糸井 |
いま、深く取材してみたい
プロ野球選手って誰ですか? |
赤坂 |
うーん‥‥前田智徳。 |
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糸井 |
おお(笑)。
いちおう、理由も訊きましょうか。 |
赤坂 |
なんていうんでしょう、
「オレはあいつを見たんだ」って
あとあと言えるようになる
選手だと思うんですよ、前田って。 |
糸井 |
なるほど、なるほど(笑)。
みんな、語りたがりますよね、前田を。 |
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赤坂 |
ねぇ(笑)、不思議ですね。 |
糸井 |
これまでに取材したことは? |
赤坂 |
一回だけありますが、
すごい経験でした(笑)。
インタビューするために待ってたら、
こう、アイシング用の装備で
ガンダムみたいになってる前田が
ガシャン、ガシャン、音をたてながら
部屋に入ってきて、座るやいなや、
「えーとぉ、なんでぼくは、
ここにおるんですかね?」と。 |
糸井 |
(笑) |
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赤坂 |
いや、インタビューで、って言うと、
「え? インタビューって、
誰がOKしたんですか。
ほぅ、広報のオオタさんが?
ええいうて? ふーん」
っていう感じで(笑)。 |
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糸井 |
はじまったんだ(笑)。 |
赤坂 |
いや、おもしろかったですよ。 |
糸井 |
あの、そこだけ取りあげるのもなんですけど、
エピソードの多い人ですよね。 |
赤坂 |
巨人時代の川相と、
前田の話って知ってます?
ほら、東京ドームの。 |
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糸井 |
いや、なんだろう。 |
赤坂 |
1992年、ドームでやった広島巨人戦で、
200勝した北別府が先発だったんです。
引退の2年前で、体力が落ちていた北別府は
毎試合5回ぐらいまでしか投げられない。
で、1対0で広島がリードしていた
5回裏のツーアウト、ランナーなし。
あとひとり抑えれば
勝ち投手の権利が生じる場面で、
巨人のバッターは川相。
そこでセンター前に
どん詰まりのフライを打つんです。
前田がバーッと走ってきて
ダイビングキャッチ。
ところが手前に落ちて、後ろにそらしちゃう。
そのあいだに川相が
ホームまで戻って来ちゃって同点。
北別府にとって貴重な勝ち星が消えるんです。
そのとき、ベンチに帰ってきた前田が号泣。
もう、延々、泣いてる(笑)。 |
糸井 |
ああ、ああ(笑)。 |
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赤坂 |
で、インタビューのときに
その話を聞いたんですよ。
「あのときの前田選手の涙が
巨人ファンには
強烈に焼き付いたんですよ」って。
そしたら、なんて言ったと思います?
「ぼく、泣いてないです」って言うんですよ。 |
糸井 |
あははははは。 |
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赤坂 |
「いや、でも‥‥」って食い下がっても、
「泣いてないです、悪いけど。
申し訳ないですけど、
泣いてないです」って。
その話はやめましょう、みたいに
話をごまかすわけじゃなくて、
「泣いてないです!」の一点張り。
いや、泣いてましたよ(笑)。 |
糸井 |
いいですねぇ(笑)。 |
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赤坂 |
でね、これは川相に聞いたんですけど、
その試合のあと、広島巨人戦があるたびに、
前田が川相に挨拶するんですって。
それまではしなかったのに。
「川相さん、こんちは」って
顔を合わせるたびに言うらしいです。 |
糸井 |
それは、打ち解けたっていうこと? |
赤坂 |
かと思ったら、そうじゃなくて、
親愛とは真逆の、
「おぼえてろよ」っていう
「こんちは!」なんですって。
こう、奥歯を噛みしめるような、
「‥‥川相さん、こんちは」。 |
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糸井 |
(笑) |
赤坂 |
それで、川相がセンター前に
ヒットを打ったりしますよね。
で、一塁を回って、ちょっとオーバーランして、
二塁をうかがってから一塁に戻るでしょ?
そのときに、前田が
隙あらば川相を刺そうとしてるんですって。
二塁に向かおうとすると、
ガッと投げようとする。
一塁に戻るときボールから目を切ると、
一塁に遠投しそうな素振りをする。 |
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糸井 |
ははははははは。 |
赤坂 |
ベンチのみんながそれを見て、
「前田と川相がなんか妙な会話してるぞ」
とかっておもしろがったりして。 |
糸井 |
いいなぁ。
その話は、両方がそれっぽくていいですね。
目に浮かぶようだ(笑)。 |
赤坂 |
(笑) |
糸井 |
なんていうか、わかるんですよね、
その気持ちの根っこのところは。
つまり、いろんな人間の中に
前田を薄めたものは入ってる。 |
赤坂 |
そうそうそうそう(笑)。 |
糸井 |
それを純度100パーセントで
持ってるのが前田なんですね。 |
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赤坂 |
そう。だから、泣く時はバーッと泣いちゃう。 |
糸井 |
みんなが語りたがるわけですよね。
笑いながら、どこかで、
「わかるわー」って思ってるんですよ。
(つづきます) |