楽しきこともなき人生に、 いかがですか、ご馳走は。  堺雅人さんと、満腹ごはん。
第11回 秘密の焼きそば。
糸井 堺くんがおにぎりを握るのがうまいっていうのは
やっぱり褒められる場所ですよね。
ああいうのは、監督とかわかってくれるのかしら、
「うまいですね」みたいな。
いや、あんまり‥‥。
糸井 そういう会話はないんですか。
監督に、おにぎりは褒められてなかったな。
糸井 そうですか。
でも32歳の監督が、
なかなか人を褒めるのは難しいですよね。
下から上に褒めるわけでしょう、つまり?
「お父さん、偉いね」みたいなことでしょ。
(笑)嫌ですね。
糸井 「きたろうさん、演技うまいですね」
みたいになっちゃうでしょ。
きたろうさんもそうだし、生瀬さんもそうですけど、
やりたがるのを抑えるほうに、抑えるほうに
監督は動いていましたね。
思い出しましたが、プチトマトのシーンは、
アドリブでした。
糸井 あ、ありましたね。
頼まずにあれをやりたがる人なんですよね、
きたろうさんは。
糸井 頼まずに、はいはいはい。
「普通に食え」って言ってるのに。
糸井 あれはやっちゃった、やっちゃったのね。
(笑)やっちゃった系ですね。
糸井 でも、あのくらいはあっていいんだよね、
お客さん的にはね。
禁じて禁じて吹き出すものはOK、
っていうことなんだろうね。
(料理を見つめて)
うーん。もうちょっと食べようかな、
ちょっとペースが掴めないな。
── これから唐揚げと、焼きそば2種類、
デザートも来ますよ。
もうキッチンでは麺を‥‥なにかしています。
糸井 音とか、ジャージャー言わないのね。
飯島 それは今からです。
まず、アサリを蒸してたんですけど、
その汁を麺に吸わせてから、
ごま油とニンニクで炒めて。
パスタの話してるみたいだね。
焼きそばなんだね。
糸井 焼きそばって、ところで、何、あれは?
ラーメン?
飯島 ソース味の焼きそばっていうのは
もう「焼きそば」としか言いようがないですよね。
中国のものとも思えないですよね、
あのソースの感じが。
糸井 ラーメンの麺と何が違うんでしょうね。
飯島 だいたい一般的には蒸した麺に油をまぶして、
パックして売ってるんですけど、
今日はラーメンの麺を茹でて、
それで作ってみました。
へえ!
糸井 え? 今日は、
焼きそばの麺じゃなくて、
ラーメンの麺なんですか。
飯島 はい。
糸井 それはイコールでいいんですか。
飯島 はい、多分。
糸井 本当ですか(笑)。
飯島 私もそれについては悩んでたんです。
製麺所に焼きそばの麺を売ってるんですけど、
生もあって、蒸して油をまぶしたのもあって。
で、蒸したところがちょっと違うんですけど、
もとは同じでした。
糸井 たしかに焼きそばの麺を
ラーメンに使ってみたくなるね。
でもなんか過剰に黄色い気がするんだ、
市販の焼きそばの麺は。
飯島 確かにそうですね。黄色いですね。
でも、広尾の中華屋さんで、
この間何気なく食べた焼きそばが
すごくおいしかったんで、
「この麺はなんですか」って訊いたら、
「このラーメンと同じ麺だよ」って言われて。
同じのを!
飯島 なるほど、そうかと思って、
ただ製麺所の麺は手に入り難いので
『LIFE』では、
一般的に「焼きそば」として
売られている蒸した麺を使う予定です。
糸井 ところで切り干し大根について
一言も述べてなかったんですけど、
おいしいです(笑)。だしが効いてて。
すごくあっさりしてますよね。
糸井 流れの中で食べる量は少なかったんですけど、
おいしいです。
これだけでご飯いけますね。
「役者はミョウガを食べると、
 台詞を忘れるから、食べない」って、
佐藤浩市さんが現場でおっしゃってたんですけど、
いろんなタブーがあるんですね、俳優って。
糸井 ミョウガは忘れるっていうのは言われるよね。
うん。あと、大根は食べない、
ていう人もいるし。
糸井 大根役者?
そういうことか。
食のタブーってあるのかな、他に。
‥‥おっとっとっと。
来た、来た、来た。
糸井 これは!
アサリの!
糸井 いただきます!
はい、いただきます!
糸井 焼きそ〜ば(「そ」にアクセント)!
── 焼きそ〜ば(「そ」にアクセント)?
(気にしないで)
すごい! なんかさっぱりしてて。
糸井 ね!
焼きそばという飯島さんの空間が
埋められちゃったね。堺くんのせいで。
(笑)そうか、ついに。
無心に打った球だったんですけどね。
糸井 打った球が、
心臓に当たっちゃいましたよ。
どやねん。どないだっ。
おいしい!
飯島 アサリ味です。
糸井 中国に来たみたい!
飯島さんの完成形ではないかもしれませんが、
始まりの焼きそばっていうことで、
いいんじゃないですか!
糸井 うん、うん、うん。
旨い。旨い、旨い。
この、もやしの加減がまた絶(ゼツ)ですな。
うん。うみゃい。
立派なアサリですね。
糸井 アサリね。これアサリ。
ディス イズ アサリ!
── (食べながらほんとによく喋るなぁ)。
糸井 アサリ。日本語で言ってみよう。
あさり。あさり(笑)。
俺、うるさいっ。
(静かに)これ、うまいですね。
糸井 うん。更にこれを改良する意思があるわけでしょ。
飯島 ラーメンの麺は大丈夫ですか。
全然、なんの違和感もありません。
飯島 私、焼きそばが好きなあまりに、
「もうちょっと焼きそばに
 敏感になったほうがいいんじゃないか」って
言っちゃったりするんです。
焼きそばに敏感に(笑)。
飯島 どんだけ焼きそば好きなんだって。
いやいやいや。
これ、ぜんぶ食べちゃっていいんですか。
糸井 どうぞ。
これ、旨いなぁ。
糸井 こっから更に進化していくんだと思うと
恐ろしいね。どっちに行くんだろう。
── これを進化させるのではなく
『LIFE』はソース焼きそばでいきたいと。
糸井 これ、じゃあ、秘密の焼きそばね。
飯島 はい、秘密の。


(つづきます)

2009-08-31-MON


(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN