記念館の中庭は広く草が敷き詰められ、
二本の木が寄り添って立っています。
壁に沿って設置されたベンチで一休みしながら、
これまで見た展示を思い出す、
気持ちのいい空間になっています。
糸 井 | ここでドアを開けるわけだ。 閉じた中で開くんですね(笑)。 |
中 村 | そうそう。いっぺん、 わりと暗いところを通り抜けて、 ぱぁっと明るい中庭に出る。 |
糸 井 | 中庭に木が。 この木はなにかあるんですか。 |
中 村 | 桂の木なんですけれどもね、 この記念館を象徴するような シンボルツリーが欲しかったんです。 2本、寄りそって立ってる双樹を 探したんですよ。 |
糸 井 | あ、本当だ。2本。 |
中 村 | 伊丹さんと宮本さんが 寄りそって立ってるイメージに しようと思ってね。 |
糸 井 | ああ〜! |
中 村 | それで、なかなかいい形の樹がなくて、 何種類かのなかから選りに選って決めたんです。 桂はかわいいしね、この葉っぱが。 新緑の時はハート型でね。 |
玉 置 | 宮本さん、とても喜んだんですよね、 この木に関しては本当にすごく。 |
糸 井 | いわば生きた彫刻ですね。 |
中 村 | そうです、そうです、 記念館のシンボルなんですね。 |
玉 置 | 宮本さんが最初に 「森の中にあるイメージ」 ということをおっしゃって、 でも敷地として提供できる土地には 限りがあるもんですからね、 そんな、森の中にって言われたら大変だなと思って。 |
糸 井 | はいはい。森を作るわけにいかないですもんね。 |
玉 置 | ええ、そうなんです。 でも中村さんがこうしてくださった。 |
糸 井 | 黒くて明るいし。いろいろ不思議ですよね。 あ、そうか、裏地(中庭側の壁)が白なんだ。 |
中 村 | そうそう(笑)。 なんとなく伊丹さんって 黒い色っていうイメージがあるんですね、 ぼくには。 他の色、ちょっと思いつかないんです。 赤は結構好きだったみたいだけど、 クルマなんかもそうだけど、 建物を赤にするわけにはいかないし。 |
玉 置 | 赤は縁起がいいって言ってね。 |
糸 井 | この庭の植生は、雑草チックですよね。 |
中 村 | そう、あのね、本当はね、 シロツメクサなんですけど、 虫にやられちゃうんですよ、ある時期になると。 それで、はげちゃって、 今はだいぶもどって、こうなってるんです。 |
糸 井 | いいですよね。 |
中 村 | 原っぱみたいな、 野原みたいな感じにしたいんで。 あんまりきれいな、 ゴルフ場の芝生みたいにはしたくないんです。 |
糸 井 | ええ。 |
玉 置 | あと、ところどころにタンポポがあって。 |
中 村 | そうですね、春先から タンポポが咲きだします。 |
糸 井 | まだ葉っぱが残ってますよね。 |
中 村 | そうですね。 タンポポは宮本さんからの 数少ない注文のひとつでした。 |
糸 井 | この緑地はすごくシンボリックだなあ。 この木があって、野原のようで、 これはいいですねえ。 |
玉 置 | あと、運営する側で言うと、 すごくありがたいのは、 中庭をはさんでシンプルに見渡せるんで、 スタッフみんなお互いに手伝いに行ける。 |
糸 井 | あ、なるほど。 |
玉 置 | こっちが混んでるようだと 向こう1人にして応援したり。 で、あちらが混んでてこちらがいないと、 もうサッと向こうへ行って。 で、お客さんが出てくると、 パッと戻ってくるっていう感じで。 |
糸 井 | なるほど、なるほど。 きっと、そういうつもりで設計なさったんですよね。 |
中 村 | そうです。そういうつもりでした。 今はもう1つは、暖冷房の費用が できるだけ掛からないように設計しました。 かなり効率がいいんですよ。 コンクリートの外側で断熱してるから。 すごく燃費がいいんです。 |
糸 井 | もともとこういう回廊型の建築っていうのは、 そういうよさがあったんですかね。 |
中 村 | はい、あるんです。 ここにあるのは奥行きが185ミリという 最小限の幅のベンチです。 展示をひととおり見学してきた人たちが、 「伊丹さんて、ほんとうに多才な人だったんだね」 みたいな感じで このベンチに腰かけてあらためて 想い巡らす時間が持てるようにしたんです。 思惑どおりみんな、よく腰掛けてくれて、 しばらくぼんやりしてくれていますね。 |
糸 井 | ああー、おもしろいなあ。 |
併設された「カフェ・タンポポ」では、
記念館の形を模して作られたケーキや、
愛媛県特産のみかんのジュースをはじめ、
充実したメニューが楽しめます。
壁には伊丹さんが描いた映画のポスターの原画や、
お父さんの万作さんが
伊丹さんが生まれたときに描いたという絵も
展示されています。
玉 置 | ここは「カフェ・タンポポ」っていう名前で。 『タンポポ』のポスターの原画を 展示しているんです。 伊丹さん、狸穴のマンションの2階で寝そべって これを描いていたんですけれど、 ちょうど渡辺謙さんを描いてる時に、 「二枚目は描きにくいなあ、難しいなあ」って。 個性的な顔はすごく描きやすいんですって。 |
糸 井 | ああ〜。 |
玉 置 | でも、よく描けてますよね。 そしてこちらが、伊丹万作さんの絵です。 |
糸 井 | ああ、ここに。 |
玉 置 | 僕が伊丹さんと知り合った頃は、 松山では伊丹さんっていうのは 伊丹万作の息子だったわけですね。 けれど、もう『お葬式』の映画の頃には それが逆転して、十三のお父さんが万作さん、 というふうになってたんですけど。 地元ですから、 万作さんのものもなにかひとつ展示したいと思い、 中村さんと宮本さんに相談したところ、 伊丹十三さんの生まれた時に描いた 万作さんの絵を、飾ることになりました。 |
註: この絵は、宮本さんの話によると、 万作さんが亡くなった時、 キミ夫人が助監督だった佐伯清さんに 形見分けとして差し上げたそうです。 その後何十年もたって佐伯さんから 「この絵はタケちゃんが持っていた方がいい」 と渡されたそうです。 |
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カフェでは、おいしいコーヒーやお茶と一緒に、 記念館の形を模したオリジナルケーキや、お土産にも最適な十三饅頭をいただけます。 また、愛媛の名産のみかんジュースの飲み比べもできます。 |
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(つづきます) | |
2009-10-16-FRI |
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図版:トリバタケハルノブ