糸井 |
この本に登場するキャッチャーの中で、
谷繁だけは別格として書いてありますよね。 |
赤坂 |
はい、そうですね。 |
糸井 |
なんていうか、
あらかじめ才能を持ち合わせた、
天から降ってきた人として。 |
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赤坂 |
そうですね。
それはたぶん、異論が出ないと思いますよ。
この中で一番図抜けた能力を
持ってるのは谷繁であると。 |
糸井 |
谷繁は、
デビューのときから目立ってましたからね。
角刈りでさ、ドラフト1位で指名されてさ、
「江の川高校・谷繁」ってアナウンスされて、
え? キャッチャーなの?
って思ったよ、オレ(笑)。 |
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赤坂 |
しかも、背番号が1。 |
糸井 |
そうそうそう(笑)。 |
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赤坂 |
やっぱり、「持ってる」人ですよね。
たとえば村田、大久保っていうのは、
逆にいうと、なにも持ってない人たちで、
そこから、ないところを埋めて、
上がっていった人たち。 |
糸井 |
そういう、天性のものを持った人と、
そうじゃない人が混ざって存在しているのが
プロ野球という世界。 |
赤坂 |
そうです、そうです。 |
糸井 |
そのへんのおもしろさというのは、
お客さんも自然に感じるんでしょうね。
野球に限らず、その不均一なところが
スポーツのおもしろさじゃないかなぁ。
いや、スポーツだけじゃなくて、
どの社会もそうなのかもしれない。 |
赤坂 |
ああ、そうかもしれませんね。 |
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糸井 |
あの、バレーボールの川合俊一さんから、
「ぼくは才能がなかったので
オリンピックに出られたんです」
っていう話を聞いたことがあるんです。 |
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赤坂 |
ほぅ。 |
糸井 |
川合選手には弟がいて、
ルックスもいいし、
身体能力も高いしっていうんで、
なにをやらせても、
弟のほうが才能があって
うまくやったんだそうです。
バレーボールもじつは
弟のほうがうまかったんですって。 |
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赤坂 |
へーー。 |
糸井 |
ところが、なにをやってもうまいんで、
本人が「これでいいや」ってなっちゃう。
「その点、オレはぜんぜんダメなんで、
なんとかしなきゃと思って
ずっと続けちゃうんです。
弟はなんでもできるから、
すぐにやめちゃうんですよ」って
川合さんはおっしゃってて。 |
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赤坂 |
なるほど、なるほど。
「できちゃった、もういいや」
でやめちゃうわけだ。 |
糸井 |
子どものころからそういう感じで、
川合さんが練習して
ようやくできるようになったころには
もうつぎの遊びをしてるんですって。
「だから、
オリンピックに出るような選手って、
たいてい、才能的に
一番の人じゃないんです」って。 |
赤坂 |
ああ、それは言えてるかもしれない。 |
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糸井 |
説得力ありますよねぇ。
だからといって、みんなが努力家で、
天才が全員ダメになっちゃう
っていうのも寂しいから、
谷繁みたいな選手も
やっぱりいてくれないと。 |
赤坂 |
そうですね。
両方のタイプが混ざってるのがいい。 |
糸井 |
うん。才能を磨いてる人と、
努力でおぎなってる人と、
どっちもみんなを勇気づけますよね。 |
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赤坂 |
はい。 |
糸井 |
で、また、おもしろいのは、
どっちのタイプのキャッチャーも
「キャッチャーに
なりたくてなったわけじゃない」
という(笑)。 |
赤坂 |
そうなんです。
それは、おもしろい共通点でした。
みんな、「キャッチャーやれ」って
命じられてやってるんですよね。
ピッチャーとかサードとかは、
ほぼ間違いなく、望んでやってますからね。 |
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糸井 |
そうですね。
「野球やろうぜ」っていうと、
まずは、ピッチャーだもんなぁ。
これは、萩本欽一さんが言ってたんですけど、
自分が望むような仕事ってまず来なくて、
来る仕事っていうのは
全部、不本意なものばかりなんだと。
でも、チャンスはそこにしかないって
欽ちゃんは言うんです。 |
赤坂 |
あーー、すごいですね、それは。
(つづきます) |