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糸井 |
大学4年まで、とくにビジョンもなかった人が
ふわふわと大きな会社に入ったわけですから、
きっと、ギャップがありますよね。 |
しりあがり |
ありますね。 |
糸井 |
髪は切ったけど、
心の中ではまだ長髪、みたいな。 |
しりあがり |
そんなに長くなかったですけど(笑)。
ま、会社では浮いてましたね。 |
糸井 |
浮いてるに決まってますよね。
そういう経緯で入ったんなら。
でも、さっきも言いましたけど、
ぼくがいっしょに仕事しているときは
「浮いてない人」として見てましたよ。 |
しりあがり |
いや、それは一生懸命、
そういう人に見えないように
振る舞ってたんだと思いますよ。 |
糸井 |
努力して。
浮かないように、重りをつけて。 |
しりあがり |
そうですね。
ひと言でいえば、いつもびびってました。
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糸井 |
どういうことで? |
しりあがり |
たとえば、あの、外部のクリエイターの方が、
「こいつだったら変な企画を
通してくれるんじゃないか」っていう感じで
ぼくのところに期待とともに
プランを持ってきてくれることが多かったんです。
それが、イヤだったんですね。
なんでイヤかというと、ぼくがそれを気に入っても、
上に通せる自信がないんですよね。 |
糸井 |
ああ、なるほど。 |
しりあがり |
通せる自信があれば、
思ったとおりに動けるんですけど、
ぜんぜん自信がなくて。
それでもう、そういうプランがくると、
「データをつけてもらえませんか」とか。 |
糸井 |
これだと変なだけの企画になっちゃうので、
裏づけとしてデータをくださいってことだね。
つまり、自分が言われそうなことを
言わなきゃならない立場だったんだ。 |
しりあがり |
そうそう、そうなんです。 |
糸井 |
それを聞いてわかりましたよ。
だから、外から見ると、
当時のしりあがりさんは
すごくきっちりした人に見えたんだ。
だから、仕事はできますよね。
だって、両方の意図がわかるわけだから。
つまり、通訳みたいなことをしてるという。 |
しりあがり |
相手がそれをやりたい気持ちがわかると同時に、
上からこう言われるんじゃないかってことが
百通りも思い浮かぶわけですよ。
そうすると百通りの対策を
練らなきゃいけないじゃないですか。
でもそんなの無理ですよね。 |
糸井 |
それでびびってるわけだ。 |
しりあがり |
そうそう、びびってるわけです。
まあ、それはぼくが働いていた当時のことで
いまの会社はそういうことは
まったくないそうですけど。 |
糸井 |
まあ、当時はそういう
わけのわからない仕組みが
どこの会社にもありましたよね。 |
しりあがり |
ええ。 |
糸井 |
ただ、当時といまの共通の問題としていえるのは、
働く個人の中に、社会の約束事と、
自分がそれまで大事にしてきたことの
ふたつの法律があるっていうことですよね。
とくに、社会に出たばかりの人、
あるいはいまから社会に出ようとする人は、
そのふたつのあいだで揺れるわけです。 |
しりあがり |
ええ、ええ。 |
糸井 |
それこそ、しりあがりさんの場合は、
わかりやすくふたつありますよね。
会社員と、漫画家と。
その、「ふたつの自分」という問題は
自分の中でどう整理していたんですか? |
しりあがり |
ぼくの場合は、もう、あれですね、
そのころは埼玉県の朝霞に住んでて、
会社は当時、原宿だったんですけど、
池袋の駅で切り替えましたね。 |
糸井 |
はーーー、おもしろい(笑)!
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しりあがり |
山手線に乗ればもう会社のこと考えるし、
東上線に乗るともう漫画のこと考えるみたいな。 |
糸井 |
電車の乗り換えを利用して。 |
しりあがり |
ええ。それはよかったです、乗り換えがあって。 |
糸井 |
形式が助けてくれたんですね。
それは自然にそうなったんですか? |
しりあがり |
そうですね、自然に。
やっぱり、そういう生活をしてると、
考えることがいっぱいあるんですけど、
いっしょに考えると
ごちゃごちゃしちゃいますよね。
だから、そこで分けたんでしょうね。 |
糸井 |
きっと、今の時代の人たちって
自分のルールや法律がひとつですんでる人は
いないと思うんですね。
自分の中にふたつのルールを抱えて
なんとかバランスを取っていかなきゃなんない。 |
しりあがり |
そうですね。 |
糸井 |
いま、「就職」というものを目の前にして
揺れ動いている人っていうのも、
そのふたつのルールのあいだで
ゆらゆらしているんだと思うんですよ。
昔だったら、そのふたつを
「本音と建て前」みたいな
言い方をしたのかもしれないけど、
そういう単純なことじゃないと思うんです。 |
しりあがり |
うん。大事なことがふたつあるんでしょうね。
それを、自分の中で
一生懸命つなげようとしたりとかね。 |
糸井 |
あああ、つながんないのに。 |
しりあがり |
そうそうそう、つながんないけど。 |
糸井 |
でも、つなげようとすることをあきらめたら
きっとその人じゃなくなっちゃうんだろうね。 |
しりあがり |
そうですね。
(続きます)
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