こういうやつが、いたんだよ。  赤坂英一さんとプロ野球の話を
 
第5回 受け継がれたもの。
糸井 ああ、また藤田さんの話になっちゃったなぁ。
なんか、すいませんね。
赤坂 いえいえいえ(笑)。
でも、藤田さんの奥様に取材したとき、
糸井さんの名前も出てきましたよ。
糸井 ああ、うれしいですねぇ。
赤坂 藤田さんが、なんの気兼ねもせず、
外で会った人について家で話すのは、
牧野(茂)さんと糸井さんだけだった、って。
糸井 ああ、そうですか‥‥。
なんなんだろう、それは。
赤坂 なんなんでしょうね。
糸井 なんなんでしょうねぇ。
あの、ぼくは、
血のつながりっていうものに対して、
世間一般に比べると、
ずいぶん冷めてるほうだと思うんですけど、
その一方で、つながっていない血に対して
妙に信頼して、つなげたがるような
気持ちもあるんですよ。
簡単に言いたくない部分ではありますけど、
やっぱり、藤田さんは、
まだ生きてますねぇ、自分の中に。
赤坂 そうですね、うん。
糸井 この本の中でも生きてるし、
本に出てくる選手の中にも生きてるし。
赤坂 いまの巨人のベンチをのぞいたら、
もう、藤田さんが心の中に
生きている人ばっかりですよ。
糸井 うわぁ、そうだ、原さんはもちろん、
緒方がいて、吉村がいて、村田がいて。
赤坂 斎藤がいて、香田がいて。
糸井 とくに原さんには、
藤田さんの影響を強く感じますね。
たとえば、試合後のコメントで、
若い選手にわざとキツい言い方をして、
ネジをぎゅーっと締めるところとか、
かと思うと、成績としてはよくなくても、
「ああいうことでいいと思います」
結果じゃない部分を評価したりとか。
赤坂 ええ。あとよくやるのが、
二軍から上げたばかりの若手をすぐに使う。
で、うまく活躍したときに、
ほめたいと思うんですよ、ほんとは。
だけど、それを押し殺して、
「まあ、今日のところは、
 日々の彼の練習がいい結果につながった、
 というところまでしかコメントできませんね、
 監督という立場では」という感じで。
糸井 言う言う(笑)、そういうこと。
赤坂 記者の立場としてはね、
「またつまんないこと言ってる」
って思うんですけど、よく考えたら、
藤田さんも、なんにも言わない人でしたよ。
斎藤をあれだけの大投手に育て、
ときに槙原を抑えに回し、
桑田を再生し、っていう中で、
「俺がああしてやったから」とか
「彼らは立派だ」とか、
なんにも言ってないんですよね。
糸井 ああ、そうですね。
赤坂 藤田さんがなにか
気の利いたコメントを残したとかね、
名言を残したとか、
ちっとも印象にないんです。
糸井 ないですね、そういうのは。
「力のあるピッチャーしか
 獲ってないわけだから」とか、
そういう言い方で総体を語るくらいで。
それよりは、選手に対して
「おまえはすごいんだから」とか、
そういうことばっかりで。
赤坂 ええ、そうです、そうです。
糸井 そうだなぁ。
言わなかったな、怒ったり、
ぜんぜん、褒めたりも。
赤坂 ええ。
で、負けた時は自分が悪いと言ってましたね。
糸井 そうですね。
言われてみると、その言い方は
ほんとに、いまの原さんですよね。
赤坂 ええ。
糸井 ああ、思えば、
いま巨人のベンチにいるコーチ陣は、
藤田さんの遺伝子が一番濃い人たちなんですね。
赤坂 だと思いますね。
これも水野が言ってたことなんですけど、
藤田さんと過ごした3年間、
あれがあるとないとでは、
ぜんぜん違った野球人生になっただろうと。
糸井 そういうふうにしみじみと語る人が‥‥。
赤坂 多いですよね。



(つづきます)
2009-12-14-MON
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