こういうやつが、いたんだよ。  赤坂英一さんとプロ野球の話を
 
第6回 才能と、努力と。
糸井 この本に登場するキャッチャーの中で、
谷繁だけは別格として書いてありますよね。
赤坂 はい、そうですね。
糸井 なんていうか、
あらかじめ才能を持ち合わせた、
天から降ってきた人として。
赤坂 そうですね。
それはたぶん、異論が出ないと思いますよ。
この中で一番図抜けた能力を
持ってるのは谷繁であると。
糸井 谷繁は、
デビューのときから目立ってましたからね。
角刈りでさ、ドラフト1位で指名されてさ、
「江の川高校・谷繁」ってアナウンスされて、
え? キャッチャーなの?
って思ったよ、オレ(笑)。
赤坂 しかも、背番号が1。
糸井 そうそうそう(笑)。
赤坂 やっぱり、「持ってる」人ですよね。
たとえば村田、大久保っていうのは、
逆にいうと、なにも持ってない人たちで、
そこから、ないところを埋めて、
上がっていった人たち。
糸井 そういう、天性のものを持った人と、
そうじゃない人が混ざって存在しているのが
プロ野球という世界。
赤坂 そうです、そうです。
糸井 そのへんのおもしろさというのは、
お客さんも自然に感じるんでしょうね。
野球に限らず、その不均一なところが
スポーツのおもしろさじゃないかなぁ。
いや、スポーツだけじゃなくて、
どの社会もそうなのかもしれない。
赤坂 ああ、そうかもしれませんね。
糸井 あの、バレーボールの川合俊一さんから、
「ぼくは才能がなかったので
 オリンピックに出られたんです」
っていう話を聞いたことがあるんです。
赤坂 ほぅ。
糸井 川合選手には弟がいて、
ルックスもいいし、
身体能力も高いしっていうんで、
なにをやらせても、
弟のほうが才能があって
うまくやったんだそうです。
バレーボールもじつは
弟のほうがうまかったんですって。
赤坂 へーー。
糸井 ところが、なにをやってもうまいんで、
本人が「これでいいや」ってなっちゃう。
「その点、オレはぜんぜんダメなんで、
 なんとかしなきゃと思って
 ずっと続けちゃうんです。
 弟はなんでもできるから、
 すぐにやめちゃうんですよ」って
川合さんはおっしゃってて。
赤坂 なるほど、なるほど。
「できちゃった、もういいや」
でやめちゃうわけだ。
糸井 子どものころからそういう感じで、
川合さんが練習して
ようやくできるようになったころには
もうつぎの遊びをしてるんですって。
「だから、
 オリンピックに出るような選手って、 
 たいてい、才能的に
 一番の人じゃないんです」って。
赤坂 ああ、それは言えてるかもしれない。
糸井 説得力ありますよねぇ。
だからといって、みんなが努力家で、
天才が全員ダメになっちゃう
っていうのも寂しいから、
谷繁みたいな選手も
やっぱりいてくれないと。
赤坂 そうですね。
両方のタイプが混ざってるのがいい。
糸井 うん。才能を磨いてる人と、
努力でおぎなってる人と、
どっちもみんなを勇気づけますよね。
赤坂 はい。
糸井 で、また、おもしろいのは、
どっちのタイプのキャッチャーも
「キャッチャーに
 なりたくてなったわけじゃない」
という(笑)。
赤坂 そうなんです。
それは、おもしろい共通点でした。
みんな、「キャッチャーやれ」って
命じられてやってるんですよね。
ピッチャーとかサードとかは、
ほぼ間違いなく、望んでやってますからね。
糸井 そうですね。
「野球やろうぜ」っていうと、
まずは、ピッチャーだもんなぁ。
これは、萩本欽一さんが言ってたんですけど、
自分が望むような仕事ってまず来なくて、
来る仕事っていうのは
全部、不本意なものばかりなんだと。
でも、チャンスはそこにしかないって
欽ちゃんは言うんです。
赤坂 あーー、すごいですね、それは。



(つづきます)
イラスト:田口
2009-12-15-TUE
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