研究レポート84 女グセが悪い暴言家
その5 アインシュタインはひどい男?
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有名になったら‥‥歯止めがきかない! |
さて、アインシュタインと
前妻ミレヴァの読み通り
彼はノーベル物理学賞を受賞します。
まあ、当然といえば当然です。
受賞が遅れたのはユダヤ人に対する偏見が
当時まだ強かったこと
「相対性理論」が実証されにくい理論であったこと
などが挙げられます。
実際、受賞対象となったのは
「光電効果」の研究に対してでした。
さて、科学界の新しいスターに会おうと
メディアの記者たちが殺到してみると
そこにいたのは、お茶目でカリスマ性を備えた
今までのイメージを覆すような科学者でした。
彼は一躍「時の人」になり
どこに行っても大歓迎されるようになります。
みんな、彼の相対性理論はわからないまでも
彼のキャラクターに夢中になってしまったのです。
彼を見ただけで卒倒する令嬢もいたくらいの
人気者アインシュタインです。
当然のことながら女性からのアプローチも
猛烈なものとなりました。
もともと好色なアインシュタイン
もう「来るもの拒まず」状態で
好き勝手し放題。
浮気相手の女性を身近に置くために
自分の秘書になるように手配する、なんてことも!
女性問題は絶えることなく繰り返されました。
相変わらず下手な詩を交えた
熱烈なラブレターを送りながら。
情事の数々を、妻エルザに隠そうともしないので
エルザは身体を壊すほど悩みます。
「彼ほどの人になると
何をしても許されるのね」
と言ったとか。
それでも、今度の二人の結婚は
エルザが亡くなるまで続きます。
もちろん、そう幸せな結婚といえるわけもなく
アインシュタインは
「家でシャツが準備されている便利さ」のため
虚栄心の強いエルザは
「偉大な人の妻であること」のために
離婚しなかったのでは、といわれています。
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息子たちに見放されるアインシュタイン。 |
物理学の世界を変えた発見をした
世紀の大天才で、時代の寵児になり
死後も愛され続けている科学者。
しかも、女性にモテモテで
好き勝手に遊び放題。
「最高の人生?」と思う人もいるかも。
でも人生、それなりに帳尻が合うものです。
アインシュタインにとっての
「悩みの種」のひとつは
前妻ミレヴァとの息子たちとの関係でした。
長男のハンス・アルベルト
(のちに水力工学の権威に)
は父母が別居したとき
まだたったの12歳でした。
母親ミレヴァの苦しみを
身近で感じ続けていただけに
父親には苦々しい思いを抱くように。
それがアインシュタインを
ひどく苦しめました。
父子の関係は生涯
しっくりいかないままでした。
そして、次男のエデュアルド。
彼は子供のころから早熟で
周りを驚かせるほどの
天才的な才能を示していました。
大学では医学部に入り
精神科医を目指します。
でも、彼は治療する側ではなく
される側になってしまったのです。
彼はある失恋が原因で
統合失調症と診断されました。
彼の病は一生治ることがなく
精神病院で一生を終えることに‥‥。
エデュアルドは
「自分を見捨てて人生に影を落とした」
「お父さんなど大嫌いだ」
とアインシュタインを非難。
二人目の妻、エルザも
こう手紙で書いています。
「アインシュタインは自身の身に
どんなことが起きても
弱音は吐きませんでしたが
今回の次男の病気のことは
彼にとても辛い打撃になっている」と。
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聖と俗を併せ持った、普通の人なのかも。 |
「結婚は偶然の出来事から長続きするものを
作り出そうとする成功できない企てである」
という、自らの経験による
名言を残しているアインシュタイン。
でも、本当は幸せな結婚生活に
憧れを抱いていたようです。
大学時代からの親友
ミケーレ・ベッソが亡くなったとき
彼の墓碑銘として次の言葉を選びました。
「彼をひとりの人間として
いちばん尊敬している点は
長年にわたって心安らかに
暮らしてきただけでなく
ひとりの女性と仲よく
暮らしてきたことです。
この事業には、わたし自身は
かなり不名誉なことに、二度にわたって
失敗してしまいました」
確かに、アインシュタインは
世紀の大天才と言っても
大げさではないでしょう。
それだけに聖人化されることも多いのですが
聖と俗を併せ持った普通の人でした。
女性関係でだらしないかもしれない。
せこいかもしれない。
でも、アインシュタインは頭が良いだけに
自分の弱さ、狡さなども
自覚していたのではないでしょうか。
そして、一番欲しかったであろう
息子たちからの愛情が得られなかったのは
彼にとって苦痛そのものだったでしょう。
そう考えると、彼の名言も
「聖人の名言」ではなく
「悩みぬいたひとりの
俗人から絞りだされた言葉」
と私には思えるのです。
アインシュタインの実像を知るにつれ
「なんなの、この女の敵は!」
と思った私ではありますが
栄光と同じくらいの苦しみを
味わったかもしれない彼。
そう考えて、彼の名言集を
読み直してみることにしましょう。
(c)西谷直子
(このテーマおわり)
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研究員Aさんこと内田麻理香さんの新刊です。
『恋する天才科学者』
内田麻理香著 講談社
ISBN 4062144395
発売日 2007/12/20
イラスト 西谷直子
Amazonはこちら。
今回のテーマのアインシュタイン他
研究員Aこと内田が惚れ込んだ
16人の科学者を取り上げています。
私は科学も好きですが
研究者という人種も大好き!
天才科学者たちの知られざる一面
(ダークサイド?)を取り上げて
「いい男度」を独断と偏見で斬った
無謀な本です〜。
でも、「欠点」があるからこそ
その人に惚れ込んでしまうんですよねえ。
読み終わったあと
「人間って、愛すべき存在かも」という
気になっていただけたら嬉しいです。
そして、この本がきっかけで
科学を身近に感じる読者の方がいたら
著者冥利に尽きます!
(内田麻理香)
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