小林先生は、知る人ぞ知る寒がりである。
そのような事を知っていたからといって、
何の役にも立たないことは言うまでもない。
冬には布団を7枚以上掛けて寝るため
重みで首がしまり、
悪夢を見て飛び起きることがあるのも
知る人ぞ知るであるが、
ざまあみろといったところであろう。
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北小岩 |
「ふう〜、
先生のお布団を片付けるのは
ひと苦労でございます。
また、これほど無意味な作業も
ございません。
大きな石を別の位置に運び、
再び元の位置に戻す。
それを永遠にやらされる。
そのような怖ろしいお話を
うかがったことがございます。
わたくしの場合、近いものを感じます。
何とかならないものでございましょうか」 |
小林 |
「お前、
何を布団と話しているんや。
ど助平なことか」 |
北小岩 |
「そうではございませんが・・・」 |
小林 |
「俺の布団のことやな。
ただ単に寒がりなのに、
掛け布団が7枚を超えると、
アホ呼ばわりされることすらある。
寒がりとアホは明らかに違う。
近所の輩の布団を、
偵察する必要がありそうやな」 |
二人は下着泥棒に間違われないように
細心の注意を払いながら、
天日干ししている布団に近づくと。
「キャー! 下着泥棒〜!!」
「どこだ! こいつらか!!
ちょうどいい、今、
便所掃除に使った水をくらえ!!」
ざば〜っ!
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小林 |
「ウップス〜〜〜!」 |
北小岩 |
「目に入ってしまいました。
便器を洗った水が〜」 |
「そこにいるのは、
先生と北小岩くんではないのか。
いやあ、失敬失敬!」
目に入った汚水は盆に返らず。
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近所の
おやじ |
「ところで何をしているのかな」 |
北小岩 |
「先生は尋常ではなく
布団を掛けて寝るのですが、
近所の人たちがどんな布団を
何枚ぐらい掛けているのか、
調べようと思ったのです」 |
小林 |
「以前、布団屋に行った時、
『お灸布団』だの
『フランクフルト布団』などという
けったいなものを薦められた。
しかし、おやじのところも
かなりかわった布団を干しとるな」 |
北小岩 |
「内側にファンのようなものが
内蔵されております。
熱を持ってしまった局所を
冷やすのでございますか」 |
近所の
おやじ |
「そういった使い方をする時も
あるけど、
布団の中で思わず
屁をこいてしまうことがあるだろ。
そのまま閉じ込めておくんじゃ
もったいない。
ファンで屁を移動させれば、
香りを嗜むことができるだろ」
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小林 |
「北小岩、次の家行こうか」 |
今の夫婦よりも、
かなり若めの夫婦宅の布団を観察する。
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小林 |
「今度こそ、
下着泥棒に間違われんようにせんとな」 |
「きゃ〜! 下着泥棒〜!!」
先生たちの努力は無駄。
飼い犬の糞を二階から投げられた。
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北小岩 |
「違うのございます。
あなた様のお布団が
あまりに奇妙な形状をしているため、
観察していたのでございます」 |
小林 |
「何やこれは?
真ん中よりやや下あたりに、
鉄のまわしのようなものがあって、
装着できるようになっとるが」 |
近所の
若奥さん |
「あなたたち、五軒先の人ね。
それは貞操帯付きの掛け布団なのよ。
気のりがしないのに
夜中に夫が下半身に
ちょっかい出してくることがあるでしょ。
その気がある時は開錠しておき、
拒否したい時には施錠しておくのよ」
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小林 |
「なあ北小岩、戻ろうか」 |
北小岩 |
「はい」 |
こうして近所で使用されている布団を見ると、
先生が幾分ましに見えてくる。
だからといって、どうでもよいことであるが。
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