水野
ぼくがこれまで「失敗したな」と思うのは、
一時期、いままで話したような説明を
ぜんぶすっ飛ばして、
自分がそのときどきでたどりついてる結論を
ポッと言ってみたりしたんですけど‥‥。
糸井
ああ、それはダメですね。
水野
しかも、そのとき自分が
どんなことを話してたかというと、
「いや、ぼくはそんなにカレーが
好きなわけでもなくて」
とか言ってたんです。
糸井
水野さんのなかに、そういう側面も、
あるにはあるんですよね。
水野
そうなんです。
そういう部分もあるにはあって、
それもまた、本質なんです。
だけど、ちゃんとした説明もなくそこだけ言うと、
「期待してた人と違う」とかって、
みるみる周りが落胆していく。
「カレーのことしか見えません」とか、
言ってほしいんですよね。
実際は、そういうわけでもないんですけど。
とはいえその発言は、大失敗。
糸井
大丈夫ですよ。
ダイエットだって、
1日だけで考えちゃダメなんで。
水野
あ、なるほど。
糸井
あときっと水野さんの場合は
そういうことを言いながらも、
たぶん、こうなるんじゃないですか?
「‥‥と、言いながら、
『カレーを食べて帰ろう』と言って
歩いていった水野さんだった」
一同
(笑)。
水野
でも、そうですね。
このあとも行く予定ですから。
糸井
あ、ほんとに行くんだ(笑)。
水野
ええ。ぼくは、
「そんなにカレーが好きなわけでもないんです」
と言いながら、
これからそのまま
「スパイス・ラボ」に行くわけです。
糸井
(笑)そういうことですよ。
その矛盾はあって当然だよね。
そこまで含めてわかってもらったほうが、
いい仲間が増えるし。
水野
そうですね。
糸井
だけど、そうやって迷いながらも、
これまでずっとやり続けているのは、
やっぱりカレーに関わる時間が
おもしろいんだろうね。
水野
そうですね、なんかね。
カレー、おもしろいですね。
四六時中考えてますから。
糸井
やっぱり考えてるんだ。
水野
それでひとりでニヤニヤして、
「ヤバイ、ちょっとおもしろいかも」とか、
「これはあの人に言っとこうかな」とか、
なるわけですよ。
ほんとにこれ、おもしろくて
たまらないですよ。
糸井
じゃあ、こんどの「カレーの学校」というのは、
そういう水野さんが、
みんなにどんな球を投げていくのかを
たのしめるわけですよね。
水野
そうですね。
そして「カレーの学校」をやるにあたって、
ぼくには、
「絶対に、学校に来た人たちが、
それぞれのカレーライフで
ちゃんと活かせるものを届けよう」
という思いがあるんです。
いまのぼくが自分の立場で
おもしろいと思ってることでも、
みんなが実践できないと意味ないですから、
ちゃんとそれを、みんなに伝わるかたちで
出していけたらと思ってて。
糸井
なるほどなるほど、それはそうだ。
水野
だから、タマネギ炒めについても、
それだけで何時間でも話せます。
でも、そのまま語っても、役立ててもらえない。
とはいえ、これまでのぼくの
タマネギ炒めの変遷のなかに
ふつうの人がおいしいカレーを作るときに
実践できることはいっぱいあるんですよ、
そういうのをちゃんと
出していけるといいなと思ってます。
そうすると、みんなに役立つから。
糸井
もうカリキュラムとか、全体のイメージとか
ざっくりあるんだろうけど、
「カレーの学校」をやっていくことで、
水野さんの肩書きが決まるといいね。
水野
そうですね。肩書き。
糸井
ぼくは、とうとう肩書きがなくなって。
水野
とうとう(笑)。
糸井
もともと
「自分には肩書きがないのかも」
と思ってたのが、
ほんとうになったんです。
いまは「ほぼ日刊イトイ新聞主宰」、
あるいは「東京糸井重里事務所代表」。
それから古いやつをそのまま使ってる
「コピーライター」。
これは自分からは言わないけど、
書かれてても直さない。
水野
書かれたものを直さないのは、ぼくもそうですね。
代替案がないので。
「肩書き、これじゃないんです」
って言ったときに、
「じゃあ何ですか」って言われると、
出せないから、直せない。
糸井
水野さん、ほんとうは
「プロデューサー」に近いのかな。
水野
ええっ、そうなんですかね‥‥。
糸井
だけど「プロデューサー」って言うと、
水野さんとは違う気がするから、違うのか。
水野
嫌ですね、カレープロデューサーとか。
すごく気持ち悪いですね。
「水野仁輔、カレープロデューサー」。
なんだかインチキくさいですね(笑)。
糸井
それこそ、銭勘定の話だけに見えますよね。
水野
そうそう。
糸井
だから、水野さんの実情に近いところから
肩書きを考えていくと、
結局なにも書けないんですよね。
だから、マークのようなものでごまかして
「つのだ☆ひろ」みたいに「カレー☆」とか(笑)
水野
そうですか。
「カレー☆水野仁輔」(笑)。
糸井
「カレーが欲しい♪」みたいな。
開き直って、そんなふうに
チャラチャラするのがいやじゃなければ、
「カレースター」とかね。
水野
あ、「カレースター」‥‥。
いいですね。
いいかも。
あれ、ちょっと、いいかもしれない(笑)。
糸井
水野さん、そう生きてるからね。
色紙に書くとき「カレースター」って書くだけで
メッセージにもなるし。
水野
カレースターは、ちょっといいと思いますね。
1回なにかでやってみましょうか。
「プロフィールください」と言われたときに、
「カレースター・水野仁輔」って書いたら
どうなるんですかね。
「あの、これは‥‥?」って(笑)。
糸井
「いやいや、カレーのスターなんです」。
水野
「自分でそれ言うんだ」みたいな。
だけど、なんだかもう
「肩書き」ということに対する思考を
停止する効果がありますね。
「カレースター」ならもういいか、みたいな。
糸井
もう。しょうがない。
ベテランの女性タレントとかで、
イベントに出て、
「みなさん、わたしに会えてうれしいでしょう?」
とか堂々と言う人いますよね。
あれ「自分で言うんだ」とも思うけど、
その場のお客さんたちからすると、
別にいいんだよね。
水野
そうですね。
いやぁ、「カレースター」はいいなあ。
ほどよく着ぐるみ感があっていいですね。
糸井
なにか期待感もあるよね。
いま名づけられたというのもいいし。
水野
そうですね、カレースターは
自分から名乗る感じじゃない。
糸井
聞かれたら「押しつけられたんです」
って言えばいいんじゃない?(笑)
「押しつけられたんで、いっそこれを使ってます」。
水野
「君は今日からカレースターなんだ」って。
糸井
桃を割って、今日からこの子を
桃太郎と名づけようってみたいに。
カレーマグマの中から、カレースターの誕生。
水野
カレー・スター誕生(笑)。
一同
(笑)。
糸井
じゃあ、そうしようか。
水野
はい、そうします。
糸井
最初のイベントはいつやるんですか、
ーー
5月の7、8です。
ゴールデンウィークの最後に。
糸井
あれだね、Tシャツとかも作りたいね。
水野
「カレースターTシャツ」ですか。
糸井
それ、ちょっと欲しいかも(笑)。
水野
白とかで、イベントで作りながら
だんだんカレーが散ったりもして。
糸井
だけどさ、もし、
「スーパーカレースター」を名乗る人が
出てきたらどうする?
水野
ああ、どうしましょうねえ‥‥。
一同
(笑)。
糸井
じゃ、そんなところかな。
イベント、たのしみにしてます。
水野
はい、ありがとうございました。
(‥‥と、いうわけで、カレースター・誕生!
お読みいただき、ありがとうございました)
2016-05-06-FRI
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN