その6 かもめ食堂のこと。
アンケートのことは
ほぼ、お話しできたんですけれど、
あの、飯島さん‥‥
はい。
「高校を卒業してから」
のお話を聞かせてください。
2年間、ボーイフレンドに
お弁当を作りつづけて、
その彼が「栄養士さんになったら」
って言ってくれたと。
はい、はい(照)。
わたしもそういう青春したかった。
いい青春。
もう取り返しつきませんね。

つかないですね‥‥。
飯島さんはそれで栄養士になるために
学校に行ったんですか?
2年、学校に行って、
資格を取ったんです。
進路は、たとえば病院食を作るだとか、
学校給食をつくるだとか、
そういった職業もあるんですが、
何か、自分をいかせる仕事は
ないものかなぁと考えていたときに、
『オレンジページ』という雑誌で
フードスタイリストという
職業があることを知ったんです。
あ、これはいい。
メニューを提案したり、いろいろするんだ!
と、先生につくことにしたんです。
それが就職でした。
それで雑誌の仕事をしたんですか?
いいえ、その先生が
CMの仕事をなさるかただったので、
雑誌ではなくCM中心に行きました。
先生には何年くらいついたんですか。
7年くらいです。
そして独立しました。
そこからCMのフードスタイリストとして
活躍がはじまるんですよね。
映画「かもめ食堂」の仕事は
どんなふうにして来たんですか。
パスコのCMを独立してすぐくらいからやらせていただいて、
途中から小林聡美さんが出られるように
なったんですね。
そうしたら、小林さんのところの
社長さんが、声をかけてくださって。
ちょうど「かもめ食堂」という映画を
つくろうとしていたときで、
「やってみない?」って。
映画の仕事ははじめてだったんですか。
先生についていたときに
伊丹十三監督の映画に
アシスタントで参加していました。
ええっ! 伊丹さんの映画!
どの映画に??
私が入ってからは「大病人」とか
「ミンボーの女」とか「スーパーの女」とか、
あとは「静かな生活」とか。
すごーい!
わたしも出たんですよ。
えっ?!
中華料理店の店員のエキストラで出ました。
伊丹十三さんていうのは、
僕の年代‥‥と言うと言いすぎかな、
少なくとも僕にとっては、
ある1つの料理の先生のような存在なんですよ。
アルデンテっていう言葉を
エッセイで、初めて教えてくれた人。
いろんな美味しいものを知っている、
かっこいい大人。
とてもステキなかたでしたよ。
すみません、脱線しちゃいましたね。
あの、「かもめ食堂」って、
ものすごく、ごはんが重要じゃないですか。
ごはんが主役級の役者のひとり、
というくらいに重要ですよね。
重要ですね。
ある意味、思い切った
キャスティングですよね。
そうですよ!
だっていつも(パスコのCMで)
パンしか焼いてないんですよ、わたし。
もしかしてこの子は
パンしか焼けないかもしれないって
思われても、おかしくないんですよ。
‥‥パンはきれいに焼いてましたけどね。
何だろ、映画って
超・チームワークじゃないですか。
そうですね。
しかも、ああいう内容の映画だから、
人柄とか、この子に一緒に来てもらえたら
とてもいいなということとかも
全部含めてスカウトというか、
声がかかったのかなあと想像するんですが。
ほんとうに、ありがたいです。
以前、取材のときに
教えてくださったんですが、
フィンランドの市場って肉は塊だから
生姜焼き用の薄切り肉を売ってないんですって。
そうなんですよ。
だから生姜焼き用の肉は
お肉を凍らせてルイベ状態にしたものを
薄ーく自分で切って作ったんですって。
そうなんです。
包丁を強く持ちすぎて
手がへこんじゃったくらい(笑)。
森下ヒルトゥネン圭子さんが
「飯島さんのごはんは、
 フィンランドの人たちみんなに
 評判がよかったんですよ」って。
あ、ほんとに? うれしいです。
撮影で余ったご飯をちょっとおにぎりにして、
ゆかりとかまぶして置いておくと
日本人の人が食べるかなと思いきや、
真っ先にフィンランド人の人たちが、
食べてくれていました。
あの映画には嘘がないというか、
もちろんフィクションなんだけど、
一遍の真実がごはんにありますよね。
あれはほんとに美味しいごはんで、
ほんとにフィンランドの人たちが
美味しいと思ってるっていうのが、
つくりごとじゃないっていうのは、
ものすごいことですよね。
そうですよね。
あのコーヒーの、
「コピ・ルアック」のおじさん、
(「かもめ食堂」の登場人物)
死んじゃったんですよね。
マルック・ペルトラさん。
そうなんです、一昨年末。
ざんねんです。
おいしいものを食べると
「食べさせてやりたいなあ」
っていう顔が浮かびますよね。
あの映画ってそういう気持ちを
すごく思い出させてくれるというか。
じつは飯島さんの料理が
そういう料理なんですよね。
やっぱりほら、
ボーイフレンドに‥‥
またその話(笑)!
‥‥毎日コーヒー牛乳もらってました。
超羨ましー!
でもそれが原点ですよー。
やっぱり毎日、こう、
メッセージがあるわけですよ。作ると。
あ!
うわー!
美味しかったとか。
今日はどうのこうのって。
褒め言葉ですか?
ダメだしはなかったですね。
ごはんも一粒残らず食べてくれてました。
モジモジしちゃう〜。
やっぱりそういうのが、
じゃ、よし、明日も頑張るぞ、みたいな。
そういえば、単行本にエッセイを
寄せてくださった重松清さんに
ロールキャベツを食べていただいたとき、
「おふくろの味を抜いた」
と言わしめましたね。
すごい褒め言葉ですよね。
そうですね、よかったです。
またお袋から男を奪った女ですね。
あ(笑)。
息子どろぼう。
いまのだんなさまは?
酢豚が好きみたいです。
お母さんがよく作ってくれていたみたいで。
またしても、息子どろぼう!
いいんだよ、結婚してるから(笑)。
実家のお母さんも、
わたしが新聞に載ったときに
生姜焼きのレシピを出したんですよ。
そうしたら「あの味、いいわね」
って電話くださって。
「今はもう、全部、あれでやってるわよ」とかって。
あ、じゃあもう
お袋の味も上塗りしちゃったんだ。
すごい嬉しかった。
掴んでるなあ。
掴むよねえ。
掴みますよー。
ちなみにわたしも酢豚大好物なんですけど
飯島さんのはどんななんですか。
いろんな酢豚。
夏ならトマト入れたり。
ナス味噌炒めってあるじゃないですか、
あんな感じで味噌をしょうゆと混ぜて、
トマト入れたりして、味噌味の酢豚とか。
こんど教えてください!
「LIFE」で教わりましょう。
はい、もちろんです。
これからもよろしくおねがいします。
こちらこそよろしくおねがいします!


(おしまい)


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2009-02-23-MON