一代
うちの旦那なんか、
最近やっと牡蠣が獲れるようになって、
あんなふうに少しは人らしくしてるけど、
震災直後は見ていられませんでした。
なんだかボーッとして、生きてるか死んでるか
わかんないような感じだったの。
でも、ボランティアの人たちから
声かけてもらって「おう」なんて言ってさ(笑)。
うちのブログを読んだりした人がメールをくれて、
「ちょっと、これ」って旦那に見せるわけよ。
そうすると、あの旦那が
「ありがたいよな」って言うの。
どうしても表情に出すのが下手なんだけど、
ありがたいとは思ってるんだよね。
私にはわかるんだけども。
ほぼ日
そうですよね。
ああいう人たちは、1ミリ眉毛を動かすだけで、
心臓がドキドキ動いてるんですよね。
一代
さっき、船の上で牡蠣をむいたでしょ?
私みたいに「ドヤ!」と言わないんだけど、
あれ、心の中では
「ドヤ、ドヤ、ドヤ、ドヤ」って
言ってっからね、絶対。
ほぼ日
そうなんですね。
一代
でも、外見上は眉が1ミリ動くだけ。
でも、「喜んでるな」という感じが
私にはわかります。
男って、そんなものかもしれないよ。
ほぼ日
それを代弁しているうちに、
おかみさんたちの喜怒哀楽の幅が
倍増していくんでしょうか。
一代
そこだね、きっと。
うちの旦那はこんなに喜んでるんだよ、て
代弁して大幅に表現しちゃうんだ。
もしかして、こっちのおかみさんたちが
必要以上に(笑)元気なのは、
旦那たちの表現が下手なせいなのかもしれない。
ほぼ日
だいたいの旦那さんたちは
静かですよね‥‥。
一代
それをカバーしよう、カバーしようと
思ってるうちに
こんなになっちゃったんだね。
ほぼ日
気仙沼だけじゃなく、けっこう全国的に
そういうご夫婦は多いかもしれないですね。
うちの実家も夫婦で商売をしていますが、
なんだかそんな感じです。
盛屋水産さんは、いまで何代目なんですか?
一代
養殖をはじめてから、これで3代目。
100年以上やってきた養殖業が、
たった15分ほどの津波で
全部、流されちゃったんだよね。
でも、いろんな人たちに
あたたかい思いで助けられました。
遠方からも、お金でたくさんの人に
支援してもらった。うれしかったです。
もうこれは、絶対に今後
お金でかえられないものをもらったなと思いました。
じいちゃんたちがこの100年に築いたものを
私たちがもとに戻すことは
どうしたって無理です。
でもね、それをさ、
いままでのように戻すんじゃなくて、
私なりのやり方でやっていきたいと
思えるようになったんだ。
それは、みなさんのおかげです。
ほぼ日
一代さんはじめ、気仙沼のおかみさんたちは
「テンションが高いときがあるなぁ」
という感じじゃなくて‥‥なんだか
ずっと元気なんです。元気が安定してる気がします。
一代
みんな同じような、波長の合う人たちなんだよね。
波長の合う人と話をしてると、
どんどんどんどんアイデアが出てきて、
しまいにはタイヘンなことになったりする。
ほぼ日
わかります。
私も「ほぼ日」で働いていて、
女どうしで計画を話していると、
どんどん盛りあがってしまいます。
一代
たのしいもんね。
話をしてるとうれしいし、夢とか希望がふくらむの。
「そうだよね、私が言ってること、間違いないよね」
「だったらこういうふうに
がんばっていかないとね」
話しているうちに、
そういう気持ちになっていくんだよ。
ほぼ日
気仙沼には「つばき会」さんのような
婦人会がありますけど、
全国に、そういう集まりがたくさんありますよね。
みなさん、そういう感じで
集ってらっしゃるのかなぁ。
一代
そうかもしれないね。
「ここでは騒いではいけない」とか、
「レベルが足りてないから遠慮しなきゃ」とか、
発言を慎まなきゃいけないような雰囲気、
あるでしょ?
シーンとして、黙って、
借りてきたネコ状態でさ(笑)。
そうなってくると、
言いたいことも言えず、やりたいこともできない。
ところが、
アッペラポンなこと言ってもいいんだなって思うと、
自分がいままで頭の中に駆け巡らしてたことが、
ヘラヘラヘラヘラ、口から出てくるんだよね。
話しているうちに、
「私ホントはこうしたかったんだ」とわかってきて、
次に、誰かが
「それに乗った!」なんて言い出すの(笑)。
「それって、もっとこういうふうにしても
いいんじゃない?」
とかさ。
そうするとストップがきかない。
ほぼ日
そうなったときの協力体制がすごいですよね。
力を惜しまず、ごく自然に手をさしのべる。
またそれが、うれしくって。
一代
そうそう、それがうれしいんだよ。
それで、笑顔でがんばろうね、とか、
夢物語をお互いに言い合ったりしてると、
もっとうれしいし。
ほぼ日
そういう状態を味わえば味わうほど、
また次もできるぞという力になりますよね。
みんなが喜ぶことをしたい、ただそれは、
自分のためなんだけど‥‥。
一代
そうなんだよね。
みんなが喜んでくれることがうれしくて、
自分にいいことがいっぱいある。
うれしい、喜ばせたい、うれしい。
なんだかそのくり返しかな。
ほぼ日
それは、ひとりでいるとできないことですね。
一代
うん、いま話しててもそうなんだけど、
わかってくれると、うれしいの。
「こいつなに言ってんだ?」
という顔されちゃうと私は、
「そうだね、ホントになに言ってんだろ?」
って反省をするんだけど、
でもね、わかってくれる人は
わかってくれるんだよね。
私がなにを言ってんだか、
自分でもうまく整理整頓できてないことをね、
ちゃんと聞いて
わかってくれる人はわかってくれるんだ。
それが全部、うれしさの元になる。
次のアイディアややる気が
ボンボンボンボン出てくるんだね。
ほぼ日
わかってくれたり、喜んだり。
人がうれしがることが、いちばんいい。
一代
働いて、暮らしていくって
そういうことなんだと思うよ。
震災前から、うちは
小学校の子どもたちといっしょに、
牡蠣むき大会をやらせてもらってました。
地元であっても、牡蠣を触ったことない子が
いっぱいいるの。
だから、この機会に親しんでもらおうと思ってね。
最初、子どもたちは
なかなかうまくむけないんだけど、
何個かむいているうちに、
間違って、カパッと開けれる子がでてくるの。
そうすっと、みんな寄って来て
「おおーっ!」って騒ぐのね。
その子は得意げに
「俺がむいたんだ」みたいな感じで見せる。
そして、必ず、
「次もきれいにむきたい」と思ってむくわけよ。
これは何事にも通じることだよなと
私は思ってる。
ほかの子だって「あの子みたいにむきたい」と、
必死になる。その状況が、すごいの。
牡蠣はボロボロなんだけど、
みんなが「褒められたい」と思う。
引率の先生がたが、毎回
「授業にもこの態度がほしいですね」
と言うくらいに。
ほぼ日
夢中なんですね。
一代
貝をきれい開けたいっていう、
そのことだけに、夢中になる。
これは、人間の仕事の、原点かもしれない。
私はそう思います。
(つづきます)
2013-08-21-WED
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN