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糸井 |
しりあがりさんは、会社員だったころに
面接官をやった経験はあるんですか。 |
しりあがり |
あります。 |
糸井 |
それは、いかがでした?
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しりあがり |
いやもう、すごい経験ですよね。
学生が自分の前で、ものすごく緊張して
精一杯自分をよく見せようとして、
少しも悪印象を持たれないように
目の前にいるんですよ。 |
糸井 |
基本的に、悪印象の持ちようがない。 |
しりあがり |
そうそう。
それも、すごく優秀な人たちばかりじゃないですか。
でも、10人にひとりくらいしか採用されない。
なんで俺が入れて、この人が落ちるんだろう、
みたいな人ばっかりで(笑)。 |
糸井 |
どういうふうに人を選んだか、
何が決め手になったか、覚えてます? |
しりあがり |
あの、面接官をやると決まったときに
人事部の人に相談したんです。
人を選ぶということがよくわかってないんですけど、
どうしたらいいんですかって。
そしたら、その人は、
「あんまりいろんなことを気にしないで、
自分がいっしょに働きたいと思う人を選んで」
って言ってくれたんです。 |
糸井 |
ああ、それは、ぼくが採用に関して
思っていることと同じですね。 |
しりあがり |
ああ、そうですか。 |
糸井 |
というか、どこでも、そうに決まってますよね。
あの、「企業は人が欲しいんだ」という
ものすごく基本的なことを、
学生の人は忘れてるんじゃないかと思うんです。
面接官は、学生を落とすためにいるんじゃない。 |
しりあがり |
そうですよね。
少なくとも「採用できる人」の条件を
箇条書きにして五点評価でランキングする、
なんていうことではないというか。 |
糸井 |
そうですね。
自分が面接官をやっていたとき、
学生の成績はチェックしましたか? |
しりあがり |
見ましたね。 |
糸井 |
あ、見ましたか。 |
しりあがり |
というか、それで選ぶというよりは、
こんな人が来てるんだな、という感じですね。
なんかね、やっぱりみんなすごいんですよ。
なんとか大学で、全部優だ、とか。 |
糸井 |
じゃあ、逆にいうと、
それだけで受かるというわけではない。 |
しりあがり |
でも、やっぱり、ちょっとだけ
受かる確率は高くなると思いますよ。 |
糸井 |
正直な意見だなあ(笑)。 |
しりあがり |
どういうことかというと、
いま、その人が目の前にいて、面接して、
なんか「いまひとつかなあ」と思っても、
成績がすごくいいというを見ると、
「あ、やればできる人なのか」みたいな。 |
糸井 |
ああ、ああ、なるほど。
「俺の見てないところでいいのかもしれない」と。 |
しりあがり |
そうそうそう。いまは緊張してるけど、
慣れてきたらよくなるのかも、とか。
それは多少思っちゃいますよね。
だって、いい成績を取るのって、
そんな簡単ではないですから。 |
糸井 |
なるほどなぁ。
さっきからしりあがりさんが言ってることって、
ほんとにみんなが思ってることですよね。
ここまで本当のことって、
そんなに言われてないんだろうと思います。 |
しりあがり |
そうなんですかね。 |
糸井 |
逆に、面接される側だったとしたら、
しりあがりさんはどうですか。
うまくやれるほうですか。 |
しりあがり |
ぼくは、ほんとは、
面接とか、すごく苦手なんですよね。 |
糸井 |
会社員はできてたんだけど
面接は苦手なんですか? |
しりあがり |
いや、苦手ですね。
すごくドキドキしちゃうんですよ。
だから、あの、会社員時代の話に戻りますけど、
上の人が「これ、ほんとに大丈夫なの?」
って訊いてくることありますよね。
そのときって、もう理屈とか裏づけとかじゃなくて、
上の人は「任せてください!」って
言ってほしがってるわけですよね。 |
糸井 |
うん。 |
しりあがり |
でも、そこでぼくは
「大丈夫です!」って言えないんですよ。
だってそんなのわかんないじゃん、っていう。 |
糸井 |
ああ(笑)。 |
しりあがり |
でも、会社って、リスクを背負ってでも
「これでいけます!」って言わないと
進まない話もあるわけで。 |
糸井 |
そこまでわかっていても、言えない。 |
しりあがり |
言えないんですよね。
それって、面接ではまずいですよね。
たとえば、最終面接までいって、
「受かったらこの会社に来ますか?」
って訊かれたときに、そこでなんとなく
「はい」と即答できないところがあるんですよね。
いや、さすがに「行きません」とは言わないまでも
ちょっと、目が泳いだりとか。
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糸井 |
その気持ち、わかります(笑)。
だから、ぼくが就職について書いた原稿に、
就職活動真っ最中の人たちから
たくさん反応があったんですけど、
みんな、おんなじですよ。
いましりあがりさんが言ったようなことのあいだで
揺れている人ばっかりなんです。
だから、ぼくはその人たちを、
救うとまでは言わないまでも、
その人たちに届く特集がやりたいと思ってるんです。 |
しりあがり |
なるほど。 |
糸井 |
だからね、そういう状況になったら、
目は泳げ、と。目よ泳げ、と。
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しりあがり |
(笑) |
糸井 |
いや、でも、ぼくもできてないんですよ。
ほんとうのことと、便宜上のことばと、
そのあいだで揺れることはいまだにあります。
役割としての演技に徹しきれなかったりね。 |
しりあがり |
ありますよね。 |
糸井 |
うん。 |
しりあがり |
ぼくも、嘘つくことはあるんです。
でも、嘘をつくことはあるけど、
「それ嘘?」って訊かれたときに
「嘘じゃない」とは言えないですよね。 |
糸井 |
ああ、重ねてしまうと、
役割の域からはみ出ますからね。 |
しりあがり |
そう。だから、もう、すごく慎重に、
訊かれないように、訊かれないように。 |
糸井 |
うん。
だから、さっきの五点評価みたいなことになると、
嘘の確認をしなくちゃならなくなるんだけど、
仕事してておもしろい人って、
そういう評価からはみ出る人ですよね。
ぼくの悪さも、その人の悪さも、
お互いに知り合っていて、そのうえで
「いっしょに仕事するとおもしろいな」
って思えるような人じゃないですか。 |
しりあがり |
そうですよね。
(続きます)
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