伊丹さんは、機嫌のいい人だったんですか?

第2回 滅私奉公。でも、おもしろい。

糸井 伊丹さんは、
伊丹プロダクションの社長である玉置さんにも
ある種のクールさというか、
ちょっとした距離をおいて接してたんですか?
玉置 それが、ぼくの場合は、ぜんぜん違うんですよ。
糸井 へぇ。
玉置 たぶん、ほかの方の場合は、
それぞれに自分の「個」があって、
それが伊丹さんという「個」とぶつかり合う、
という構造だったと思うんです。
ところがぼくの場合は、
伊丹さんの映画に資金や交渉のことで
協力するという関係だったこともあって、
ぼく自身の「個」がゼロなんですよ。
とくに交渉事なんかは、
伊丹さんの代わりにやってるという感じでしたから
その意味では伊丹さんと同じ側に立っていたので、
確執もなければ、自分の我もないという感じで。
糸井 つまり、伊丹さんと玉置さんが
セットになっているという。
玉置 そうなんですよ。
もしも、ぼくが映画の資金面や
興業の面だけに携わるプロデューサーで、
伊丹さんが撮影現場を仕切るディレクターで、
というふうに役割がもっとはっきり分かれてれば、
関係も違ったと思うんですけど、
伊丹さんってやっぱり映画監督のタイプとしては
プロデューサーディレクターで、
両方を自分でやれる人なんですね。
ですから、ぼくは、自分の関わり方としては、
もう、完全に「滅私奉公」だと思ってるんです。
糸井 ありえるんですよね、そういう関係は。
よくわかります。
玉置さんがご存じかどうか知りませんけど、
ぼくらがもうひとつ大きな軸で、
伊丹さんのことを扱う以上に、
仕事に絡めて全部やってるのが、
吉本隆明さんのプロジェクトなんです。
これは、もう、ぼく個人の思いがベースにあって
吉本さんのことを広めるだけじゃなく、
吉本さんの仕事を考えることまで
勝手に目標に入れちゃってるんですね。
その関係と、玉置さんと伊丹さんの関係も
なんというか、重なるような気がして。
玉置 おっしゃるとおりだと思います。
じつは、吉本さんの講演集は、ダイジェストのほう
『吉本隆明の声と言葉。』)を、
今回のご縁ができる前に
個人的に買わせていただいてまして。
糸井 ああ、そうですか。
玉置 といいますのも、じつはぼく、
学生時代に吉本さんのお宅へ
お邪魔したことがあるんです。
糸井 あらま。
玉置 三田文学っていう雑誌を手伝っているときに
原稿を取りにうかがったんですよ。
そしたら、上がってください、っておっしゃって、
うな丼をとってくださって、
そこに柄谷行人さんが来てて、
柄谷さんと吉本さんと3人でうなぎを食べるという、
たいへん得がたい経験をしたんです。
糸井 へぇー、そうでしたか。
玉置 その恩をいまだに感じてるので、
いまおっしゃった話は、
ほんとになんか、うれしいですね。
糸井 ぼくがいま吉本さんのお手伝いしてるのは、
おもに、吉本さんが苦手だろうなと思ってることを
引き受けているつもりなんですけど、
そのあたりが似てるのかなと。
玉置 はい、すごくよくわかります。
糸井 そうですよね。
で、その協力の仕方というのは、
「滅私奉公」の形をとっているとしても、
なんていうか、おもしろいんですよね。
玉置 そうなんです、そうなんです。
たぶん、ほかの人から見たら、
「なんでそんなことをやってるんだろう?」
と思うかもしれないんですけど、
やっぱり、ほかの人にはできないだろう
っていう自負のようなものがありますし。
なんだろう、やっぱり、
糸井さんが吉本さん好きなのと同じように、
ぼくは、伊丹さんが
好きだったんだろうと思いますけどね。
糸井 はい。
玉置 かといって、これから伊丹さんのために
なにをやっていけばいいのかっていうのは、
まったく、わかってないんですが(笑)。
こうして糸井さんにご協力いただきながら、
申し訳ないんですけど。
糸井 いえいえ(笑)。
あの、すごく簡単にいってしまうと、
なにもしなくて大丈夫なんだと思いますよ。
これは伊丹さんのコンテンツに
限らないことですけど、
けっきょくぼくらのできることって、
「入門」の域を出ないと思うんです。
ぼくらは研究者でも批評家でもないので、
入念に下調べをして
事実をひもといていくというわけじゃなく、
ふつうに、読んでるお客さんと
同じ視線でいろんな人と会って、
それについて知ることをおもしろがっていく。
それ以外に、ないんですね。
ですから、今回、伊丹さんの特集をやるにしても、
詳しい人が見たら「うわっつらだなぁ」って
思うかもしれませんけど、
浅いところでしっかりウロウロさせてもらって、
たくさんの人との接点がつくれれば
それがいちばんいいんじゃないかと思ってます。
玉置 なるほど、なるほど。
糸井 あと、そうやって「浅くすくいとる」というのは、
伊丹さんの仕事に合ってるんじゃないか
という気もしているんです。
テレビマンユニオンの浦谷さんがつくった
『13の顔を持つ男』というDVDも、
濃い思いがありながらも
あえて浅くまとめてる感じがあって、
そのあたりは、紹介する人たちじゃなくて、
モチーフである伊丹十三という人の
個性なんじゃないかなと思うんです。
玉置 そうかもしれません。
(続きます)
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2009-07-07-TUE