常設展示室の13のブースと、
企画展示室をゆっくりと回ったあと、
中庭のベンチやカフェ・タンポポでひと休み。
そのあとまだ公開されていない収蔵品のある
収蔵庫をご案内いただきました。
(いつか公開される時まで、こちらはお待ちくださいね。)
伊丹十三記念館を、ぐるっとひと回りし終えてからの
中村好文さんと玉置泰さん、糸井重里の話を
3回に分けて、ご紹介します。
糸 井 | いや、驚いたなあ、 伊丹さんに驚いたし、建物にも驚いたし。 |
中 村 | (笑)。 |
糸 井 | もうこんな仕事は引き受けられないでしょうね。 |
中 村 | なんの、なんの。 お声がかかればまたやりますよ。 本当にそれが自分の仕事だと思えればね。 |
糸 井 | そうですか(笑)。 |
中 村 | というか、住宅だけをやってるとね、 展示のおもしろいのを 考え出したりすることなんて あんまりないじゃないですか。 |
糸 井 | ああー。 |
中 村 | だけど、この機会があったから、 自分はこんなふうにものを考えることが できたというかね、 そういう自分の中にある 潜在的な能力に気付かせてもらえた という感じですかね。 最後までデザインの方針が 決まらないっていうのは、 何かが自分にこう、 ピッタリ合ってないんだよね。 |
糸 井 | はあー! |
中 村 | でも、スタッフは時間のことを気にして 何をどうすればいいか、 早く指示してくれとぼくに やいやい言うわけじゃないですよ。 もう間に合わないんだから、 「どうすればいいんですか」って。 こっちも、どうしていいかわかんないんですよ。 だけど、スタッフからなにか アイディアが出てくると、 これじゃないっていうことはわかる(笑)。 「これじゃないんだよね。 これでもないんだよね。 もっとちょっと違うものなんだよね」 って、それを探すのがちょっとね、 大変だけど、わりとおもしろいんです。 例えば、イラストの展示で、 イラストを回す取っ手の形を考えるんだけど、 取っ手の形なんて、 もういろんな形ができるわけですね。 デザインするわけだから。 ところがそこに、ほら、 パッとしたものがないのね。 ピタッと気持ちに合うものが。 |
糸 井 | ああ、ああ。 |
中 村 | で、イラストの展示台のときは あ、そうだ! 伊丹さんのイラストにあった 蓄音機の取っ手でやればいいんだって ふと、思いついた。 天啓のようにね(笑)。 |
糸 井 | いい話ですねえ。 |
中 村 | もう忙しい時だから、 そればっかり考えてもいられないんです、 あっちではこれを考え、 こっちでは工事全体のことを考えって やってますからね。 でも、そういうのがこう、 ピタッと来るものがひらめくまで やってるんですよ。 |
糸 井 | もともと中村さんは、 家具と一緒に考えていく みたいな発想があるんですね。 ここではものすごい活きてますよね。 |
中 村 | そうそう。そうかもしれません。 家具デザインをやってるんでね、 多分それがよかったと思うんですけど。 |
糸 井 | 一般の家庭で、 それをどんどんやるなんていうこと できないですもんね。 |
中 村 | 結局、建築家のひとりよがりに なっちゃいますからね(笑)。 |
糸 井 | そうか、そうか、そうか。 |
中 村 | ここではひとりよがり的な発想が 必要だったんでね、よかった。 |
糸 井 | 必要だったんですね。 |
中 村 | それがちょうどよかった。 |
糸 井 | 逆に1人でやってくれっていうことですよね。 |
中 村 | そうそうそう。そうです。 ひとりよがりの大義名分があったわけね(笑)。 |
糸 井 | ああー。 |
中 村 | だから、すごくいい機会を 与えてもらったと思います。 別な言い方をすると、 「伊丹さんから受けた影響の 一番いいものを建築の形で返しなさい」 って言われたと僕は考えたんですね、 この記念館を設計するっていうことはね。 「何を学んだの?」って、 「伊丹十三からいろいろ影響を受けたと いってるけど、あなた、何を学んだの?」と。 「それを建物の形、あるいは展示の形で 見せて御覧なさい」って言われたという気が 僕はしてるんですよね。 それだから、やらなきゃっていうか、 やれるだけのことはやるんだと。 |
糸 井 | ある程度、それこそ分業で 進めていかなければできないことって いっぱいありますよね。 で、自分が発想して、 その思ったことをちゃんと伝えて、 力を合わせて分業でやっていくっていうのは、 伊丹さんの映画の作り方と──。 |
中 村 | そうなんです。建築の仕事って、 映画とよく似てるんですよ。 というのは、最終的な作品の 仕上がりっていうのは、 映画は監督しかわからないわけじゃない? 俳優は、その演技だめ、その演技だめって、 何度も何度もやり直しさせられてるけど、 監督が何を求めてるかは わからないじゃないですか、俳優にも。 最終的に映画が出来上がった時に、 監督はこのことをしたかったから、 あの演技がだめになってたんだなっていうのが わかるわけじゃないですか。 例えばセットにしてもね、 理想の姿は監督の頭の中にしかないんです。 建築もそういうところあるんですよ。 部分部分はこうだけど、 最終的には建築家の頭の中にしか 最終の仕上がりの形はないんですよね。 それがすごく映画と似てると思います。 |
糸 井 | ひょいと、最初にガレージを拝見したんで 妙に印象があるんですけど、 あの、おまけに1つガレージがあります、 みたいなあの感じが(笑)。 |
中 村 | 僕は建物の中に クルマ入れたくなかったんです。 |
糸 井 | あ、そうなんですか。 |
中 村 | 建物の中にクルマが入ると、 なんか外車のショールームみたいな 感じになっちゃう。 あの車がベントレーっていう 立派な外車だけにね。 |
糸 井 | そうか、そうか。 |
中 村 | そう。それが入るとちょっと違うなと思って。 普通なら建物に入れるのが一番簡単だけど。 それで、最初はね、ガレージを円形で考えた。 正方形の建物に対して円で。 設計も全部できてたんですよ。 ところが‥‥すっごい高くて。 |
玉 置 | ぼくが「やめてください」って言った(笑)。 |
中 村 | 「やめてください」って言われた(笑)。 で、「厩(うまや)スタイル」に変更した。 |
糸 井 | やっぱり! 僕もそれは思った! 馬だって。 |
玉 置 | はい、そのほうがよかったです。 |
中 村 | よかった、よかった。 |
糸 井 | その厩の向きが、 建物と平行じゃないのは 何なんですか。 |
中 村 | あのね、平行にすると、 母屋の付属物になっちゃうんですよね。 全然これと関係ないルールで できてるっていうふうにしたかったんです。 |
糸 井 | ああー。馬は馬なんだ。 |
中 村 | そうそうそう(笑)。 |
糸 井 | いや、ものすごくあの厩のおかげで ここに対しての暖かみみたいなのが 増えてますよね。 |
中 村 | あ、そうかもしれませんね。 |
糸 井 | 東北の農家を見学に行った時に、 馬小屋の跡が民家の中にこう、 隣接してあって残ってて。 で、顔だけ出せるようになってて。 「南部曲り家」というんですが。 |
中 村 | あるある。 |
糸 井 | で、そこの人たちは今でも 「馬さん」って言うんですよね。 さん付けなんですよ。 「ここは馬さんがいたところで」って。 その、あのクルマの、なんか伊丹さんが 気張って買ったんだろうなっていうクルマと。 |
中 村 | そうですね(笑)。 |
糸 井 | 最初にあれを見るのは本当によかったですね。 |
中 村 | あ、そうですか。よかった、よかった、 厩(うまや)にしといてよかった。 |
玉 置 | クルマが中に入ってるのは裕次郎的ですよね。 ロールスロイスがドーンと。 車の種類ではうちも負けてないですけどね。 |
糸 井 | なるほどね。 玉置さん、時々そういうこと言いますね(笑)。 プロダクション社長(笑)。 |
玉 置 | 宮本さんから 「下品だからやめなさい」って。 |
一 同 | (笑)。 |
(つづきます) | |
2009-10-20-TUE |
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図版:トリバタケハルノブ