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高校時代は新劇に憧れて、
進路はどちらに? |
堀尾 |
武蔵野美術大学に入りました。
在学中に西ベルリンに留学するんですよ、
もちろん芝居の勉強がしたくて行ったんですが、
ブレヒトってご存知ですか?
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── |
名前だけは。 |
堀尾 |
ドイツの劇作家で、
演劇をやる人には有名なんですが、
まあなにしろそのブレヒトに憧れてですね、
ドイツに渡ったんです。
ところが、ブレヒトをやってる演劇人が
ほとんどいなくて、どうしたものかと(笑)。
そんなとき、いい教授に巡りあいまして、
いろいろなことを教えてもらって、
そこでオペラに目覚めたんですね。
舞台美術がやりたかったですが、
演出も勉強しました。
このとき演出家の気持ちを学んだのが
すごく役立ってるんです。
ここで勉強してなかったら、
演出家を騙そうとなんて思いません(笑)。 |
── |
(笑)そうでしたか。
で、日本に帰ってらして、
すぐ舞台美術のお仕事に? |
堀尾 |
いや、これが、
すぐになるかと思ったら、ならなくて(笑)。 |
── |
ならなかった。 |
堀尾 |
12年ぐらいは、仕事なかったですね。 |
── |
その間はどうなさってたんですか? |
堀尾 |
まあ、アルバイトとか、
いろいろやってましたが、
やっぱり演劇の傍にいなきゃだめだ
という思いがあったので、
映画の特撮小道具を作っていました。
そういう仕事をしていれば、
納品したり打ち合わせしたりして、
演劇の傍におれますからね。
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── |
ああ。 |
堀尾 |
それで、そのうちに、
オペラの若い演出家に、
「一緒にやろう」と言われて、
ちいさなオペラをはじめてやるんですよ。 |
── |
それは、おいくつのころで? |
堀尾 |
32、3だったと思います。
そこからだんだんと大きなオペラの
舞台美術をやるようになって、
しばらくはずっとオペラばかりやってました。
そうやってオペラとかミュージカルを
手がけていたら、ある日、
知りあいに野田秀樹さんを紹介されたんです。 |
── |
そこで出会いが。 |
堀尾 |
ええ。
でも信頼された出会いではなくて、
審査されたんですよ。 |
── |
審査? |
堀尾 |
はじめて会ったときに野田さんが言ったんです。
「ぼくはきみのこと知らないから審査をします」 |
── |
はあ〜。 |
堀尾 |
このことをいま野田さんに言うと、
「言わないでくれ、恥ずかしい」
「おれってほんとひどいやつだったよなあ」
ってなるんですが(笑)、
まあ、要するに、
『夏の夜の夢』の舞台美術の
コンペを受けろって言われたんです。
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── |
コンペ?
演劇にもそういうのがあるんですね。 |
堀尾 |
ふつうはないですけどね。
そのときは、そう言われました。 |
── |
コンペというからには、
ほかにもアイデアを持ってきた人が? |
堀尾 |
ぜんぶで3人だったか、受けたと思います。
ちょっと燃えましたよ(笑)。 |
── |
そうですよね。
もう経験を積んでらしたでしょうから。 |
堀尾 |
ちょっとカチンときたし(笑)。 |
── |
(笑)そして、コンペには通ったわけですね。 |
堀尾 |
はい。 |
── |
そのときはどんなプランを出したんですか? |
堀尾 |
『真夏の夜の夢』のとき野田さんを釣ったのは‥‥
あ、「釣った」っていうのは、
食いつかせたということで(笑)、
そのときのエサはですね、
傘みたいになっている舞台でした。
こう、ぜんたいがベトナムの傘みたいな。
たいらなところがないんです。 |
── |
へえ〜。 |
堀尾 |
たいらじゃない舞台で、
ここでスポーツをしてみろ、と。 |
── |
ああー、挑戦したわけですね。
そういえば先日観た『キル』も、
舞台が斜めでした。 |
堀尾 |
そうそう、あれも走るのがたいへん(笑)。
あとは、野田さんの舞台の場合は
抽象的な表現が多いですね。
布とか紙で、いろいろなものを表したり。 |
── |
「見立て」というやつでしょうか。 |
堀尾 |
そうですね、メタモルフォーゼです。
「と、見なす」っていうか、
「変身する」という意味で、
たとえばイスを、車とか船とか壁とか、
いろんなものにどんどん見なしていくような。
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── |
そういうことはオペラではなかった。 |
堀尾 |
あそこまで抽象的ではないですけど、
でも、オペラでもいろいろな矛盾を
なんとかしなければならないことがあるんです。
壁の高さが7メートルの部屋とか(笑)。
そんなのあり得ない。
そういう、矛盾を埋め合わせていくのが
われわれの仕事だっていうところはありますから
やっぱりいろいろ役立っていると思います。 |
── |
なるほど。 |
堀尾 |
矛盾を埋めることをアレコレ言ってね、
さもありなんなことをしゃべっては
演出家を言いくるめて、
騙すんですね(笑)。 |
── |
またそんな(笑)。 |
堀尾 |
それが快感なんです(笑)。
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── |
‥‥あの、堀尾さん。 |
堀尾 |
なんでしょう。 |
── |
何度か、舞台の模型のお話が出ましたが、
それを見せていただくというわけには‥‥。 |
堀尾 |
構いませんが、残している模型は
そんなに数がないですよ。 |
── |
すこしでも、あるのであれば、ぜひ。 |
堀尾 |
‥‥わかりました。
では、あらためてアトリエにいらしてください。 |
── |
ほんとですか?
ありがとうございます! |
堀尾 |
じゃあ、きょうはこんなところで。
ぼちぼち開場時間になりますので。 |
── |
はい。
お忙しいなか、ありがとうございました。 |
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(つづきます) |