── |
わあ‥‥。
これは、すごい‥‥。 |
堀尾 |
野田秀樹さんがはじめてやったオペラです。
ヴェルディ作曲『マクベス』っていう。 |
── |
シェークスピアの『マクベス』を、オペラで。
劇場はどこだったんですか? |
堀尾 |
新国立劇場ですね。 |
── |
オペラとかバレエなどの上演が多い劇場ですね。 |
堀尾 |
そうですね、演劇の公演もありますが、
歌劇の専門劇場として
作られているオペラハウスです。 |
── |
まずはこの、
中央の目がすごいインパクトですが。
|
堀尾 |
目玉を入れたのは、
野田演出が舞台上に冠を置きたかったからです。
『マクベス』っていうのは権力争いの話だから、
その象徴としての冠を真ん中に置きたかった。
それで私が「眼」を入れた。
目玉がないと、上の部分がこれ、
何だかわからないでしょう。 |
── |
なるほど、頭にかぶっているということが
はっきりわかります。 |
堀尾 |
とはいえ野田さんの舞台ですから──。
抽象的にこの装置をつかうんですよ。 |
── |
直接的に「冠」と言うのではなく。 |
堀尾 |
ええ、実際に劇中で見立てられるのは、
冠というよりは「お城」のイメージになるんです。
これを、お城に見立てる。
そこが権力闘争の場であり、
奪う権力の証が王冠である。という具合。
|
── |
ああ、『マクベス』は、
お城のシーンが多いですよね。 |
堀尾 |
魔女が出てくるシーンでは、
これがひっくり返って、巨大な釜になるんです。
そこに魔女たちが、カエルとかコウモリとかを
放り込んで占いをするんです。
ドライアイスの煙が出てきて、
釜でぐつぐつ煮ているようになる。 |
── |
へえええ〜。 |
堀尾 |
巨大なテーブルに見立てられて、
宴会場になったり、
広間みたいな場所にもなりました。 |
── |
オペラでも野田さんの「見立て」は
次々に行われたわけですね。 |
堀尾 |
ええ。
あとはそう、この冠の下の部分が
ぎゅいーんと回って、
うしろから悪魔みたいな顔があらわれるんです。 |
── |
ああ、そんな大仕掛けも。 |
堀尾 |
大きな動きということでいうと、
これ全体が前に出てくるんですよ。 |
── |
え? 前に出る‥‥
どういうことでしょう? |
堀尾 |
この舞台は、大きくわけてこのお城の場面と、
森の場面があるんですね。
これが森の場面の背景です。
開帳場では‥‥
ああ、「開帳場」っていうのは
舞台の床が傾斜しているスタイルのことで、
床の黄色いケシの花を見せる工夫をしています。
でも、そこではまだ、ただの森なんです。
で、しばらく森のシーンが続いたあとで、
開帳場の床が沈下してゆき、
森の奥にある冠(城)が
がーっと前に出てくる。
|
── |
‥‥それはすごい迫力なんでしょうねえ。
しかしそれにしても、
この冠をうしろにスタンバイしておける
そんな奥行きがあるんですか。 |
堀尾 |
新国立劇場は、ありますね、奥行きが。 |
── |
人形たちも、こまかくつくられてますね。
|
堀尾 |
模型につける人形は、「定規」なんです。 |
── |
ああ、実際の舞台の大きさや広さを
感覚的につかめるように。 |
堀尾 |
そうです。
人形を置いてずっと見てると、だんだんとこう、
あ、これ、階段をあがれないやとか、
ちょっと危険だなとか、
いろんなことが分かってくるんです。 |
── |
なるほど。 |
堀尾 |
あとは、出演者とスタッフに
見せるという目的もあります。 |
── |
イメージをつかんでもらうために。
毎回こういう模型を作るんですか。 |
堀尾 |
いや、毎回ここまでは作り込まないです。
ふつうはホワイト模型という、
色をつけないシンプルなのが多いですね。
規模が大きかったり複雑な舞台だと、
出演者に説明するために色をつけたりしますが。 |
── |
これも、黄色い花がきれいですね。 |
堀尾 |
これはケシの花です。
たしか造花を2万本植えたのかな。
白いものが見えるでしょ、
それはガイコツなんです。
|
── |
ガイコツでしたか。 |
堀尾 |
これが実に野田さんらしいんですけどね、
ガイコツはケシの花の麻薬を吸いながら
生きているんだ、と。
ここで繰り返される血なまぐさいものが
どんどん地面に染みていって、
ケシ花の栄養になり、
この花の麻薬を吸いながらガイコツが生きてる、
亡霊が生きてるんだ、と。
この亡霊がマクベスにいたずらをした。 |
── |
はあ〜。 |
堀尾 |
でもまあ、野田さんとふたりでセットをみながら
「こじつけすぎるよなあ」
なんてことを言ってましたけどね。 |
── |
そうなんですか(笑)。 |
堀尾 |
「まあ、いいよ、俺たちはこれで、
こじつけでいこうよ」
なんて(笑)。 |
── |
いや、でも、そういう壮大な見立てが
野田さんの舞台の魅力だと思っていますから。 |
堀尾 |
ありがとうございます。
つまり、お客さんも騙せてるということですね。
|
── |
ええ、ここちよく(笑)。 |
|
(つづきます) |