第4回 ぽん、と抜けてごらん。

小林
ツリーハウスというものには、
いろんな要素がまじりこんでいると思うんですが、
いまこの世界にはあまり存在しないような、
リスクも含めたワクワク、ドキドキがある。
それはとても必要とされているんじゃないかと
思っています。
糸井
もろさとかもね。
小林
楽しいもののなかに
ちょっとドキッとするものがあるから
ワクワクできるんで、
そこを全部削っていっちゃうと
また別な世界になっちゃうんだろうと思います。

体感でしかわからないものを
少しでも残しておきたい。
リスクのある、しかもむだなものを作る、
ということを恐れるあまりに
ぼくがツリーハウスを作ることをやめてしまったら
ダメだと思っています。
リスクより楽しいことがひとつでも多いのであれば
やっぱりぼくは日本のパイオニアとしては
ツリーハウスを建てつづけていくべきだし、
次の世代がもっとすてきな、
もっとスマートな考え方で、
問題をクリアしていってくれればいいのかなと
思っています。
糸井
スマートになるかどうかは
ぼくにもわからないですが、
もっと「いろいろ」にはなりますよね。
そのいろいろさが、これからは大切だと思います。
さきほど、小林さんが
旅をしていたとおっしゃったとき、
周囲を困らせる人がいなくなった、と言いましたが、
やっぱりいま、そんな人はめったにいない。
みんな、横を見ては
おんなじようなことしているように思えます。
そこからポンと抜け出す、ひとつの方法として、
木の上にあがるのはどう?
やってごらん、と言いたいです。
小林
そうそう、そうですね。
写真を見たりするだけではなかなか表現できない‥‥
なーんでしょうね、あの、
木の上にのぼっていって、
少し揺れる足場の上で
景色を見たときに感じるもの。
DNAの中に、
二足歩行して地上に降りてくる前のものが
あるんだなとわかるぐらい、
ちょっとハイになるんですよ。

北海道滝川市 そらぷちキッズキャンプのツリーハウス
難病の子供達とそれを支えるご家族が安心して遊べる、医療設備を完備した
日本初のキャンプ場に、ストレッチャーでアクセスできるバリアフリーのツリーハウスを制作。
糸井
なりますねぇ。
ビルの3階や4階から外を見ても、
ぜんぜんおもしろくない。
だけど、木の高さで見たら、
それだけでおもしろいんですよ。
小林
会社のミーティングも、
木の上でやるといいと思います。
公民館も、木の上に作る。
きっとビルの部屋からは出ないなにかが
現れると思います。
音楽スタジオとかも、
ツリーハウスに向いてると思います。
糸井
緊迫感を背にして
みんなでミーティングをすると、
新しいアイデアが出てくるかもしれないなぁ。
小林
FM局も、
ツリーハウスから放送したいって
この前言ってました。
糸井
あ、いいですね、それ。
おぼえておこう(笑)。
しかし‥‥小林さんは、就職したのちに海外に行って、
自分で住んでるうちを
ツリーハウスにして‥‥思ってみれば
すごく運のいい人生だと思う。
運命の出会いでしたね。
小林
そうですね。もう、ラッキーとしか言えないです。
糸井
おもしろいですよね。
放送学科出身ということは、
建築はほんとうに、それまでぜんぜん
やらなかったんですか?
小林
やったことないです。
不器用だし図面も描けないです。
糸井
いまも図面はないんですか?
小林
いまも図面はないです。
頭の中にあるラフなものを
現場で調整しながら作っていくうちに、
「こっちから登るんであれば
 ここに窓も欲しいね」
などということになります。
図面があると、それに引っ張られちゃうので
予定調和の直しができなくなります。

ツリーハウスは、木の上で作ったほうが
自由なんですよ。
しかもそのほうが、作りながら好きになる。
譜面がないオーケストラの指揮をしている
というような感じですね。

宮城県東松島野蒜地区 東松島市・C.W.ニコルアファンの森財団による
「復興の森づくりと森の学校」プロジェクト
糸井
その作り方の転換は、
まさしくいまの世の中の
ポイントになることだと思います。
つまり
「ビジョンがあって目的があって
 そこにたどりつくためにいま我慢しろ」
ということがいまは通ってるけど、
ほんとうはそうじゃなくしたいですよね。
ここはわかんないけどいい方向にしたいね、
という姿勢さえあれば
どこかにはたどりつくと思います。
小林
そうですね。
糸井
ぼくは、100作るって
最初に看板に掲げていますけれども、
100作るのはたくさんの人の力によるものです。
ひとつ作るだけでも大変なことを
100作るっていうのは、
みなさんが「作りたい」と思って
責任を持ってなんらかの参加をしてくれなければ
できないことです。
でも、参加をすることで、
きっと木の上からの
新しい景色が見えると思います。
何年かかるかわかりませんけど
こんな余計なものが
みんなの豊かさを作るような計画を
手伝っていただけたらうれしいです。
お金のある人はお金を、知恵のある人は知恵を、
暇のある人は暇をみんなで出しあって‥‥。
小林
そうですね。
そうなれたらいいなと思います。
糸井
いま、会場で話を聞いてくださっているみなさんの、
顔が笑ってるんですよ。
ツリーハウスの話するときって、取材でも会議でも、
誰もがちょっと笑うんだよね。
そういうことが、ほんとに、鍵だなと思います。
ツリーハウスを日本の国内に
いくつも持てるということになると、
国の印象も違ってくるんじゃないかな。
小林
「これは豊かな国だ」ということになると思います。
海外にいると、日本にそんなに木があるのか、と
よく言われますが
国土の69%は森なんだよと言うと、
みんなにびっくりされます。
糸井
あ、時間だ。
今日は、ありがとうございました。
お会いできてうれしかったです。
これからも、どうぞよろしくお願いします。
小林
こちらこそ、よろしくお願いします。
ありがとうございました。

(おしまいです)

2014-04-21-MON

はまぐり浜のツリーハウス。

この対談は、1月に福岡のヤフオク!ドームで開催された
リユース!ジャパンプロジェクトのイベントで
行われました。
このイベントに来場されたみなさまが
お持ちくださった古着と
チャリティオークションの費用で建設されているのが、
石巻のはまぐり浜のツリーハウスです。
古着を寄付してくださった福岡のみなさまのメッセージは
はまぐり浜のツリーハウスの開始式で披露されました
いま、ヤフー石巻復興ベースをはじめ
たくさんの方々の力を借りながら
はまぐり浜のツリーハウスを作っています。
いつか、小林崇さんともいっしょに
ツリーハウスを作れればうれしいなぁ、と思います。

小林崇
(こばやし たかし)

1957年生まれ。ツリーハウスクリエーター。
1994年にツリーハウス建築の世界的権威として知られる
ピーター・ネルソンに出会い、
オレゴン州で開催される
ワールド・ツリーハウス・カンファレンスに
日本代表として参加をはじめる。
2000年、ジャパン・ツリーハウス・ネットワークを設立。
2005年、ツリーハウス・クリエーションを立ち上げる。
世界各地の風土、樹木に適した
ツリーハウス制作を続けている。

小林崇さんのWEBサイト

© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN