やあ、いらっしゃい ― 中村好文さんと歩く、伊丹十三記念館

糸井重里が、松山の伊丹十三記念館を訪れました。設計のみならず、キュレーターとしても活躍した建築家の中村好文さんと、館長の玉置泰さんの案内で、じっくり、見て回ります。どうぞ、ごいっしょに。

第9回 中庭〜カフェ・タンポポ

伊丹十三記念館見取り図

中庭

記念館の中庭は広く草が敷き詰められ、
二本の木が寄り添って立っています。
壁に沿って設置されたベンチで一休みしながら、
これまで見た展示を思い出す、
気持ちのいい空間になっています。

糸 井 ここでドアを開けるわけだ。
閉じた中で開くんですね(笑)。
中 村 そうそう。いっぺん、
わりと暗いところを通り抜けて、
ぱぁっと明るい中庭に出る。
糸 井 中庭に木が。
この木はなにかあるんですか。
中 村 桂の木なんですけれどもね、
この記念館を象徴するような
シンボルツリーが欲しかったんです。
2本、寄りそって立ってる双樹を
探したんですよ。
糸 井 あ、本当だ。2本。
中 村 伊丹さんと宮本さんが
寄りそって立ってるイメージに
しようと思ってね。
糸 井 ああ〜!
中 村 それで、なかなかいい形の樹がなくて、
何種類かのなかから選りに選って決めたんです。
桂はかわいいしね、この葉っぱが。
新緑の時はハート型でね。
玉 置 宮本さん、とても喜んだんですよね、
この木に関しては本当にすごく。
糸 井 いわば生きた彫刻ですね。
中 村 そうです、そうです、
記念館のシンボルなんですね。
玉 置 宮本さんが最初に
「森の中にあるイメージ」
ということをおっしゃって、
でも敷地として提供できる土地には
限りがあるもんですからね、
そんな、森の中にって言われたら大変だなと思って。
糸 井 はいはい。森を作るわけにいかないですもんね。
玉 置 ええ、そうなんです。
でも中村さんがこうしてくださった。
糸 井 黒くて明るいし。いろいろ不思議ですよね。
あ、そうか、裏地(中庭側の壁)が白なんだ。
中 村 そうそう(笑)。
なんとなく伊丹さんって
黒い色っていうイメージがあるんですね、
ぼくには。
他の色、ちょっと思いつかないんです。
赤は結構好きだったみたいだけど、
クルマなんかもそうだけど、
建物を赤にするわけにはいかないし。
玉 置 赤は縁起がいいって言ってね。
糸 井 この庭の植生は、雑草チックですよね。
中 村 そう、あのね、本当はね、
シロツメクサなんですけど、
虫にやられちゃうんですよ、ある時期になると。
それで、はげちゃって、
今はだいぶもどって、こうなってるんです。
糸 井 いいですよね。
中 村 原っぱみたいな、
野原みたいな感じにしたいんで。
あんまりきれいな、
ゴルフ場の芝生みたいにはしたくないんです。
糸 井 ええ。
玉 置 あと、ところどころにタンポポがあって。
中 村 そうですね、春先から
タンポポが咲きだします。
糸 井 まだ葉っぱが残ってますよね。
中 村 そうですね。
タンポポは宮本さんからの
数少ない注文のひとつでした。
糸 井 この緑地はすごくシンボリックだなあ。
この木があって、野原のようで、
これはいいですねえ。
玉 置 あと、運営する側で言うと、
すごくありがたいのは、
中庭をはさんでシンプルに見渡せるんで、
スタッフみんなお互いに手伝いに行ける。
糸 井 あ、なるほど。
玉 置 こっちが混んでるようだと
向こう1人にして応援したり。
で、あちらが混んでてこちらがいないと、
もうサッと向こうへ行って。
で、お客さんが出てくると、
パッと戻ってくるっていう感じで。
糸 井 なるほど、なるほど。
きっと、そういうつもりで設計なさったんですよね。
中 村 そうです。そういうつもりでした。
今はもう1つは、暖冷房の費用が
できるだけ掛からないように設計しました。
かなり効率がいいんですよ。
コンクリートの外側で断熱してるから。
すごく燃費がいいんです。
糸 井 もともとこういう回廊型の建築っていうのは、
そういうよさがあったんですかね。
中 村 はい、あるんです。
ここにあるのは奥行きが185ミリという
最小限の幅のベンチです。
展示をひととおり見学してきた人たちが、
「伊丹さんて、ほんとうに多才な人だったんだね」
みたいな感じで
このベンチに腰かけてあらためて
想い巡らす時間が持てるようにしたんです。
思惑どおりみんな、よく腰掛けてくれて、
しばらくぼんやりしてくれていますね。
糸 井 ああー、おもしろいなあ。



伊丹十三記念館見取り図

カフェ・タンポポ

併設された「カフェ・タンポポ」では、
記念館の形を模して作られたケーキや、
愛媛県特産のみかんのジュースをはじめ、
充実したメニューが楽しめます。
壁には伊丹さんが描いた映画のポスターの原画や、
お父さんの万作さんが
伊丹さんが生まれたときに描いたという絵も
展示されています。

玉 置 ここは「カフェ・タンポポ」っていう名前で。
『タンポポ』のポスターの原画を
展示しているんです。
伊丹さん、狸穴のマンションの2階で寝そべって
これを描いていたんですけれど、
ちょうど渡辺謙さんを描いてる時に、
「二枚目は描きにくいなあ、難しいなあ」って。
個性的な顔はすごく描きやすいんですって。
糸 井 ああ〜。
玉 置 でも、よく描けてますよね。
そしてこちらが、伊丹万作さんの絵です。
糸 井 ああ、ここに。
玉 置 僕が伊丹さんと知り合った頃は、
松山では伊丹さんっていうのは
伊丹万作の息子だったわけですね。
けれど、もう『お葬式』の映画の頃には
それが逆転して、十三のお父さんが万作さん、
というふうになってたんですけど。
地元ですから、
万作さんのものもなにかひとつ展示したいと思い、
中村さんと宮本さんに相談したところ、
伊丹十三さんの生まれた時に描いた
万作さんの絵を、飾ることになりました。
  註:
この絵は、宮本さんの話によると、
万作さんが亡くなった時、
キミ夫人が助監督だった佐伯清さんに
形見分けとして差し上げたそうです。
その後何十年もたって佐伯さんから
「この絵はタケちゃんが持っていた方がいい」
と渡されたそうです。

カフェでは、おいしいコーヒーやお茶と一緒に、
記念館の形を模したオリジナルケーキや、お土産にも最適な十三饅頭をいただけます。
また、愛媛の名産のみかんジュースの飲み比べもできます。

(つづきます)
2009-10-16-FRI
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コラム ようおいでたなもし、松山
  伊丹十三記念館のスタッフが、
記念館に来たついでによってもらいたい、
松山近辺の見どころや、おいしいもののお店を
ご紹介します。
第9回 内子エリア(1)

図版:トリバタケハルノブ