糸井 |
やりかけの仕事が山ほどあると思うんですけど、
今村さんの仕事は、
今後、どんなふうに転がってくんでしょうね?
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今村 |
今年から私は
立命館アジア太平洋大学の副学長という立場に
なりましたので、
「これから、この大学をどうしていくか」
ということに対して、責任を負います。
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糸井 |
はい。
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今村 |
ですからいま、いちばんあたまにあるのは
「APUの開学20周年、
つまりハタチをどう迎えるか」ということです。
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糸井 |
なるほど。
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今村 |
今年で14年目のAPUのビジョンは、
世界から
ひとつの「国際大学のモデル」
と見做されるようになりました。
それは、学生も含めて、教員・職員が、
みんなでがんばったからだと思うんですが
これが、この先も続くという保証はない。
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糸井 |
はい。
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今村 |
あの別府の山のてっぺんに、
これからも世界中から学生に来てもらうためには、
もっと考えに考えないと駄目だな、と。
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糸井 |
14歳の中学生であるAPUが
目線の向こうにピッカピカな未来が見えてないと
冒険できなくなるし、
冒険ができなくなったら、おもしろくない。
おもしろくなければ、誰も手伝ってくれない‥‥。
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今村 |
いつ飽きられてしまうのかと、危機感あります。
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糸井 |
まったく同じだなあ、ぼくも。
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今村 |
ひとつ、具体的なことを言いますと、
APUという大学を
「卒業生によって支えられる大学」にしたいと
思っているんです。
先ほども言いましたように、
日本の大学は
収入の「7~8割」を学費に依存しています。
つまりは
「お父ちゃん、お母ちゃんのお金」です。
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糸井 |
ええ、ええ。
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今村 |
一方で、アメリカの大学では
収入に占める学費の割合は「2~3割」です。
のこりの7割は「寄付・基金運用」なんです。
日本では、この構造がまだ実現できていない。
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糸井 |
なるほど。
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今村 |
つまり、学費に頼る収入構造ではなくて、
卒業生たちが
「APUに世話になった」
「APUがあったから今の自分がある、
だから母校を助けたい」
と言って、経営が回るような学校にしたい。
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糸井 |
「もっとよくしてよ」っていう思いも
込められますもんね。
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今村 |
そういうことです。投資としてでも、いいんです。
それが実現できる大学になれたら、
もう一歩、次の飛躍があるんじゃないかなと。
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糸井 |
うん、うん。おもしろいなあ。
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今村 |
いま、世界の名だたる大学が
インターネットで、授業をやってますよね。
ようするに、「無料」で。
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糸井 |
ああ、そうなんですか。
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今村 |
これはもう、大変なことです。
つまり、世界の一流の授業を
インターネットで無料で受けることができるのに
ぼくたちは
別府の山の上まで来いって言ってるわけですから。
「何で行くの?」って話になるんです。
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糸井 |
そうですね。
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今村 |
わざわざ「大学という場所」に
自分の身を置いて、そこで何をするのか。
そう問われたときには、やはり、
「多文化という環境に身を置く」という
APUの特徴が
ひとつの「通う意味」にってくると思います。
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糸井 |
なんというか、「人格」に及ぶような時間が
あの大学には流れてますもんね。
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今村 |
寝て起きて生活するなかに、学びがある。
理不尽だったり、
意味のわからないことにも直面するんだけど、
それが、大事なことなんです。
ですから、そういう環境を磨いていくことが
まずは重要なことだと思っています。
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糸井 |
なるほど。
それでは、時間も迫ってきてるみたいなので、
会場のみなさんからの質問、ありますか?
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男性 |
大分という「地理的な不利」を
どのようにして乗り越えてらっしゃるのかということと、
同じような大学が
たくさんできればいいと思ってらっしゃるのか、
それとも、
特別な存在でいるために同じことをやられたら困るのか、
そのへんのことを、教えてください。
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糸井 |
みごとに、いい質問ですね。
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今村 |
最初の質問については、
ちょっと憎たらしいこと言いますと(笑)、
オンキャンパス・リクルーティングと言うんですが、
つまり、別府まで来てくれるんです。
年間数百社の企業が、うちの学生を採用したくて。
‥‥ちょっと、憎たらしいでしょう?(笑)
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糸井 |
そうとう憎たらしいですね(笑)。
で、もうひとつの質問も、おもしろかったです。
「自分だけのものにしたいか、
それは困るのか」
なんか、ぼくにも訊かれたような気がして‥‥。
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今村 |
じゃあ、どうぞ。
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糸井 |
それは「調節してます」ですね。
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会場 |
(笑)
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糸井 |
つまり「両方」なんです。
ほぼ日では
みんなにわけることってけっこう多いですけど、
でも自分で汗水たらして考えたことって、
本当にやるとしたら難しいぞってことばっかり、
なんですよね。
今村さんは?
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今村 |
ええと、さっきより憎たらしいことを言いますと、
「マネできるものなら、やってみな」と(笑)。
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会場 |
(笑)
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今村 |
だってもう、本当に大変だったんですから!
少なくともぼくは勧めないですね、
「同じような学校をつくりたい」と言われたら。
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糸井 |
そうですよね。
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今村 |
あんなことしたって給料は同じですから、
やっぱり「好きだから」やったんでしょうけど。
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糸井 |
毎週毎週、福島に入ったりして
傍から見たら
たいへんな思いをして犬猫を保護している
ミグノンの友森さんという人が
「何で、そこまでしてやるんですか?」
と聞かれて
「好きだからかなぁ」って、言ったんです。
それ、「かなぁ」まで含めて
「答え」であるような気がするんですよね。
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今村 |
ああ‥‥なるほど。
「好き」って、
はっきり言い切れる理由がないですものね。
恋愛でも何でも同じで
「美人だから」「やさしいから」「収入があるから」
というのは、一面でしかないというか。
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糸井 |
うん、そうですね。
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今村 |
そこには「好きだから」という気持ちしかないし、
「はたらく」もたぶん、同じだと思う。
「何でこの企業に入りたいんですか」
と聞かれても
「いい会社だから」では
きっと、説明できないと思うんですよ。
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糸井 |
やっぱり、今村さんって「教育者」ですね。
答えに「寛容」と「厳しさ」が両方、入ってる。
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今村 |
そうかなぁ(笑)。
いや、今日、どうしようかと思ってたんですよ。
だって私、「就活」してないし‥‥。
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糸井 |
でも、今村さんだけですよ。
対談の前に
「どういう話しましょうか」みたいなことを
まったく訊かなかった人は。
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今村 |
え、そうですか(笑)。
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糸井 |
まあ、訊かれたとしても
「ぼくも、あまり考えてないんですよね」って
言うしかないんですが‥‥一言も訊かない。
だから、急に外国とか行けるんだと思いました。
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今村 |
あはは(笑)。
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糸井 |
では、そろそろ、このへんで終わりましょうか。
今日は、おもしろかったです。
ありがとうございました。
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今村 |
こちらこそ、ありがとうございました。
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会場 |
(拍手) |
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<おわります> |