やあ、いらっしゃい ― 中村好文さんと歩く、伊丹十三記念館

糸井重里が、松山の伊丹十三記念館を訪れました。設計のみならず、キュレーターとしても活躍した建築家の中村好文さんと、館長の玉置泰さんの案内で、じっくり、見て回ります。どうぞ、ごいっしょに。

第6回 「十:猫好き」〜「十二:CM作家」

伊丹十三記念館見取り図

十:猫好き

伊丹さんのエッセイに何度も登場するのが、猫。
鉛筆画や水彩画の猫の絵も多く残っています。
エッセイのときのような解説風のイラストと違って、
ただそこにいる猫の姿を好んで描かれたようです。
お父さんの伊丹万作さんも猫好きで、
それぞれ猫とくつろぐ二枚の写真は、親子を感じます。

中 村 ここは「猫好き」というコーナーで。
糸 井 なるほど。なるほど(笑)。
中 村 糸井さんの記念館をつくる時は、
「犬好き」っていうのを
1つ作ってあげなきゃいけないね(笑)。
糸 井 (笑)本当だ。
伊丹さんって本当に猫好きですよね。
中 村 そう。子どもの頃から、
ずっと猫と暮らしてたって書いてます。
糸 井 一体感がありますよね。
猫の絵は格別にうまいなあ。
中 村 うまい。すごくたくさん描いてるし。
糸 井 ねえ。格別にうまいなあ。
他はある程度、器用な真面目な人な感じだけど、
これはもう「飛んで」ますね。
中 村 本当に、飛んでます。
糸 井 形ができてる。
中 村 あの猫が輪っかを見てる絵が、
後ろ姿にペーソスがあって
いいでしょう(笑)。
糸 井 ああ、いい(笑)。
中 村 (笑)しみじみする。
玉 置 この「一切空」の十三っていう字が、
十三饅頭の「十三」という字なんです。
糸 井 ああ、そうですか!
玉 置 宮本信子さんがこの字がいいって。
こうやってみると、十三の字は──。
糸 井 いろいろですね。
中 村 いろいろありますね。
糸 井 この辺になると、
また写真がよくなるのは、
プロが撮ってるのかな。
中 村 そうでしょうね、
文藝春秋などのグラビア写真ですよね。
糸 井 圧倒的によくなりますね。


伊丹十三記念館見取り図

十一:精神分析啓蒙家

岸田秀さんの著作との出会いから
精神分析学に傾倒していった伊丹さんは、
その後、心の中のことをテーマにした雑誌
『モノンクル』を創刊します。
ここではその『モノンクル』をはじめ、
手書きの原稿などを展示。
ロールシャッハテストになっている
展示の背景は、
ぜひ注目してほしいところです。

糸 井 これは勉強ノート?
あ、違うわ、原稿だ!
中 村 すごいですよね、原稿ですよ。
糸 井 これ、全部つまり、テープを自分で起こして。
中 村 そうそう、自分でテープ起しをしてるんです。
糸 井 これは続かないわ(笑)。
こんなことしてたら。
中 村 とにかく原稿などの文字ものは
ものすごい量残っているんですよ。
玉 置 雑誌『モノンクル』は
なかなか入手できなくなっているのを、
中村さんが集めてくださったんです。
糸 井 これ、現代思想ブームの
さきがけともいえるね。
中 村 糸井さん、この展示の趣向、わかりますか?
材料はアラベスカっていう大理石なんだけど、
厚い石の板を真っぷたつに切って、
本を開くようにして使ってあるんです。
糸 井 ん?
中 村 つまりね、石の模様で、
ロールシャッハテストにしてあるの。
精神分析啓蒙家のコーナーだから。
糸 井 なるほど!
左右対称だ。
中 村 ね?
糸 井 やっと気付きました。
中 村 それで、さらに
鏡に写りこむようにしてあります。
自分の心の奥の奥をのぞき込む感じ(笑)。
糸 井 中村さん、それ、考えてる時、
楽しかったでしょ(笑)。
中 村 はい。
もう、こういうことを思いつき、
思いつきを実現するために働いているときは
至福の時と呼んでいいと思います(笑)。


伊丹十三記念館見取り図

十二:CM作家

伊丹さんといえば、年若い人には映画のほか、
マヨネーズや入浴剤のCMに出ていたことが
よく記憶されているようです。
一六タルトをはじめ、出演するCMには
ほとんど自分のアイデアを生かしていたそうです。
ここでは懐かしいCMを見ることができます。

糸 井 コマーシャルは、予算を掛ける前のもののほうが
おもしろいですね。
中 村 そうですね
糸 井 (味の素マヨネーズのCMが流れている)
ああー。卑怯なくらいのやり方だよな(笑)。
ほぼ日乗組員 同業者の視線になってますね。
糸 井 (西友のCMが流れている)
ああー。結局言い方なんだよね(笑)。
言い方なんだ、伊丹さんは。
あらためて思うのは、
浦谷年良さんのDVDはよくできてますね、
『13の顔を持つ男』。
こういうの全部楽しめるんだもんね。
中 村 そう!
このDVD、よくぞ作ってくれたと思います!
糸 井 この時の西友は、確かね、
こういうことを、すごくやらせてくれる人が
いたんですよ。
(つづきます)
2009-10-13-TUE
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コラム ようおいでたなもし、松山
  伊丹十三記念館のスタッフが、
記念館に来たついでによってもらいたい、
松山近辺の見どころや、おいしいもののお店を
ご紹介します。
第5回 道後エリア編(2)

図版:トリバタケハルノブ