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赤坂 |
これ、糸井さんにおみやげです。 |
糸井 |
ああ、プレス用の帽子。
取材に来た記者にくばるやつだ。 |
赤坂 |
そうです。
村田真一を取材したときのやつと、
谷繁を取材したときのやつ。 |
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糸井 |
こういうの、
昔よりモノがよくなってません? |
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赤坂 |
そうなんです。
クオリティーをよくする一方で、
個数は減らしてるんですって。
長嶋さんが監督だったときに比べると
3分の1くらいになってるとか。
つまり、ちょっとレアな扱いにして、
「みなさん、取材に来てください」
というふうにしてるみたいです。 |
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糸井 |
取材に来た人が
誇りを持てるようにしてるんですね。
しかし、そういう取材の歴史についても
赤坂さんは、くわしいよね(笑)。 |
赤坂 |
そうですね(笑)。
ぼくは、取材の最下層だったころから
ずっと野球の現場にいますから。 |
糸井 |
どうしてプロ野球を
取材することになったんですか。
子どものころからの夢で、とか? |
赤坂 |
それはもう完全に巡り合わせです。
会社の人事です。 |
糸井 |
あ、そうですか。へぇー。 |
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赤坂 |
最初は日刊ゲンダイに入って、
1年半くらいは
ふつうに新聞記者だったんですけど、
ある日、人事から
「明日からスポーツ行きなさい」って。
で、行ったら、
すぐに「神宮球場へ行け」と。
右も左もわかんないんですよ。
行ったら、王さんがいて、
記者がワーッといて、
なんだか人のかたまりが
通り過ぎたなと思ったら、
それが呂明賜(ろ・めいし)でした。 |
糸井 |
ああ、ルー・ミンスー。
当時はかなりの盛り上がりでしたね。 |
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赤坂 |
そうそうそうそう。
二軍から引っ張り上げられて
初打席、ホームラン。
あのときが最初の取材でした。 |
糸井 |
その日、何か記事を書いたんですか? |
赤坂 |
はい、書きました。何事によらず
はじめてのときを覚えてるんですが、
その日は、呂明賜に初ホームランを打たれた
ボブ・ギブソンという外国人ピッチャーは
何者かという原稿を書いてます。 |
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糸井 |
最初から、そういう、
主役の裏にいる人の記事を。 |
赤坂 |
そうそうそうそう(笑)。 |
糸井 |
今度、出版された
『キャッチャーという人生』もまさに
「陰の名捕手」に光を当てた本で。
なんだろう、読んでて思ったのは、
著者である赤坂さんがまったく
気配を感じさせないんですよ。 |
赤坂 |
ああ、それは(笑)。 |
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糸井 |
見事に現れないんですよ。
で、現れないわりに、
相手はすっごくしゃべってる。 |
赤坂 |
そうですね(笑)。 |
糸井 |
だから、
スポーツ紙の記者が書くものとしては、
もう理想ですよね。
あの、聞き手が現れちゃう
やり方はあると思うんです。 |
赤坂 |
ええ、ええ。 |
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糸井 |
だけど赤坂さんはちっとも現れない。
だからね、本を読んで思うんだけど、
赤坂さんがなんのために
この本を書いたのかっていうのが、
ほんとうはぼく、わかんないんですよ。 |
赤坂 |
はははははは。 |
糸井 |
なにしろ、書き手の主張が
ちっとも出てこないですからね。
だから、なんていうんだろう、
好きなふるさとの景色、
みたいなものがあるじゃないですか。
まぶたを閉じたら見える
あの景色を覚えておきたいなぁ
って思ってる、そんな景色。
もしくは、そこにたたずんでる人の気持ち。
そういうものを残しておきたいと
思ったのかな、とか。 |
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赤坂 |
ああ、でも、そうかもしれないです。
「この人を書きたい」という気持ちは、
自分のなかに、すごくあります。
村田真一のことは書きたかったし、
達川(光男)さんにもお世話になったし、
デーブ(大久保博元)とも思い出がある。
何を書きたいかというと、
やっぱり、そのときの自分の気分なのかなぁ。
それは、この本のなかに
必ずしも直接書いてはないですけど。 |
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糸井 |
残しておきたいと感じさせる景色が。 |
赤坂 |
そうそう、あるんです。
そのまま書いたらちょっと個人的すぎて
いかにも「選手に信頼されてる記者だ」
みたいになっちゃうし、
選手も書いてほしくないだろうから、
直接は書いてないですけど。 |
糸井 |
うん。だから、直接書いてないぶん、
ためにはならないんですよね。
「すぐに会社で役立つ洞察力!」
みたいなことは、ちっとも書いてない。 |
赤坂 |
ああ、はいはい(笑)。 |
糸井 |
こういう本って、いちおう、
そういうふりをしたりするんですけどね。
でも、この本に書かれてるのは、
「いたんだよ、こういうやつが」
っていうこと(笑)。 |
赤坂 |
そう、そうです、そうです(笑)。 |
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糸井 |
「で、こういうやつの向こう側には、
こういうやつがいたんだよ」と。 |
赤坂 |
そうそう、まさにそう(笑)。 |
糸井 |
読んでてすごく気持ちよかったのは
そういうところなんですよね。
で、みんな「いたんだよ」って言われてる
「こういうやつ」当人たちも、
「俺の前にはこいつがいた」とか、
「横にはこいつがいた」っていう
周囲の関係をいつでも意識してて、
自分が話してるんだけど自分の話じゃない、
みたいな話し方なんですよね。 |
赤坂 |
いや、ほんと、そうですね。 |
糸井 |
その気持ちよさがこの本の魅力なんですよ。
それは、やっぱり、赤坂さんが
こういう本を作りたかったんだろうな。
(つづきます) |