町田康さんと友森玲子さんの、犬といっしょにいることは。その2

ほぼ日
友森さんは以前、
動物がいない職場では働けないかもしれない、と
おっしゃっていましたが。
友森
会社に犬や猫がいないと、
仕事中にさわったり遊んだりできないから
やっぱり嫌です。
会社員というのは、そんなことしないで
ずっとなにか、やってるんでしょ?
ほぼ日
そうです、そうですよ(笑)。
友森
無理です。たぶん、おかしくなっちゃう。
町田さんも、犬や猫がいないところに
閉じ込められて
「小説書け」って言われたらどうです?
町田
いや‥‥、
猫はぼくが小説を書くのが嫌いなんです。
友森
え?
町田
「小説などという
 バカなものを書くことは
 許さない」
と言うんです。
友森
猫が?
町田
猫が(笑)。
友森
「バカなことを、またやって」と。
町田
「いい加減にしなさいよ」という感じです。
でも、犬は基本的に
人といっしょにいたいものだろうから、
あまり気にしていませんでした。

ただ、いちど、
すごく差し迫ったときがありまして‥‥
「これはちょっと集中して仕事やらなあかんな」
「途中でワーとか、なでたりできへんな」
「よし、自分を追い込もう」
ということで、みんなに
「私は文学の鬼になるからね」
と宣言して、
犬も猫もシャットアウトし
部屋にこもって原稿を書いたことがあります。

そんなとき、ふと、
この部屋に火鉢があったらいいかな、と
思いはじめました。
ほぼ日
火鉢?
町田
炭に火をつけるという
かなりめんどうくさいことまでして、
「うーん、いい感じだ」‥‥。
友森
そんな時間があったんですか(笑)。
町田
しかもそこに鉄瓶とか
あったほうがいいんじゃないかなと思いはじめて、
「ちょっと行ってくる」
と言い残して出かけました。
「俺は文学の鬼だ」と言いながら
かなり離れた隣町まで鉄瓶を買いに行きました。
友森
むちゃくちゃですね。
町田
それで、羊羹とか切って、
鉄瓶で茶淹れて飲んで、
文学の鬼、幸せだなと思いました。
まぁ、犬の思い出はそれぐらいです、だいたい。
ほぼ日
は、はい‥‥。
町田
いままであまり選択的に
「犬飼おかな」「猫飼おかな」と
思ったことがないんですよ。
犬のいる生活ってなんだろうと想像したり、
猫と暮らすことがどういうことかを
考えたりしたこともありません。
事後に「まぁ、そうなっちゃった」という感じです。

まあ、犬や猫がいなきゃいないで
もちろん死ぬわけにいかんから
自分は生きていくんでしょうけど、
ふだんから生活設計をあまり考えておらず、
犬や猫に関してもわりとそうで、
「ま、来たらしょうがないか」
というところがあるんですよ。
友森
そうですね、私も受け身です。
拾ったのしか飼ってないし。
町田
猫は特にねぇ。
ここに引っ越す前、家を下見に来たとき、
強い雨の日でね、
道に子猫がいたんですよ。
あちゃー、と思いました。

まず妻に
「どうすんの?」と聞かれました。

「どうすんのって、君はどうしたいんだ」
「あなたが決めればいいでしょう」
「そうなの?」

車を運転しながらそんな会話をして、
どうしようかなと思いながら、
いちどは見捨てて通り過ぎました。
ですけど、すごい雨で、
このままだと死ぬだろう、という状況でした。

帰り道、車でブーンと走りました。
右折レーンがあって、信号を右に行ったら
その子猫のおるとこでした。
まっすぐ行ったら
その日に泊まる予定のホテルがありました。
そこでまた妻が
「どうすんの?」と言うから、
「うーん」「ああ、ホテル△#$%&!」
と叫んで、ウィンカーをカッと出して
右に曲がってもうたんです。
町田
「もう、どっか行って
 おれへんかったらええな」
「おんなよ、おんなよ、おんなよ」

と思いながら行ったら、おったんです(笑)。
それで、しょうがないから
連れて帰ってきました。
あとになって、妻に
「あのとき、俺がまっすぐ行ったら
 どうするつもりやった?」
と訊きました。
「離婚しようと思ってた」
と言われて。
友森
曲がってよかったですね。
町田
そんな状況なんで、
「猫のいる生活っていいよね」とか、
あまり思わないです。
友森
道にいるのを見ちゃうとねぇ。
町田
そうですね。
自分で生きていきそうなやつだったら
いいんですけど、
子猫はまず無理でしょう。
友森
弱ってたりすると、もう。
ほぼ日
おふたりは、ちいさな頃から
動物が身のまわりにいたんですか。
町田
ぼくは子どものとき
ずっと団地暮らしやったんで、
犬も猫もいなかったです。
友森
なのに、いきなりあんなでかい犬と(笑)。
町田
そうですね。
‥‥スピンクが来るとき、
最初、3か月の子犬って聞いてたんです。
▲最初にやってきたのはスピンクです。
町田
3か月の犬ってこのくらいかな、と
イメージしていたんですが、
はるかに超える大きさで
「えー? これで3か月ですか」
友森
スタンプー(スタンダードプードル)の男の子だと、
3か月だったら、すでに足がとても長いですね。
町田
そうですね。声も大きいし。
ぼくはそれまで猫しか知らなかったんで、
スピンクを家に連れて帰ってきて
耳元で「ワン」と大声で言われたとき、
てっきり「怒ってんねや」と思って、
泣きました。
友森
怒ってないですよ(笑)。
町田
ただ「遊べ」と言ってるだけでした。

(つづきます)

2015-03-13-FRI