伊丹さんのお父さん、伊丹万作さんの出身地で、
伊丹さん自身が高校生時代を過ごした、松山。
温暖な瀬戸内海気候、歴史があり、偉人を多く輩出。
夏目漱石の『坊っちゃん』の舞台としても有名な松山の、
周囲が広く開けた明るい場所に、
伊丹十三記念館があります。
その記念館を、7月末の小雨降る日に訪ねました。
糸 井 | 中村さん、きょうはよろしくお願いします。 |
中 村 | こちらこそ、よろしくお願いします。 もうお昼は、召上りました? |
伊丹十三記念館を設計した、中村好文さん。 |
|
玉 置 | はい、「ことり」にお連れしたんですよ。 (註:この日、伊丹プロダクション社長・ 伊丹十三記念館館長代行であり、以前伊丹十三特集に 登場してくださった玉置泰さんにも、 ご同行いただきました。) |
糸 井 | そう、「ことり」で 「鍋焼うどん」と「いなりすし」を いただきました。 伊丹十三さんもお好きだったんですってね。 |
玉 置 | そうなんですよ。 中村さんも、お誘いすればよかったね、 ごめんなさい、そう思いながらも。 |
館長を代行するのは、以前も「ほぼ日」の特集に出てくださった、玉置泰さん。 |
|
中 村 | ああ、「ことり」でしたか。 松山に来たら一度はあのお店に行かないとね。 |
玉 置 | 以前、中村さんをお連れしたら、 あのお店で使っている鍋焼うどんの 鍋が気に入ったと、 金物屋さんで買って行かれて。 |
中 村 | そうそう。1ダースぐらい買いました(笑)。 スタッフとお昼を食べる時に 便利に使ってますよ。 (註:中村さんの設計事務所・レミングハウスでは、 昼食は毎日、中村さん以下スタッフ全員でくじ引きをし、 買い物係、料理係、片付け係など、係を決めて、 作って食べるそうです。) |
宮本さんも行きつけというお店、「ことり」のうどん。 |
|
糸 井 | これが建物全体の模型ですね。 正方形で、真ん中にぽっと中庭がある。 |
中 村 | ええ。回廊が中庭を取り囲んで 巡るようにしています。 敷地があっけらかんと明るい印象だったので、 外側をいったん閉じて 内側に向かって開くようにしました。 正方形の建物の中に矩形の中庭を入れると 周囲に4つのウイングが生れますよね。 |
糸 井 | はい、はい。 |
中 村 | 入口を入ったところが受付とショップ、 右のウィングが常設展示室と企画展示室。 奥にカフェのウィングがあって、 左のウィングは収蔵庫になっています。 一回り見て、回廊にたたずんで中庭を眺め、 カフェでひと休みしたあとで 最後にショップに来て ミュージアムグッズを買っていただくという、 構成なんです。 |
伊丹十三記念館の模型。 |
|
糸 井 | こんなふうにしようって、 最初に決まるのは、 どういう時なんですか。 |
中 村 | この建物の場合は、 最初に敷地を見に来たときに なんとなく決まりました。 |
糸 井 | この場所に来て? |
中 村 | はい、ここに来てですね。 玉置さんの会社(一六タルト)の本社ビルが すぐそこにあるんですが、 そのビルの3階から、ここの敷地と 周辺の風景を見下ろしながら どういうふうにしたらいいかなと考えましたが、 まずこれは外側に対していったん閉じておいて、 逆に内側に向かって開いたほうがいいだろうと 思ったんです。 閉じた中に、 明るい中庭の空間があるほうがいいかなと。 |
糸 井 | 閉じちゃう。 |
中 村 | 僕は若い頃からヨーロッパの修道院建築、 それもとくに中庭とそれを取り囲む回廊が好きで、 よく見学して歩いたんですが、 中庭と回廊の空間は人の心を内側に向かせ、 思索的にさせるなあと思ってました。 この記念館では伊丹十三という人物に 思いを巡らせてほしいので、 中庭と回廊を作ることはそういう意味でも 効果的だと思ったんです。 |
糸 井 | ああ、なるほど。 そのコンセプトがある程度できてから、 もうちょっと具体的になっていくっていうのは、 結構時間が掛かるものなんですか。 |
中 村 | そうですね。建物には「用途」も「機能」も 「使い勝手」もありますし、 なにより「予算」という条件がありますからね。 思いつきを具体化していくまでには、 高いハードルをいくつも越えなくてはなりません。 それに、大きな声では言えませんが(笑)、 ぼくは住宅の仕事が多いので、 大きな建物に対する勘が あんまりよくないところもあるんです。 |
糸 井 | ああ! これはやっぱり、 中村さんからすると大きい建物なんですね。 |
中 村 | そうですね。今までで一番大きい建物です。 |
糸 井 | でも、住宅のもつ雰囲気がありますよね。 |
中 村 | そうそう。建物としては大きいけど、 なんとなく住宅っぽいんですね。 ヒューマンスケールっていうんですか。 |
糸 井 | それがすごくいいですね。 |
中 村 | 宮本信子さんから最初に言われたのが、 「伊丹さんの家みたいにして」 っていうことだったので、 その希望を叶えてあげたいと思っていました。 |
糸 井 | 中村さんにお願いする側は、 もう既にそんな気持ちが 固まっていたんでしょうね。 |
中 村 | そうかも知れませんね。 けれども、そのあとは、 宮本さんはそういう話はあんまりしないの。 |
糸 井 | しないんですか。 |
中 村 | しないんです(笑)。 玉置さんもあんまりしない。 わりとお任せで。 |
ふだんは個人の住宅や家具を設計されている中村さん。 |
|
糸 井 | 具体的な注文がないのは、ないで、 なかなか建築家としては──。 |
中 村 | 大変ですよね。 なんかかんか注文を出してくれれば、 それなりにやりようはあるんでしょうけど、 それができないのでね。 でも、僕は20代の始めころから 伊丹十三さんのエッセイ の熱烈なファンだったという強みがありました。 |
糸 井 | そこが大きいですね。 |
中 村 | それがもう一番大きいですよね。 だから、この建物で 何をすればいいかっていうのは、 自分の中でははっきりとしたテーマが あったんです。 |
糸 井 | ああ、しちゃいけないこともわかるし。 何をいちばんに 出せばいいかっていうのも わかっていたわけですね。 |
中 村 | 伊丹さんの全ての仕事に通じる、 ある種の遊び心みたいなところとか、 そういうものが出ればいいんだなって。 と、前置きはここまでにして、 じゃあ、糸井さん、 いっしょに回りましょうか。 |
糸 井 | はい、よろしくおねがいします。 |
中庭を囲む回廊のような記念館です。 |
|
(つづきます) | |
2009-10-06-TUE |
Flash Playerが必要です。
|
||||||
図版:トリバタケハルノブ
第1回 最初に、玄関先のようなおはなし。 |
|
|
第2回 展示室の入り口 / 一:池内岳彦 |
|
|
第3回 二:音楽愛好家 / 三:商業デザイナー / 四:俳優 |
|
|
第4回 五:エッセイスト / 六:イラストレーター |
|
|
第5回 七:料理通 / 八:乗り物マニア / 九:テレビマン |
|
|
第6回 十:猫好き / 十一:精神分析啓蒙家 / 十二:CM作家 |
|
|
第7回 十三:映画監督 / 年表 |
|
|
第8回 企画展示室 |
|
|
第9回 中庭 / カフェ・タンポポ |
|
|
第10回 ぐるっと回ったあとに。その1 |
|
|
第11回 ぐるっと回ったあとに。その2 |
|
|
第12回 ぐるっと回ったあとに。その3 |
|