第5回たのしく苦しい人生。
- 早野
- 鈴木先生に出会っていなかったら、
僕の人生は全然違っていたんだろうと思うんです。
それは、楽器を弾けるということ以上に、
なんというのかな。
音楽を通じていろいろなものを愛する気持ち。
音楽を愛する。
人を愛する。
そういう気持ちを学ぶんです。
そうすると、いろいろなものを
リスペクトする気持ちを持てるんですよね。
鈴木先生やスズキ・メソードを通して、
「そういう生き方があるんだ」ということを、
学んだんですよね。
だから、去年の8月に自分が
スズキ・メソードの会長になってからは、
この考え方や教えを
たくさんの人に知ってもらいたいという気持ちが、
とても強くなりました。
9年振りに大きなコンサートを
主催することにしたのも、
そういう理由からなんです。
- 羽佐田
- ああ、なるほど。
- 早野
- 僕が会長に就任する前にも
コンサートは企画されていたんですが、
予定していたのが2011年の3月だったので
東日本大震災で、中止になりまして。
いつ仕切り直して開催するかを
ずっと思案していたんですが、
僕が会長になったタイミングで、
やろうか、と声をかけました。
これにはひとつ別のタイミングも重なっています。
「エル・システマ」という
オーケストラをご存じですか?
- 羽佐田
- いいえ。
- 早野
- エル・システマは
ベネズエラで立ち上がった音楽団体なのですが、
音楽を通じて生きる力を育てようという、
スズキ・メソードと近い理念を持っているんですね。
その日本支部であるエル・システマジャパンが、
震災のあと、福島県の相馬や岩手県の大槌で
「子どもオーケストラ」を結成しました。
エル・システマジャパンの
子どもオーケストラで弾いているのは、
みんな、震災以降に楽器を始めた
初心者の子どもたちなんですよ。
- 羽佐田
- え、そうなんですか!
- 早野
- はい。
彼らはとてもがんばっていて、
ベルリン・フィルと弾いたり、
ドイツへの演奏旅行に行ったり。
- 羽佐田
- そんな音楽団体が日本にあるなんて、
知りませんでした。
- 早野
- じつは、このふたつの音楽団体には、
もともとふかいつながりがあるんです。
もっというと、ぼくと不思議なつながりがある。
というのも、エル・システマが
ベネズエラで立ち上がったきっかけになったのが、
僕が参加した1964年の全米ツアーだったんです。
テレビで子どもたちが演奏しているところを
エル・システマの創設者が見て、
こういうことをしたいと思ったらしいんですね。
その後、エル・システマのコンサートは
世界70カ国以上に広がっていき、
日本での活動は東日本大震災をきっかけに始まりました。
そして彼らの活動が徐々に知られていき、
相馬市でもアドバイザーをつとめる僕のところに、
回り回ってやってくるんです。
- 羽佐田
- ほんとうに不思議な縁を感じますね。
- 早野
- 感じますね。
だから今度、久しぶりにやるコンサートは、
大槌と相馬の子どもオーケストラも一緒に弾きます。
全部で3,000人くらいかな。
- 羽佐田
- すごいですね。
3,000人のオーケストラ。
- 早野
- しかもこの間、「ほぼ日」が企画した
「気仙沼さんま寄席」が相馬で開催されたでしょ。
僕と「ほぼ日」もこの春からつながっているわけで、
なにかご縁を感じますよね。
- 羽佐田
- ほんとうですね。
- 早野
- そういうこともあって、ぜひ、
「ほぼ日」の読者にも、
このコンサートに参加していただきたいなと。
ヴァイオリンやチェロに触ったことがないけど
弾いてみたいという方を募集して、
一緒に両国国技館で弾きましょう。
3,000人が集まっている景色も圧巻だと思いますけど、
オーケストラの中に入って弾くと、
もっと、すごい時間を実感できるはずです。
スズキ・メソードの教室に半年通えば、
大人なら、当日までに弾けるようになると思います。
僕もときどき、教えるかもしれません。
- 羽佐田
- それは貴重な機会ですね。
- 早野
- せっかくなので、
ほぼ日の乗組員の方も参加していただいて。
4人の初心者をチーム「ほぼ日カルテット」として
お迎えしたいと思っています。
- 羽佐田
- すてきですね!
でも、ヴァイオリンとチェロ‥‥。
あの、ぜひ私も参加させていただきたいと
思っているのですが、
楽譜が読めるとか、音感があるとか、
最低限の基礎のようなものが必要でしょうか?
- 早野
- ないと思いますね。
練習すればみんな弾けます、
そこがポイントですね。
弦楽器は、みんな弾けるんです。
それに今回は、
上手な演奏ができるオーケストラをつくることが
目標ではありません。
音楽を入り口に僕が知った学びを、
少しだけでも感じてほしい、
そういう思いです。
それに、ちょっと間違えても、
たくさんいるから影響はないですし(笑)。
ソロで弾くよりも気軽ですし、
たのしいと思います。
- 羽佐田
- そうですか。
あの、すごくミーハーな話をしてもいいですか?
私、ジブリの『耳をすませば』という映画が大好きで。
そのなかに、ヴァイオリン職人を目指す
天沢聖司くんが、即興のように
ヴァイオリンを演奏するシーンがあって、
ヴァイオリンへのあこがれがとっても強いんです。
- 早野
- そうなんですか(笑)。
それは、はっきりしたいい動機ですね。
ヴァイオリン、やったほうがいいですよ。
ちょっと教えましょうか?
はい、ヴァイオリン持ってください。
- 羽佐田
- え!!
- 早野
- はい、持つだけです。
で、肩と顎でヴァイオリンをおさえて
弦をこんな風に持ってください。
- 早野
- 弦をおさえているから、
弾いてみてください。
まっすぐ、緊張しないで。
(きらきら星を演奏)
- 早野
- ね? 音が出るとうれしいでしょ?
- 羽佐田
- す、すごい感動しました‥‥。
ありがとうございます。
ぜひ、立候補しようと思います!
- 早野
- (笑)
- 羽佐田
- ちなみに、早野さんが一番お好きな曲は?
- 早野
- これですね。
(早野さん『ユーモレスク』を演奏)
- 羽佐田
- (拍手)
- 早野
- ありがとうございます。
- 羽佐田
- 自分の将来を決めたときに、
もし、ヴァイオリンの道を選んでいたらと、
考えることはありますか?
- 早野
- それもまた、
たのしく苦しい人生だったでしょうね。
- 羽佐田
- ありがとうございました。
ほぼ日カルテット、たのしみにしています!
- 早野
- 僕もたのしみです。
ありがとうございました。
(おわります。)
2017-10-28 SAT