立命館アジア太平洋大学(APU)副学長・今村正治+糸井重里
はたらく場所はつくれます論。


第7回
食っていくだけじゃ、イヤだ。

糸井 思うんですが、
「はたらきたい」という言葉にたいしては
みんな、どうしても
「就活」のことばかり頭に浮かべるんです。

つまり、
「うまいこと就職するには」みたいな話に
「はたらく」という言葉が
ちいさくまとまり過ぎてるなと思っていて。
今村 ええ、ええ。
糸井 ぼくが「はたらきたい」というテーマを考えたのは
みんながみんな同じ色のスーツを着て
ぞろぞろと
どこかの会社へ入っいくのを目撃したときに、
「こういう、
 同じような人ばっかりいる会社に入って
 いいんだろうか」
と、思ったからなんです。
今村 なるほど。
糸井 つまり、
「みんなと同じ服を着て、よく言うこと聞いて、
 みんなと同じような答えをする人を
 どんどん面接して入れちゃうような企業って、
 あやうくないか?」と。

学生のほうにしても
「私は逆らいませんよ」という顔をして
歩いてるのを見て、
そんな国になったらイヤだと思いました。

ようするに、「はたらく」って
もうちょっとおもしろいことなんじゃないのと
思ったんです。
今村 ええ、ええ。
糸井 みんなが「食っていくこと」を、
ずいぶん難しいことのように言いますけど、
「食っていくだけ」を考えたら、
案外、それはできることなんだと思います。

でも、そこには
「食っていくだけじゃイヤだと思うのが
 人間なんだ」
という、もっと大きな問題が潜んでいて。
今村 ええ。
糸井 今村さんのお話を聞いていて思ったのは
「はたらく」って
「自分が何をするか」ということに組み換えて
考えていくことなんじゃないかなあと。
今村 なるほど。
糸井 「はたらく」というのは
「仕事をつくることなんだ」というふうに、
僕は、自然と思っていました。

たとえば毎日、家の前を掃除している人がいて、
それは、お金にはならないけど、
「ありがとう」って思われること自体が
「はたらく」じゃないですか。

APUの「RA」の子たちもそうでしょうけど、
「はたらく」って、
「給料」の問題だけじゃないんですよね。
今村 うん、うん。そうですね。
糸井 でね、ぼくは、これまで
いろいろと仕事を「つくって」きたんですけど、
何でそうできたかって言うと、
「ひとまず、もうけのことは、あとから考える」
というやりかたをしてきたからなんです。

そして、これからの時代は、個人も法人も
「はたらきかた」って
そうなっていくんじゃないかなあと思ってます。
今村 うん、うん。

ぼく、人から「好きなことしかしない」って
言われ続けてきたんですけど、
自分なりに言い訳すると
いちばん大事なことをしてるつもりなんです。
糸井 ああ、なるほど。
今村 誰かとまったく同じ仕事をしているだけでは
自分がはたらく意味がないと思って。

だから、人とはちがう目線で考えて
「これは大事だから、やろう」って言っても
実際、とまどう人も、いたんですね。
糸井 ええ。
今村 でも、そうやって仕事をずっとやってきて、
「自分の力でやってるんだ!」
という自負も多少はあったんですけど、
でもそれって、
理解してくれる人たちや、
おもしろがってくれる人たちがいなければ
できなかったということに、そのうち気づいて。
糸井 そうなんでしょうね。

それは「はたらく」を考えるというときに、
すごく大きな要素ですよね。

つまり、
「おまえがそう言うんだったら、
 そんなに賛成じゃないけど、手伝うぞ」
という人がいるかどうか。
今村 あるいは「やらせとけ」とかね(笑)。
糸井 パソコンに向かってパタパタやってたり
真剣な顔して帳面めくってたり、
そんなことばかりが仕事だと思われがちだけど、
実は
「おまえのやってること、おもしろいな」って
言ってもらうこととか、
そういうことが、ぜんぶ「仕事」なんですよね。
今村 最近では、東北支援にも少し関わっていますが
どうしてはるばる、
京都にある大学から東北へ行くのかと‥‥。
糸井 仕事を増やすわけですもんね。
今村 でも、学生たちはやっぱりよろこんで
行ってくれるんです。
糸井 それこそ「利益は関係ない」どころか、
「持ち出し」になる可能性だってある。

その上で「得たものは、何?」と聞かれたら、
「自分の中に生まれた満足だ」と言えます。

お金を使っても得られないことが、得られる。
それも「はたらく」の重要なかたちですよ。
今村 「100万円あげるから、黙って座ってろ」って
言われれても、苦痛なだけですもんね。
糸井 いやですよ。
今村 そういう意味では
ぼくたちの関わっている「教育」という仕事も
すぐには結果が出ない。

それこそ10年、20年、30年‥‥
つまり
「後の世代に未来を託す仕事」と言いますか。
糸井 ええ。
今村 でも、そこが、おもしろいところなんです。

<つづきます>



2014-03-12-WED



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