糸井 |
野球と「ことば」の話に戻りますけど、
ちょっと前の時代の野球選手と、
いまの野球選手って、
もう見ている目が違うんじゃないかなぁ
って思うことがあるんです。 |
赤坂 |
「目」。 |
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糸井 |
目というか、見方というか。
たとえば、なんだろう、
今度広島の監督になる
野村謙二郎さんがテレビで
野球の解説をしているのを聞くと、
すごく説得力を感じる一方で、
「これ、いま現役の若い選手には
通じてるのかな?」と思うんです。
たとえば、そうですね、
同じショートでいうと、
川崎ムネリン(宗則)が、
野村謙二郎と同じ見方をしてるとは
どうも思えないんですよね。
なんていうか、野村謙二郎は
言語で野球をとらえている気がするんです。
でも、坂本(勇人)とか、ムネリンとか、
いまの若い選手は写真として
プレーをとらえているような気がする。 |
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赤坂 |
ああ、なるほど。 |
糸井 |
プレーひとつとっても、言語じゃなくて、
写真とか動画みたいな感じで‥‥。 |
赤坂 |
理解していると。なるほど。 |
糸井 |
たとえば坂本がむずかしい位置の
ショートゴロをさばいてね、
クルッと回って遠投してアウトにする、
なんていうときも、
丸ごと動画でとらえている感じがする。
こう、多少、無理があるんだけど、
見事にアウトにしちゃう、みたいな。
本人も、アウトにできて、
ちょっと驚いてたりね。
それって、言語でとらえてる感じが
どうも、しないんですよね。
‥‥すいませんね、抽象的な話で。 |
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赤坂 |
いえいえ(笑)、わかりますよ。
人が変わったのか、時代の流れなのか‥‥。 |
糸井 |
ある時代までは野球って
当たり前に言語のものだった
っていう感じがするんです。
それこそ、赤坂さんの本に出てくるのは
みんな、言語の人たち。 |
赤坂 |
そうですね。アナログな人たち。 |
糸井 |
うん(笑)。 |
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赤坂 |
1990年の日本シリーズで、
巨人が西武に4連敗したことがあったでしょう。
巨人の四番打者、原辰徳、
西武のエース、渡辺久信が、
いまでは両方のチームの監督になっていて、
彼らに当時のことを
訊く機会があったんですけどね。
巨人では、西武の情報を
いっぱい与えられたんですって。
詰め込まれすぎた結果、
かえって萎縮しちゃった。
でも、西武ではそうじゃなくて、
いろんなデータがそろっているなかで
首脳陣が取捨選択して、
「これだけを覚えればいい」という
情報だけを伝えたそうなんです。 |
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糸井 |
なるほど。
短期決戦だから、混乱しないように。 |
赤坂 |
ええ。
でも、いまはまったく逆で、
全部詰め込めばいいんですって。
なぜかというと、いまの選手は
小さいころから携帯電話があったり
パソコンがあったりと、
情報の洪水の中で育ってる。
要するに、昔の選手たちとは
情報処理能力がぜんぜん違うわけです。
だから、思ったこととか感じたこととか
全部、言ってやりゃいいんだと。 |
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糸井 |
へぇーー。 |
赤坂 |
西武の打撃コーチをやってるデーブいわく、
「俺たちだったら、
一度にあんなにいろんなこと言われたら
大混乱すると思うんだけど、
片岡(易之)とか栗山(巧)なんかは
平気で全部吸収しちゃう」と。
ただし、その半面、
最初から受けつけないこともある。
デーブが片岡に説教していたら、
何を言っても生返事でこたえた様子がない。
ぶち切れたのかと思っていると、
夜中の1時半ごろになって電話がかかってきて、
「あのときはすみませんでした。
なんか、どうでも
よくなっちゃったもんですから」って。
いまの子はそんな感じだそうですよ。 |
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糸井 |
なるほどねー。
あの、昔は、3行ずつの
文章のフレーズがあったとすると、
ぼくらのころはその3行を全部足して、
240行の本になったものを
一所懸命読んでたような気がするんです。
でも、いまのひとたちって、
「抜き書き」みたいなものを選びますよね。 |
赤坂 |
あー、コピペですね。 |
糸井 |
つぎはぎでも気にしない、
というか、気にならない。
最初の3行とそのつぎにある3行が
矛盾した内容でも、別々のものとして
デジタルに処理する、みたいな。
それは、ぼく自身も、
最近はそういう傾向がありますね。 |
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赤坂 |
ああ、そうですか。 |
糸井 |
完全に脱線しますけど、
太宰治の作品の中のことばを
いくつも抜き出して、
けっこうばらばらにぺたぺた貼りつけてある、
どちらかといえば安いつくりの本があるんです。
それがねぇ、ばらばらなんだけど、
やっぱりおもしろいんですよ。
抜き書きとはいえ、圧倒される。
もともとの絞り出す力がすごいから。 |
赤坂 |
ほほう。 |
糸井 |
で、それを喜んでる自分を
ちょっとおもしろく思うんです。
昔だったら「これはないよな」と
渋い顔して言ったと思うんです(笑)。 |
赤坂 |
ああ、ああ、なるほどね。 |
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糸井 |
で、そういうのがたくさん出てる中で、
赤坂さんのこういう、
流れと、ことばのある本に出会うと、
やっぱり、うれしくて、
読んじゃうんですよね。 |
赤坂 |
(笑) |
糸井 |
どっちがいいとか
悪いとかじゃないんですけど。
(つづきます) |