はじめてのJAZZ2ヒストリーもたのしみなりー!ほとんどまるごと再現ツアー

#16 1960年〜 多様化するジャズ No Rule, No Free

糸井 さあ、いよいよ佳境となってまいりました。
 
タモリ 佳境です。
糸井 モダンジャズ以降のジャズというのは、
どうなっていったんでしょうか。
山下 ひとつ、「多様化」という言葉があります。

たとえば1960年代には、これまたマイルスなんですが、
楽器自体をならすのではなく、電気を使いはじめる。
糸井 電気マイルス。
タモリ マイルスの電化生活。
山下 ロックの方面にもアプローチしはじめるんです。
糸井 ボブ・ディランのときもそうでしたけど、
そういうことをすると
怒る人と喜ぶ人が、いますよね。
山下 いますね。
糸井 電気ってだけで、石もて投げる人がいて、
どういう戦争なんだろうと思ってました。
タモリ ま、宗教戦争ですね。
糸井 宗教戦争。
タモリ 教祖が宗派を変えたわけですから。
糸井 ああ‥‥そうですね。
タモリ 真実は仏の御心にあるのだと
キリストが言い出したようもんです。
山下 あっはは(笑)。
糸井 僕は、喜んだほうの人なんですよ。
山下 あ、そうですか。
糸井 でも、今あらためて聴くと、
何であんなに喜んだんだかわからないんです。
‥‥『BITCHES BREW』とか。
山下 あれ(笑)。
糸井 当時、ものすごく嬉しかったのを、覚えてるんです。
ジャズ喫茶みたいに、でっかい音量で聴いて、
「なんてかっこいいんだ!」って思ったんですけど、
今、聴いても‥‥音量が足んないんですかね(笑)。
山下 音量のせいは、あると思いますよ。
タモリ そこもだから、宗教なんですよ。

ヘッドホンで説教を聞いても、ダメでしょ。
あんなちっちゃなもののなかに
キリストとか仏は、いないんですよね。
糸井 ああ‥‥そうか。
タモリ やっぱり、
大音量で聴いてこそ「そうだ! そうだ!」になる。
山下 それにね、やっぱり、ライブで起きることが
いちばんおもしろいんです。演奏家としては。
タモリ 音楽ができていく、その現場に立ち会えるのが
ジャズというもののおもしろさですから。
糸井 出産に立ち会ってる夫のように(笑)。
タモリ 生まれる! 生まれる! 生まれる!
山下 あっはは(笑)。
 
── お話中、たいへん申しわけございません。
このままのペースでお話していくと
お客さまが終電に間に合わなくなりますので、
直ちに次の曲へとお進みください。
糸井 わかります。
タモリ じゃあ、いきましょうか。
糸井 次は、どんな?
山下 電気マイルスみたいになっていく人と、
電気を使わずに、
自分の表現したいものを、
ぜんぶやっちゃおうって人が、出てくるんです。

コードやテンポ、そんなものすら要らねえと。

ピカソみたいな絵を描くような人が
ジャズの世界にも、あらわれたんですよ。
糸井 それは、ノールールってことですか?
タモリ そう、誰がいちばん強えか試してみようと。
糸井 本当にノールールで、ジャズができるんですか?
山下 いや、厳密に言うと、たとえば
「コードもテンポもナシ、
 フリーに弾きます」って言った瞬間に、
別のルールに入っていくんです。

本当に無秩序とか、
純粋に自由という意味での演奏って、
僕は、ありえないと思う。
糸井 じつは、別のルールの枠内なんだと。
山下 つまり、何が起きてもいいっていうルールですね。
タモリ ヨーロッパなんかには、
徹底的にフリーをやろうとした人がいましたよね?
山下 います、います。
だから「せえの」と言った瞬間に‥‥。
タモリ それはもう、自由じゃねえだろうと。
糸井 でも、それはそれで、ひとつの「形式」ですよね。
山下 そのとおりです。
糸井 まったくのフリーなんだったら、
お客さんのうちのひとり、壇上に上がってもらって
自由に弾いてくださいっていっても、
演奏ができてしまうってことになりますよね。
タモリ でもね‥‥私も何べんもやりましたけど、
ものすごいテクニックが要るんですよ、それ。
糸井 それは、僕も経験しました。
まるで、山下さんに
いじめられてるかのような気持ちになった(笑)。
タモリ うん、本当にフリーにやっていいって言われても、
なかなか、できないんですよ。
糸井 ‥‥何であんなにできるんですか、山下さん?
<つづきます>

今日のジャズ語

電化マイルス
「アコースティック」というジャズの既成概念を、
マイルス・デイヴィスが
アルバム『BITCHES BREW』で打ち破ったことを
象徴的に意味する語。
エレキ楽器を大胆に導入したこの作品がリリースされると、
「ジャズが電化した!」という驚きと混乱とで、
賛否両論の嵐が吹き荒れた。
ロックの大音量に新たな可能性を見出したマイルス。
そのころのLPには
「大音量でお聴きください」とのただし書きが。
2008-03-25-TUE