── |
「せーの!」で全員で録る方式は、
通常のレコーディングとは
どう異なるのでしょう。 |
大貫 |
ダビングといって、
楽器ごとに音を重ねて録っていきます。
たとえばギタリストは
ギタリストとして呼ばれて、
ジャカジャカって弾いて帰って行く。
そうなると、その曲、そのアルバムに
“参加した”気持ちが、
もう、ないじゃないですか。
アレンジャーの言うとおりに弾いて、
「OKですか」と訊いて、
「OKです」と言われて、
「あ、どうも、お疲れ様でした」と。 |
── |
全体像が見えないままに、
職人芸を披露して帰って行く。
時給で雇われているみたいな感じなんですね。 |
大貫 |
私も、そういうふうに
ダビングしていくレコーディングを
やったこともあるけれど‥‥
やっぱり、つまらないな‥‥、と。
みんないちどに録るというのは、
70年代にはそういうレコーディングの
仕方だったんですよ。 |
── |
それが当たり前だった? |
大貫 |
そうですね。
ただ、“初心に戻る”のではなくて、
そっちのほうが早いし、
いいというのも分かっているからなんです。
途中でいろいろな、玩具みたいなね、
テクノロジーがいっぱい出てきたので、
みんな、やって楽しんでたんです。
取り入れて‥‥ |
── |
それを使うことが楽しい時があった。 |
大貫 |
コンピュータとかね。
でも、それもちょっと
飽きちゃったんですよね、私。
坂本龍一さんのように使いこなせてない、
というのもあると思いますが、
ただ、ちょっと、もう、
そのレコーディングの仕方は飽きちゃった。
だって、いつもスタジオの中に、
アレンジャーと私とプログラマーだけがいて、
そこに誰かが来てレコーディングしても、
おたがい、つまらないし、
面白くないんですよね。 |
── |
ええ。 |
大貫 |
それで、みんなで録ったほうがいいや、
ということなんです。 |
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── |
「飽きちゃった」っていうのは
悪いことではないのですね。
さっき、大橋さんもおっしゃっていたように、
同じことをしていると飽きてしまうし、
仕事をしていくことが、つまらなく
なっていくわけですよね、多分。 |
大橋 |
そうですね。私の仕事は、
イラストレーションなのですけれど、
つまり「素材」なんですよね。 |
── |
雑誌が1枚のレコードだとしたら、
さっき大貫さんがおっしゃっていた
ギタリストの役割みたいなことですね。 |
大橋 |
そうですね。で、さっき、
お話をうかがっていて思ったのは、
注文を受けて、そのものを描いて渡せば、
そこで私の仕事は終わるんですね。
それをどう使われるかというのは、
もう私の問題ではなくて。
ある日、仕上がったものをみると、
描いたはずの足が別の所にくっついている。
たしかにそんなようなことは
指示をすれば簡単にできますよね。 |
── |
ええ。 |
大橋 |
これはちょっと嫌だな、と思って、
「もう、広告の仕事は辞めよう」
と思ったことがあります‥‥。
だから、私、さっき、お話を聞いていて、
すごく、「あ、私の仕事でも
同じようなことがあるんだわ」
と思ったんですね。 |
── |
ええ。ええ。 |
大橋 |
「アルネ」でじかにいろんな方と
お話をするでしょ。
で、そのときの緊張感とか‥‥それって、
やっぱり、ものすごくだいじなことなんです。
ものを作って行くうえで。 |
大貫 |
そうですよね。だから、今回、
そうやってほぼ一発撮りで
レコーディングすると、
ほんとに緊張するんですよね。 |
大橋 |
ええ。 |
大貫 |
自分が間違えたらですよ‥‥
すごくいいノリで曲の後半にさしかかって
自分が間違えたら、
もう台無しじゃないですか。
だから、すごい集中力の元にみんながやって。
間違えても、1音ぐらいだったら
弾き直せるんだけど、
何かとんでもないことをやらかすと、
もう、台無しになっちゃうんですよね。
──そんな緊張感がある、いいものって、
なかなか最近ないんですよね。 |
大橋 |
そうですねぇ。 |
大貫 |
緊張感がないと駄目ですよね。 |
── |
駄目なんでしょうね。 |
ふたり |
ええ! |
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(次の更新は火曜日です!
お楽しみに。) |