KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の参百拾九・・・干してある

小林先生は、知る人ぞ知る寒がりである。
そのような事を知っていたからといって、
何の役にも立たないことは言うまでもない。

冬には布団を7枚以上掛けて寝るため
重みで首がしまり、
悪夢を見て飛び起きることがあるのも
知る人ぞ知るであるが、
ざまあみろといったところであろう。

北小岩 「ふう〜、
 先生のお布団を片付けるのは
 ひと苦労でございます。
 また、これほど無意味な作業も
 ございません。
 大きな石を別の位置に運び、
 再び元の位置に戻す。
 それを永遠にやらされる。
 そのような怖ろしいお話を
 うかがったことがございます。
 わたくしの場合、近いものを感じます。
 何とかならないものでございましょうか」
小林 「お前、
 何を布団と話しているんや。
 ど助平なことか」
北小岩 「そうではございませんが・・・」
小林 「俺の布団のことやな。
 ただ単に寒がりなのに、
 掛け布団が7枚を超えると、
 アホ呼ばわりされることすらある。
 寒がりとアホは明らかに違う。
 近所の輩の布団を、
 偵察する必要がありそうやな」

二人は下着泥棒に間違われないように
細心の注意を払いながら、
天日干ししている布団に近づくと。

「キャー! 下着泥棒〜!!」

「どこだ! こいつらか!!
 ちょうどいい、今、
 便所掃除に使った水をくらえ!!」

ざば〜っ!

小林 「ウップス〜〜〜!」
北小岩 「目に入ってしまいました。
 便器を洗った水が〜」

「そこにいるのは、
 先生と北小岩くんではないのか。
 いやあ、失敬失敬!」

目に入った汚水は盆に返らず。

近所の
おやじ
「ところで何をしているのかな」
北小岩 「先生は尋常ではなく
 布団を掛けて寝るのですが、
 近所の人たちがどんな布団を
 何枚ぐらい掛けているのか、
 調べようと思ったのです」
小林 以前、布団屋に行った時
 『お灸布団』だの
 『フランクフルト布団』などという
 けったいなものを薦められた。
 しかし、おやじのところも
 かなりかわった布団を干しとるな」
北小岩 「内側にファンのようなものが
 内蔵されております。
 熱を持ってしまった局所を
 冷やすのでございますか」
近所の
おやじ
「そういった使い方をする時も
 あるけど、
 布団の中で思わず
 屁をこいてしまうことがあるだろ。
 そのまま閉じ込めておくんじゃ
 もったいない。
 ファンで屁を移動させれば、
 香りを嗜むことができるだろ」

小林 「北小岩、次の家行こうか」

今の夫婦よりも、
かなり若めの夫婦宅の布団を観察する。

小林 「今度こそ、
 下着泥棒に間違われんようにせんとな」

「きゃ〜! 下着泥棒〜!!」

先生たちの努力は無駄。
飼い犬の糞を二階から投げられた。

北小岩 「違うのございます。
 あなた様のお布団が
 あまりに奇妙な形状をしているため、
 観察していたのでございます」
小林 「何やこれは?
 真ん中よりやや下あたりに、
 鉄のまわしのようなものがあって、
 装着できるようになっとるが」
近所の
若奥さん
「あなたたち、五軒先の人ね。
 それは貞操帯付きの掛け布団なのよ。
 気のりがしないのに
 夜中に夫が下半身に
 ちょっかい出してくることがあるでしょ。
 その気がある時は開錠しておき、
 拒否したい時には施錠しておくのよ」

小林 「なあ北小岩、戻ろうか」
北小岩 「はい」

こうして近所で使用されている布団を見ると、
先生が幾分ましに見えてくる。
だからといって、どうでもよいことであるが。

小林秀雄さんへの激励や感想などは、
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2010-11-14-SUN

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