はじめてのJAZZ2ヒストリーもたのしみなりー!ほとんどまるごと再現ツアー

#15 1960年〜 多様化するジャズ もう掘るなよと、マイルスが

糸井 こうして聴いてますと、1940年代くらいまでで
ジャズというものは
すっかりできあがったかのように思えるのですが、
まださらに、次の展開があるんですよね。
タモリ 飽き足らないものが、あったんでしょう。
糸井 それは、何なんですか?
タモリ ひとつには、
あまりにも「コード化」されちゃったという。
山下 コードの追求、つまり
その分解が、極限まできちゃったんですよ。
タモリ もう‥‥掘るなよと。
 
山下 ‥‥ってことで、
こんどは「ならしちまおう」と。
タモリ もう「埋めてしまえ」。
糸井 そいつは、誰ですか?
山下 マイルス。
タモリ マイルス。
山下 つまり、コードをやめちゃったんですよ、
マイルス・デイビスって人が。

コードっていうのは
追っかけていかないと「間違い」になるんですけど、
マイルスは、それをいっさいやめちゃって、
音階だけをぽーんと置いて、
そのうえで、何かしましょうや、とやったんです。
糸井 他の人も、みんなそれに倣ったんですか?
山下 ま、リーダーですから、マイルスは。
タモリ でも、マイルスが「こうやんだよ!」っつっても、
まだ、戸惑いがあったんですよ、他の人に。
糸井 ほう‥‥。
タモリ たとえば『Kind of Blue』っていう
アルバムがあるんですけどね、
これ、リーダーのマイルスだけが
きちんと把握してやってんですけども、
他のメンバーは、
「こんなもんかな、こんなふうに終わっちゃって
 いいんだろうか‥‥」って、戸惑ってるんですよ。
ま、その緊張感がまた、いいんですけど。
 
山下 サックス奏者のキャノンボール・アダレイも
完全に誤解してますよね。
『Somethin' Else』っていう
マイルスといっしょにやったアルバムのなかで。
タモリ コード進行がないのを不満に思ってんですよ。
で、コード進行しちゃおうとしてんです。
糸井 ほお‥‥。
タモリ 呼ばなきゃいいのにキャノンボール。
糸井 わざわざ、マイルスもねぇ(笑)
山下 でも、その「戸惑い」のおかげでね、
逆に名盤として、現代に残ってるんですよね。
タモリ でも、山下さん自身も経験したと思いますよ。

「オレはフリーをやるんだ!」っつっても
まわりがあんまり理解してなかったって状況は。
山下 そうですね、うん。
糸井 そういう「マイルスの時代」に、
もう、山下さんは
ミュージシャンとして活動なさってたんですか?
山下 ミュージシャンになるまえから、
今のようなマイルスのアルバムは出てましたから、
聴きくらべてはいましたね。

僕は、あんまりモードは好きじゃないですけど。
糸井 ああ、そうですか。
山下 単調になるばかりだな、と。
ただ、そういう雰囲気がいいんですけどね。
糸井 じゃ、そのマイルスの曲を、そろそろ?
山下 ええ、マイルスの代表曲で「So What」。
タモリ これも「コール・アンド・レスポンス」ですね。
山下 そう、ベースが問いかけると
ピアノが「So What?」、つまり「だからどうした!」って
答えてるんだと思うんです。
タモリ 問いかけてんのに、拒絶してんですよ。
‥‥つまり
「コール・アンド・リフューズ」。
山下 あっはは(笑)。
タモリ なんつうんですか、レスポンスになってない。
糸井 聴きたいですねぇ(笑)。
タモリ ジャンルでいうと、「モード」です。
糸井 でも、それを山下さんが演奏なさるってことは、
たぶん、別の解釈も加わっちゃうわけですよね?
山下 もう勝手にやると思いますけど(笑)。
糸井 おもしろそうだなぁ。
山下 でも「モードジャズ」の雰囲気は
なるべくお伝えしたいと思います。
糸井 それじゃ、さっそく、お願いします。
 
  「So What」
<つづきます>

今日のジャズ語

モード・ジャズ
1960年代以降のジャズシーンにおいて追求されてきた
即興演奏の手法のひとつ。
マイルス・デイビスが『Kind of Blue』で実践。
複雑な和声進行から解放され、
より自由な創造性を発揮できるようになったことで、
急速にジャズ界に浸透した。
マイルス・デイヴィス
ビバップ以降のジャズ界をリードし、
歴史を作り上げた「帝王」。
代表作に『クールの誕生』『Walkin'』『Milestones』
『Kind of Blue』『Bitches Brew』など。
ジャケット写真に恋人を起用することでも有名。
しかも毎回、ちがう人。
泣いている
マイルス・デイヴィスの
トランペットの音色をたとえた言葉。
活用法として
「マイルスのトランペットは泣いている」など。
笑っている
早稲田のジャズ研時代、
タモリさんのトランペットの音色をたとえて、
サークルの先輩が言ったとされる言葉。
「マイルスのトランペットは泣いているが、
 お前のトランペットは笑っている」。
これを機に、タモリさんはバンドの「司会」へと転向。
2008-03-21-FRI