やあ、いらっしゃい ― 中村好文さんと歩く、伊丹十三記念館

糸井重里が、松山の伊丹十三記念館を訪れました。設計のみならず、キュレーターとしても活躍した建築家の中村好文さんと、館長の玉置泰さんの案内で、じっくり、見て回ります。どうぞ、ごいっしょに。

第12回 ぐるっと回ったあとに。その3

常設展示室の13のブースと、
企画展示室をゆっくりと回ったあと、
中庭のベンチやカフェ・タンポポでひと休み。
そのあとまだ公開されていない収蔵品のある
収蔵庫をご案内いただきました。
(いつか公開される時まで、こちらはお待ちくださいね。)

伊丹十三記念館を、ぐるっとひと回りし終えてからの
中村好文さんと玉置泰さん、糸井重里の話を
3回に分けて、ご紹介します。

中 村 来館者の中には、
わりとスーッと帰っちゃう人もいて、
何も見てないみたいな人もいるんですよ。
不思議なんだけどね。
一方で、見る人は何時間もいたりとか、
何回も来る人もいる。
不思議ですよね、そういうの。
糸 井 多分、見ると読むの違いでしょうね。
美術館とか博物館っていうのは、
読み始めたらいくらでも読めますし、
見るだけだったら、
そのままのスピードで行けますから。
中 村 結局、その展示物の中に
自分の何かと呼応するものを
読み取るっていうことだから、
それがない人はもう
サッと見て、この記念館、
見るものがない、みたいになっちゃうのね。
結局、自分の中に展示物に
感応する力がないってことなのに。
糸 井 僕は伊丹十三記念館は、
すごい徹底して
「読み物の記念館」だと思いますよ。
中 村 あ、そうだと思う。
うん、たしかにそうだと思う。
糸 井 なんで? って思ったら、
すべてに理由があるし。
伊丹さんがそういう人だったし。
中 村 そうそう。そうですね。
そういうことなんだ。
糸 井 あの木の話も、最初に聞いておいたら
見方が変わると思うな。
それは同時に
宮本さんを喜ばせるものでもあったし。
見事にあそこ、象徴してると思うな。
中 村 その建物を象徴的に表すものって、
やっぱり欲しいんですよね。
糸 井 それが生き物だったのはよかったですよね。
中 村 それから、記念館に来た人が、
見学の印象を人に語れる何かを
用意しておいてあげたいっていうことも
ありました。
「十三饅頭があったんだよ」
っていうことでもいいし、
何かそういうものがやっぱり要るんですよね。
とても何かこう、印象に残って、
それがちょっといい話として人に伝えられるものを
用意しておくべきなんですよね。
なんかサラッと通りいっぺんに
作ってしまわないで。
糸 井 馬小屋と木はすごくいいんじゃないですかね。
中 村 このパンフレットなんかも、
貰っておもしろがる人は
相当おもしろがってくれます。
普通じゃないですからね。
玉 置 ここまでやるかっていう。
中 村 途中から玉置さんは、
「いい加減にしてくれ」みたいな感じでしたね
玉 置 いや、そんなことないですよ。
一 同 (笑)。
中 村 グッズにまでズルズルズルズル
入り込んでいきましたからね、ぼくが。
「やっぱりね、張り子の犬は
 作ったほうがいいかな」とか言い出してさ。
あれはもともと浅草で作ってたものだから、
浅草だったらあるだろうと思って探したら、
職人がみんな廃業しちゃってたんですよ。
そうしたら、偶然に
作ってくれるところが会津で見つかって。
それで絵を送って、色を指定して、
「同じにしてくれ」って。
そうやって作ったんですよ、あれは。
糸 井 はあ〜(笑)。
中 村 「ナカムラサン、
 そんなことしてる暇あるんですか?」
ってスタッフが言うんだけど(笑)。
糸 井 いや、それは伊丹さんでも
やったことですよね。
中 村 そうですね。きっとそう思う。
糸 井 もう、だって、
「やあ、いらっしゃい」から
跡継いでる感じするよね。
いや、僕はここ、
徹底的に「読む記念館」だと思うな。
素晴らしい立体の「読む記念館」。
映画も、伊丹さんの映画って
「読む映画」だったし。
中 村 伊丹さん自身が
読む人だったんですものね。
糸 井 そうですね。笑っちゃうのは、
テレビのところでさ、
やたらに寝転んでたじゃない、あの時?
中 村 ズルズルと(笑)。
糸 井 あれも、時代へのあてつけですよね。
これからはこうなるんだよ、みたいな。
ああいうところの、
そのケレンがいいんだよね。
中 村 うーん、ありますねえ。
それはすごく強くあります。
糸 井 やっぱりちょっと過剰に出しといて、
自分はスッと引いていくんですよね。
後で寝転んでるやつ見ると、
「まだそういうことやってるの?」
って言いそうな(笑)。
中 村 (笑)そうそう。きっと言うと思う。
糸 井 いやあ、手に負えないわ(笑)。
中 村 ああいうことを堂々とできたのが偉い。
そういうことを
「これでいいのだ」としたんでしょ。
糸 井 「しょうがねえや」で行かせちゃうのって、
実力ですよね。

中村好文さんが案内してくださった
「伊丹十三記念館」の紹介シリーズは、
これで、最終回となります。
制作にあたっては、館長代行の玉置泰さんはじめ、
記念館のスタッフのみなさまに
たくさんのご協力をいただきました。
どうも、ありがとうございました。
そして、「伊丹十三特集」では、
このあと、記念館館長である宮本信子さんへの
取材をする予定です。
どうぞ、おたのしみに。
(じつは、宮本館長は、今回の記念館特集にも、
 寄稿してくださっているんですよ。
 こちらの回、探してみてくださいね)

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(おわります)
2009-10-21-WED
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コラム ようおいでたなもし、松山
  伊丹十三記念館のスタッフが、
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図版:トリバタケハルノブ