- 糸井
- さきほど小林さんは
「周囲を困らせるほど旅をした」
とおっしゃいましたが、いまは、
そういう人っていないんじゃないかな、と思うんです。
家の中で閉じこもってる人はいます。
でも、「外に出て困らせる人」は
どんどん少なくなっているような気がします。
ぼくは、可能性としては、
「外に出て困らせる人」が
世の中を変えると思っています。
- 小林
- そうですね。
外に出るといっても目的もないので‥‥
目的がないからこそ、
大きな流れではない、枝葉のところに行きついて、
気がついたら漂流して、
離れると滝に落っこっちゃって、やり直すと
なぜ自分はそこにいたのかさえ忘れてしまう。
そんな状態です。
だから、ぼくという人間は、ここまで
とっても時間がかかりました。
いま思えばその枝葉のひとつひとつや
漂流してた時間も、
自分を構築していると思います。
しかし当時は、高度成長期の後半あたりでしたから、
やればやっただけ「なにか」になるのがふつうでした。
いいところに就職して偉くなっていき、
新人だった奴が課長になり、
ADはディレクターになり‥‥、
そのなかでぼくだけはなにもないんです。 - 糸井
- しかも、いる場所も
よくわからないわけで‥‥。 - 小林
- 人ん家だったり、
当時の彼女のおうちだったり、寮だったり。
居場所もない感じ。
逆に言えば、居場所にしたい場所も
自分の中では見つからず‥‥つまり、
日本が嫌いでした。
- 糸井
- ちなみにいまはどうですか。
- 小林
- いまは、日本はすてきな国だと思います。
人もすてきですし、国土もすてき。
材料は全部好きです。
だから、糸井さんの世代、ぼくの世代、
その先に若い連中がいるということを考えれば、
そろそろ次の世代に舵を託すようにして、
いまいる子どもたちが大人になったときに
「まぁまぁいいもの残してくれたんじゃないかな」
と言えるようなことはやりたいです。 - 糸井
- さきほど、ツリーハウスについて
ヒッピーカルチャーという言葉が出ましたけど、
ぼくが年取ってからいろんなおもしろい人に会うと
どこかでヒッピーカルチャーの洗礼を受けてる方が
多いんですよ。 - 小林
- そうかもしれないですね。
- 糸井
- アンリ・べグランさんや、
シルク・ドゥ・ソレイユのジル・サンクロワさん。
彼らと話をしていると、根っこに
ヒッピーカルチャーがあるのがわかります。
ヒッピーカルチャーって、つまりは
居心地の悪さから作っていった文化だと思うんです。 - 小林
- そうだと思います。
なにか、ちがうんじゃないかな?
という違和感を持ってた人たちが
作りあげたものでした。
しかし、ぼくはその世代じゃないんで、
その世代のことを知って
「え、そんなだったの?」
という驚きのほうが大きかった。 - 糸井
- それでいいわけ?
みたいな(笑)。
鹿児島県日置市 NPO法人「ふく松」のツリーハウス
限界集落にて地域ぐるみで子供達、高齢者を交えて
互いに支えあるコミュニティーを作る活動をしているNPO法人ふく松が、
全国で初めて、100%森林環境税(木のあふれる事業)の助成によって制作したツリーハウス
- 小林
- そうです。
ぼくらは、学生運動の残り香があったぐらいの頃に
学生時代を過ごし、
サーフィンやスケートボードをしながら
でも、これだけじゃないなにかが
きっとあったんだろうなということは感じていました。
そういうものを求めて、
ぼくはいつも旅をしていたように思います。
その「なにかわからないけどすてきなもの」が
ストーンズやピンクフロイドなどの音楽にあったり
ファッションの中にも潜んでいました。
しかし、ぱっと振り向くと、
自分より若い世代にはもうそれがないんだな、とも
思いました。 - 糸井
- 社会の中に確かにあるんだけども、
それは社会とは言えないもの、ですね。
「全部を納得して生きてる人」には、
ツリーハウスのようなものって、
ちっとも魅力はないでしょう。 - 小林
- なぜなら、なくてもいいものですからね。
そう、あれはなくてもいいんです。
むだなことを一所懸命やっている奴が
たくさんいると困りますけど、
少しであればいたほうが
生物多様性という意味を含めて
いいんじゃないのかなと思います。 - 糸井
- 大失敗をやったことのある自分と
それをやったことのない自分、
どっちがおもしろいかと言えば、
大失敗をしたほうの自分です。
それと同じような感覚で、
ツリーハウスのある日本とツリーハウスのない日本、
どちらがいいかと考えたら、
どれだけ役に立たないかは別として
ぼくはツリーハウスがある日本に住みたいんですよ。
兵庫県神戸市 甲南女子大学のツリーハウス
神戸伝統の女子大学の敷地内に、環境と芸術を考えるシンボルとして制作したツリーハウス。
巻貝をモチーフに全体が構成されている。
- 小林
- ええ。そのほうが豊かです。
「あ、そんな連中もいるんだ」
「あんな怪しい、リスクのあるものを、
台風や雪のなかで懸命に
作ったり滞在したりしてるんだね」
そういうふうに、いろんな人に思ってほしい。
ぼくはもともと臆病で小心者なんです。
だから、作るものに自信があったことは一度もなく、
「どう考えても風が来ればダメだろうな」とか、
「台風のようなものに勝つツリーハウスはできない」と
わかっています。
チャレンジはしてますけど、
自然に歯向かえるとは思ってない。 - 糸井
- そのあたりも、小林さんは
ちょっとヒッピーっぽいですね。 - 小林
- そうですね。
自然は、歯向かって勝てるものではないといういことが
過去20年でわかりました。
風で飛んじゃったツリーハウスが、実際にあります。
でも、その臆病さが自分にあるうちは安心です。
「もう大丈夫だ、
俺に任せればどんな木にでも作りますよ」
と言うようになったら、もう
ぼくのことは信じないほうがいいです。 - 糸井
- それはよくわかるな。
小林さんとは年代は違うんだけど、
ほとんどぼくも同じこと言います。
「俺についてこい」って
デカい声で言えるようになったら、危ないと思う。 - 小林
- やっぱりそうですよね。
- 糸井
- ついてこないほうがいいぞ、
ついてこないほうがいいぞ、って言ってんのに、
「いや、ちゃんと逃げますから
ついていかせてください」
「んー、ならいいか」
そんな距離感ですね。
この考えそのものがツリーハウスっぽいですね。
(つづきます)
2014-04-18-FRI
この対談は、1月に福岡のヤフオク!ドームで開催された
リユース!ジャパンプロジェクトのイベントで
行われました。
このイベントに来場されたみなさまが
お持ちくださった古着と
チャリティオークションの費用で建設されているのが、
石巻のはまぐり浜のツリーハウスです。
古着を寄付してくださった福岡のみなさまのメッセージは
はまぐり浜のツリーハウスの開始式で披露されました。
いま、ヤフー石巻復興ベースをはじめ
たくさんの方々の力を借りながら
はまぐり浜のツリーハウスを作っています。
いつか、小林崇さんともいっしょに
ツリーハウスを作れればうれしいなぁ、と思います。