失敗だと思うんですよ。 |
糸井 | ああ、それは、すごい視点ですね。 |
早野 | そこは大切なところだと思ったんです。 それでぼくはデザイナーに入ってもらいました。 『カーボンアスリート』っていう本で有名な、 山中俊治先生なんですけど。 彼はどういう人かっていうと、 Suicaの改札機なんかをデザインした人です。 みんなが毎日使ってるSuicaの改札機の、 タッチする場所の微妙な角度を デザインした工業デザイナー。 この4月に慶應から東大に移られて、 たまたま存じ上げていたので、 彼を口説いたんですよ、 やっていただけませんかって。 なぜ必要かっていうことを説明して。 アメリカの会社の人とも会って、 福島の病院で、測定しているところも 見ていただきました。 最終的にどういうデザインになるか わかりませんけど、 きっといいものになると確信してます。 それで、福島県庁で記者会見して、 9月に測りはじめることをいま目標にしてます。 |
糸井 | いま、そういう時期が来たんだなぁと ちょっと感慨深く感じました。 つまり、ちょっと前までは、 測定する機械のデザインなんてどうでもいいから とにかく測れ、っていう感じだったわけで。 |
早野 | そうですね。 |
糸井 | その機械が感じ悪くないかどうかなんて、 言い出すだけでも怒られそうだったと思うんですよ。 それって、物理的なことじゃなくて、 心の問題じゃないですか。 でも、それってやっぱりすごく大切で。 |
早野 | ええ。だから、4分間寝ててねって言っても、 子どもがちゃんと寝てられるかどうか。 そういうことまで含めてデザインしないと、 けっきょく測れないし、測れないと問題は解決しない。 |
糸井 | はい。 |
早野 | だから、ちゃんとプロにデザインしてもらって、 製品として仕上げる。 しかも、つくるだけじゃダメで、 ちゃんと買ってもらって 測ってくれなきゃいけないから。 発注する病院も同時に探してきて、 契約書を交わしたうえでプロジェクト化する。 |
糸井 | そこまでしないと、 「赤ちゃんが測れない」っていう問題は 解決しないんですね。 |
早野 | そうなんです。福島県の県庁には、 ホールボディカウンター協議会っていう機関があって ぼくは出たことはないんですけど、 「乳幼児の測定ができていない」っていうことが 課題になっていると知ったんですけど、 ただ、やっぱりこれは、 会議をいくら重ねていても解決はしないだろうと。 |
糸井 | そのとおりですね。 |
早野 | だとしたら、つかう人と、それからつくる人と、 両方を探してきて、デザイナーに入ってもらって、 やるしかないなと思って。 |
糸井 | さっきの論文の話と同じパターンですね。 |
早野 | 同じパターンですね。 それで、つくることにしました。 |
糸井 | 誰もやらないんだったら、ぼくがやりますよっていう。 全体に、ボランティアな活動ですよね。 |
早野 | まあ、そうですね。 だから、このホールボディカウンターは、 仮称で「ベビースキャン」って呼んでるんですけど、 商標登録は大丈夫かな? とか、 そういうこともぼくが調べたりしています。 |
糸井 | すごいなぁ(笑)。 |
早野 | 例の論文が終わったので、 短期的に集中して取り組むことができました。 アメリカの会社に何パターンか 見積もりを出してもらう、みたいなことも いちおうぼくが指示しましたし。 |
糸井 | 役に立つ人だなぁ(笑)。 それ、どこかで学んだことじゃないですよね? |
早野 | 学んでませんねぇ。 あ、あと、プレスリリースの文章も ぼくが書いてます。 |
糸井 | なんて便利な人だ(笑)。 |
2013-06-26-WED