糸井 |
このDVD(『13の顔を持つ男』)の話に戻しますと、
テレビCMがかなり入ってますよね、これ。 |
浦谷 |
うん、それも狙いなんだよね。 |
糸井 |
西友のとか、入ってましたね。
西友「流動円木編」
~DVD『13の顔を持つ男 伊丹十三の肖像』より |
浦谷 |
うん、ナショナルの冷蔵庫とか。
ナショナル冷蔵庫「マッサージ編」。宮本信子さんと。
~DVD『13の顔を持つ男 伊丹十三の肖像』より |
糸井 |
ああ、ありましたね。 |
浦谷 |
ぼくが、なかでも印象深かったのは、
黄桜の「醇」でやった「2役」。
外国のミュージシャン風の人に
扮してもらったんだけど、
あれ、大失敗だったんですよ。
黄桜「醇」2役シリーズ。左の人も伊丹さん。
~DVD『13の顔を持つ男 伊丹十三の肖像』より |
糸井 |
‥‥気づかれなかったとか? |
浦谷 |
そう! まったく気づかれなかったの。
で、伊丹さんが2役やってるってことに
気づかなかったら
おもしろくも何ともないのよ、アレは‥‥。 |
糸井 |
ですよねぇ(笑)。 |
浦谷 |
でも、こんなにCMが入ってるソフトも
めずらしいでしょ?
CMってのは、許可とりにくいですから。 |
糸井 |
ああ、そうか、そうか。 |
浦谷 |
タネを明かすと、
ここに収録しているCMの7割くらいが
ぼくが演出してたんです。
だから許可が取りやすかったというわけ。
そのこと、すっかり忘れてたんだけど。 |
糸井 |
ああ、そうかそうか。‥‥忘れてたんだ(笑)。 |
浦谷 |
なんで忘れてたかってのには理由があって、
ようするに、
伊丹さんといっしょにやったCM仕事って
演出したのを忘れるぐらい、
「ラクだった」ってことなんですよ。 |
糸井 |
つまり‥‥。 |
浦谷 |
とにかくね、伊丹さんとやるCMの場合、
ディレクターは
「場所を決めればよかっただけ」なの。
「ここでやりましょう」っていうだけ。 |
糸井 |
ああ‥‥。 |
浦谷 |
つまり、コメントやセリフについては、
ぜんぶ伊丹さんが考えてくれるんだ。
で、カメラは「師匠」の佐藤さんでしょ。 |
糸井 |
なるほど、それはラクですね(笑)。 |
浦谷 |
そう、やることないんだよな(笑)。
ふつうはさ、映画監督なんかだったら、
シナリオ書くところから仕事がはじまるけど、
伊丹さんとやったコマーシャルは
「コメントとは
しゃべる本人が考えるもの」だったから。 |
糸井 |
しゃべる本人とは、つまり伊丹さんですね。 |
浦谷 |
だからぼくは、場所を決めればよかっただけなんだ。 |
糸井 |
なるほど。 |
浦谷 |
当時、けっこう話題になったコマーシャルで
西友の家具調コタツのCMがあったのね。 |
糸井 |
ああ、あの、なぜか伊丹さんが、
えんえんとフランス語でしゃべるやつですね。 |
浦谷 |
あれもぼくが‥‥場所を決めて(笑)。
西友「フランス語編」
~DVD『13の顔を持つ男 伊丹十三の肖像』より |
糸井 |
あとは、伊丹さんがしゃべったと(笑)。 |
浦谷 |
そうそう(笑)。 |
糸井 |
‥‥今の話を聞いてて、よくわかったんだけど、
伊丹さんって、
「自分の口から語られるセリフには
責任を持つ」っていうところがありますよね。 |
浦谷 |
ああ、ある。ありますね。 |
糸井 |
なにかを過剰に表現したりすることも、
自分が決めてるって場合には
ウソですら、オッケーにしてるというか‥‥。 |
浦谷 |
うん、うん。 |
糸井 |
逆に考えると、お金をもらって
「こういうウソをついてくれ」って言われたときに、
「いやだ。ウソをつくなら、オレがつく」って
言えるスタンスって、
今、すごく重要なんじゃないかと思うんですよ。
だって、コマーシャルになると、
みんな、平気でウソをつくじゃないですか。 |
浦谷 |
そうですね。 |
糸井 |
でも、伊丹さんの場合には、
本当のことと、ちょっと大げさなことと、
もう完全にウソのこと、
ぜんぶ「オレが決めてる」んですよね。 |
浦谷 |
そうだね。自分で書いてるんだから。 |
糸井 |
誤解されるとしても、
自分自身の範囲でされたいというか‥‥。 |
浦谷 |
責任を取ってる。 |
糸井 |
そうそう、責任を取ってるんです。
「ほぼ日」のよって立つところも
そのへんにあると思っているんですけど‥‥。
じゃあ、浦谷さんにとって、
結局は「どういう人」でしたか、伊丹さんって?
難しい人だったですか?
|
浦谷 |
難しいところは、なかったかな。 |
糸井 |
そうですか。
一般的に伊丹さんという人は
シャイだったっていう説があるじゃないですか。 |
浦谷 |
ええ。 |
糸井 |
でも、シャイな性格だったらムリなことも
たくさん、やってるんですよね。 |
浦谷 |
やってますね。
映画のメイキングを撮ってて思ったのは、
撮られるのが好きじゃないと
あんなふうには、写らないと思うんです。 |
糸井 |
ああー‥‥。 |
浦谷 |
例えば、映画監督としての伊丹さんが
ラブシーンを見てる顔を、えんえん撮るでしょ。
で、それを使うでしょ、ぼくが。 |
糸井 |
うん。 |
浦谷 |
ふつうなら、恥ずかしいから「落とせ」とかって
言われかねないくらい、やったんだけどさ。
そんなこと、ぜんぜん。何にも言わない人だった。 |
糸井 |
怖いところもなかったですか。 |
浦谷 |
ぼくには、なかったです。 |
糸井 |
人によっては、怖かったのかな? |
浦谷 |
うーん‥‥どうだろう。
不機嫌な状態を、表に出してることは
あったでしょうけどね。 |
糸井 |
たとえば、伊丹十三という人のことを
「フランスだとかイギリスに詳しい
キザな役者」ってトーンで
フィックスしちゃってる文章や物言いも
あるじゃないですか。
あれ、ちっともおもしろくないですよね。 |
浦谷 |
だから、ずーっといっしょにやってきて思うのは、
伊丹さんって1個の「プリズム」だなあってこと。
1本の光が、彼のなかに入っていくと、
7色‥‥じゃなくて、13もの多彩な光に変化する。
その1本1本が、ぜんぶ、見事に輝いている。
そんな人だったですよね、ぼくからすると。
|
糸井 |
うん、うん。 |
浦谷 |
だからこそ、
人によって、いろんな評価や印象があるんだろうし、
逃げ水のように、つかめもしないわけで。 |
糸井 |
村松(友視)さんからも、逃げ切って。 |
浦谷 |
そうですね。 |
糸井 |
でも‥‥ぼく、死んでからつかまる幽霊ってのも
いるんじゃないかと思うんです。 |
浦谷 |
うん。 |
糸井 |
だから、今日ここで、
浦谷さんと、いろいろしゃべったことで、
なんか伊丹さんの上着の端っこを
つかめたような気がして‥‥うれしいんですよ。 |
|
<つづきます> |