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糸井 |
APUが成功したのって、
これまで立命館大学がやってきたことの
信用やブランド力が
まず、前提としてあったと思うんです。
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今村 |
ええ、たしかにそうですね。
「なに言ってんですか?」となりますから。
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糸井 |
とは言え、
APUというビジョンの大きさからしたら、
これまで築いてきた信用でさえも、
「ちいさなもの」だとも、言えるわけで。
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今村 |
そうですね。
だから、新しいことをやるというときには
何かがおもしろくないと‥‥
つまり、一人は必ず味方がいてくれないと
やれないなあと思います。
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糸井 |
一人の、味方。
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今村 |
はい。「それ、おもしろいよ!」って
言ってくれる人がいないと、
はじめの一歩を、踏み出せないんです。
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糸井 |
そうか、じゃあ、
自分がおもしろいことを思いついたら
まずは誰かに言ってみることですね。
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今村 |
そうだと思います。
逆に「相談してくれればノーと言えたのに」
というようなことだってあるし。
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糸井 |
なるほど。「誰かに言ってみる」こと。
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今村 |
上司と部下の関係でも、「言える空気」が大事。
立命館の場合は、それがあったんですよね。
教員と職員の関係がフラットだったってことが、
けっこう大事な要素だったと思います。
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糸井 |
ぼく、その昔に出した
『インターネット的』という本のなかで
「フラットであること」が
すごく重要なんじゃないかと書いたんですが、
立命館の「フラットの物語」には、
また「別のエピソード」が、あるんですよね。
仕事というのは
「お金をもらうことだけじゃないよ」という
素晴らしいエピソードが。
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今村 |
ええ、立命館大学には
「先輩学生が後輩学生の面倒を見る」
という仕組みが、古来からありまして。
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糸井 |
古来から(笑)。
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今村 |
私自身、立命館大学の卒業生なんですが、
私の学生時代にもありました。
で、学生が自治的に行っていたその伝統を
「制度化」してるんです。
「オリター制度」と呼んでるんですけど。
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糸井 |
オリター、ですか。
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今村 |
「オリエンテーター」という言葉が起源だとか
いろんな説があるんですけど
毎年800人弱の学生が
オリターとして半年くらい、新入生の面倒を見るんです。
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糸井 |
立候補制なんですよね。
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今村 |
はい。
で、先輩に面倒を見てもらった新入生が感激して、
次の年には立候補して‥‥と、つながっていく。
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糸井 |
何の面倒を見るんですか?
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今村 |
学生生活全般、よろず、いろんな面倒を。
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糸井 |
たとえばぼくが
地方から出てきて立命館大学に入って
「何しようかな」と
キョロキョロしているときに、
オリターが
そっと近づいてくるわけですね(笑)。
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今村 |
そう、1年生のクラスのまわりを
いつもウロウロしています。
2年生や3年生のオリターが
「じゃあ今度、
みんなでクラスコンパやろうよ」とか提案したり、
具体的に勉強の相談に乗ったり、
本当に、ありとあらゆる相談に乗るんです。
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糸井 |
なるほど。
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今村 |
で、大学を卒業したら、
今度は「キャリアアドバイザー」という人になって
後輩の就職の面倒を見に来てくれる。
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糸井 |
‥‥すごいでしょう?
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今村 |
とことんまで、関わってもらうんですね。
で、その仕組をAPUでも取り入れました。
APハウスという学生寮にいる
「レジデント・アシスタント(RA)」が
それなんですけど。
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糸井 |
ええ、ぼくも、会いました。
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今村 |
大学に隣接しているAPハウスには
いまは約1200人の学生が住んでいるんですが
当初は「420名」収容の寮からスタートしました。
で、そのうち「400名」ぐらいが留学生。
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糸井 |
つまり、ほとんどが留学生。
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今村 |
そう、そんな寮を、どうやって運営しようかと。
ふつうの学生寮には
「寮母さん」がいるんでしょうが、
400人の外国人と一緒に住み込みで暮らしたら
まあ、3日ともたないんじゃないかと。
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糸井 |
そうでしょうねぇ。
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今村 |
そこで取り入れたのが、
オリター制度の考えかたなんです。
1ヶ月2万円の奨学金を給付して
先輩学生が入寮学生の面倒を見る。
キャンパス管理のおじさんたちがいて、
大学の学生部があって、
アシスタントする学生がいる。
この三位一体で寮を管理しようと。
しかもRAの学生たちは
どうやって寮を運営するかという仕事をとおして、
先輩学生たちも、すごく成長するんです。
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糸井 |
宗教から、食文化から、ゴミの出し方まで
ぜんぜん考えかたのちがう人がいる。
当たり前だと思ってやってきたことが、
他の人にとって「迷惑」だったり。
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今村 |
寮には「シャワーブース」があるんですね。
肌を見せることを忌避する人もいますから、
ぜんぶ個室のシャワーなんですけど、
開学したころは、
「ここでウ◯チをしないでください」
という貼り紙を‥‥。
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糸井 |
つまり「え、ダメなの?」と。
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今村 |
そういうようなことが、本当に起こるんです。
つまり彼らは、そこから悩みはじめる。
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糸井 |
文化がちがうって、そういうことなんですね。
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今村 |
ですから、APUが持っている
「異質性に求められる包容力」は並大抵ではない。
ほうっておいたら、
アイデンティティーが崩壊するようなできごとに
日々、出会うわけですから。
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糸井 |
ええ、ええ。
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今村 |
これまで20年くらい生きてきて培ってきた
自分の価値観を問われることって
きっと、ものすごい経験なんだと思います。
でもそこが、
APUのいちばんいいところだと思います。
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糸井 |
そういう経験をした人が成長して、
社会人となってビジネスなんかをやるときには
「こういう人もいるんだ」
ということを、理解した人になりますよね。
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今村 |
それって「未来の力」でもあると思うんです。
自分にとってイヤなものを認める、
受け入れる力というのは、APUの宝ですから。
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糸井 |
そういう、いろんなことについて
「私に何でも相談してください」という先輩の写真が
フロアごとに貼ってあるんです。
「フラット」ということは、
「リーダー」とは、ちがうんですよね、きっと?
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今村 |
リーダーというわけじゃないですね。
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糸井 |
なんだろう、「楽しいお世話役」みたいな?
なにしろ立候補して選ばれると、
学生たち、すごくうれしいらしいんですよ。
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今村 |
英語と日本語、両方できなきゃいけないんで、
けっこう難関なんですけど。
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糸井 |
いろんな国の学生が、RAをやっていました。
で、思ったんですが、
彼らのやってることこそ「はたらく」なんです。
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今村 |
ああ‥‥そうですね。
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糸井 |
奨学金の「月2万円」だって
ほしくないわけじゃないと思うんです。
でも、それよりも
「うれしいから、はたらく」んですよ、きっと。 |
今村 |
うん、そうなんでしょうね。
名誉というか、
「はたらきがい」としてやっているんだと思います。
だって、
これが「アルバイト」だと思ったら‥‥。 |
糸井 |
最悪ですよ。
毎日毎日の仕事で「月2万円」なんて。
つまり、
「利益を目的にしてはたらく」こととは
ちがう「はたらく」なんです。
<つづきます> |