糸井 |
さあ、いよいよ佳境となってまいりました。 |
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タモリ |
佳境です。 |
糸井 |
モダンジャズ以降のジャズというのは、
どうなっていったんでしょうか。 |
山下 |
ひとつ、「多様化」という言葉があります。
たとえば1960年代には、これまたマイルスなんですが、
楽器自体をならすのではなく、電気を使いはじめる。 |
糸井 |
電気マイルス。 |
タモリ |
マイルスの電化生活。 |
山下 |
ロックの方面にもアプローチしはじめるんです。 |
糸井 |
ボブ・ディランのときもそうでしたけど、
そういうことをすると
怒る人と喜ぶ人が、いますよね。 |
山下 |
いますね。 |
糸井 |
電気ってだけで、石もて投げる人がいて、
どういう戦争なんだろうと思ってました。 |
タモリ |
ま、宗教戦争ですね。 |
糸井 |
宗教戦争。 |
タモリ |
教祖が宗派を変えたわけですから。 |
糸井 |
ああ‥‥そうですね。 |
タモリ |
真実は仏の御心にあるのだと
キリストが言い出したようもんです。 |
山下 |
あっはは(笑)。 |
糸井 |
僕は、喜んだほうの人なんですよ。 |
山下 |
あ、そうですか。 |
糸井 |
でも、今あらためて聴くと、
何であんなに喜んだんだかわからないんです。
‥‥『BITCHES BREW』とか。 |
山下 |
あれ(笑)。 |
糸井 |
当時、ものすごく嬉しかったのを、覚えてるんです。
ジャズ喫茶みたいに、でっかい音量で聴いて、
「なんてかっこいいんだ!」って思ったんですけど、
今、聴いても‥‥音量が足んないんですかね(笑)。 |
山下 |
音量のせいは、あると思いますよ。 |
タモリ |
そこもだから、宗教なんですよ。
ヘッドホンで説教を聞いても、ダメでしょ。
あんなちっちゃなもののなかに
キリストとか仏は、いないんですよね。 |
糸井 |
ああ‥‥そうか。 |
タモリ |
やっぱり、
大音量で聴いてこそ「そうだ! そうだ!」になる。 |
山下 |
それにね、やっぱり、ライブで起きることが
いちばんおもしろいんです。演奏家としては。 |
タモリ |
音楽ができていく、その現場に立ち会えるのが
ジャズというもののおもしろさですから。 |
糸井 |
出産に立ち会ってる夫のように(笑)。 |
タモリ |
生まれる! 生まれる! 生まれる! |
山下 |
あっはは(笑)。 |
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── |
お話中、たいへん申しわけございません。
このままのペースでお話していくと
お客さまが終電に間に合わなくなりますので、
直ちに次の曲へとお進みください。 |
糸井 |
わかります。 |
タモリ |
じゃあ、いきましょうか。 |
糸井 |
次は、どんな? |
山下 |
電気マイルスみたいになっていく人と、
電気を使わずに、
自分の表現したいものを、
ぜんぶやっちゃおうって人が、出てくるんです。
コードやテンポ、そんなものすら要らねえと。
ピカソみたいな絵を描くような人が
ジャズの世界にも、あらわれたんですよ。 |
糸井 |
それは、ノールールってことですか? |
タモリ |
そう、誰がいちばん強えか試してみようと。 |
糸井 |
本当にノールールで、ジャズができるんですか? |
山下 |
いや、厳密に言うと、たとえば
「コードもテンポもナシ、
フリーに弾きます」って言った瞬間に、
別のルールに入っていくんです。
本当に無秩序とか、
純粋に自由という意味での演奏って、
僕は、ありえないと思う。 |
糸井 |
じつは、別のルールの枠内なんだと。 |
山下 |
つまり、何が起きてもいいっていうルールですね。 |
タモリ |
ヨーロッパなんかには、
徹底的にフリーをやろうとした人がいましたよね? |
山下 |
います、います。
だから「せえの」と言った瞬間に‥‥。 |
タモリ |
それはもう、自由じゃねえだろうと。 |
糸井 |
でも、それはそれで、ひとつの「形式」ですよね。 |
山下 |
そのとおりです。 |
糸井 |
まったくのフリーなんだったら、
お客さんのうちのひとり、壇上に上がってもらって
自由に弾いてくださいっていっても、
演奏ができてしまうってことになりますよね。 |
タモリ |
でもね‥‥私も何べんもやりましたけど、
ものすごいテクニックが要るんですよ、それ。 |
糸井 |
それは、僕も経験しました。
まるで、山下さんに
いじめられてるかのような気持ちになった(笑)。 |
タモリ |
うん、本当にフリーにやっていいって言われても、
なかなか、できないんですよ。 |
糸井 |
‥‥何であんなにできるんですか、山下さん? |
<つづきます> |