糸井 |
みんな年とって意味もなく
勃起することが減るとかね、
むやみに勃起してる時代っていうのは
ほんとに困ったけど、
ほんとに困ったが故に
おもしろかったじゃないですか。
年とると人生つまんないんじゃないかって
恐怖があるんですよね。
だけどおもしろいんですよ、実は。
そこはね、この歳にならないと
分かんなかったことでもあるんだけど。
俺の先がまだあるわけだからね。
横尾さんは俺の一回り上ですからねえ。 |
リリー |
そうですよねえ。
横尾さんは次は何かって言うのかって、
もう待ってますよね。
横尾さんが次に自分に出すお題を(笑)。 |
糸井 |
どんなデタラメでもいいわけですよ。 |
リリー |
もう路地はそろそろ終わるのかな、とか。
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糸井 |
だけどなあ、本読んで
爆笑するっていうような本を書けるっていう、
あるとんでもない黄金時期っていうのは
すごいよね。書き飛ばしでしょう?
エッセイでおかしいの書いてる時って。 |
リリー |
はいもう、ノリノリで書いてます(笑)。
でも、この『東京タワー』は糸井さんが、
『家族解散』の時におっしゃってたように、
早く書き終わりたいと。 |
糸井 |
そうでしょう(笑)。 |
リリー |
全然苦しいし、書いてて楽しくないし。
だから書き終わった時に、
もうこういう気持ちで
文章を書くものはやりたくない。
かといって何を書くのかっていうのは、
自分の中にはまだないんですけども。
こういう、ほんとに自分の中の個の
精神的なものを
この文章に投影して、
書きながら泣いたりとかはもう、
単純につらいと思いました。
どうなるか、わからないけど、この先。
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糸井 |
うん。他人にとってはおもしろいし、
僕もそれはもう貴重な体験だなあと
思ったりするけど、
本人にとってみれば嫌なことですからねえ。
あっ、『家族解散』の後に
何をしたか思い出した。
ずっと経ってから少年小説を書いたんですよ。
それがマザーですよ。そうやって、
フィクションのおもしろさを
限定的にエッセイを入れて作れたのが、
少年小説ですよね。
マザーっていうのはまた家族小説なわけで、
タイトルからして母ちゃんなんですからね。
そこで僕は排出口を見つけたんだよ。
他の仕事は普通にしてて、
小説はもう触んないと。 |
リリー |
じゃ、もう1回家族ものは
触って整理しなきゃいけないんだ(笑)。 |
糸井 |
僕は触ったんですね。
でも、マザーは自分が父親である
家族の物語だから、
そっちの方が責任取れるんで簡単なんです。
主人公の子供に少年時代の自分を
乗っけたりすればいいわけだから、
ほんとのことと嘘のことを混ぜられますよね。
そのあたりはスピルバーグを真似したんです。
スピルバーグが描くのって、
少年たちがいる家族ってだいたい片親だったり、
うまいこと壊れてるんですよ。
そのくらいの壊し方で、
そんな家庭で見てる子たちが
喜んでくれるものを作りたいな
っていう気分があったんですよね。 |
リリー |
母親の話を書いてて、
この中でお金のことっていうのは
10円20円のことは
ちゃんと書かなきゃいけないな
って書いて思って、
俺自分に子供がいないから
分からなかったけど、
これ書いててわかったんですけど
親子関係ってすごい
お金でつながってる関係でも
あるじゃないですか。 |
糸井 |
そうだね。 |
リリー |
だから、よくあれを買えたなとか、
よくそんなの買ってもらえたなっていう。
おふくろが生きてる時に、
「この卵が10円安かったんよ」
とか言われたら
「飯がまずくなるから
そういうのは言うの止めてくれ」
とか言ってたんだけど、
文章にする時に、
例えばおふくろがこういうふうに
愛してくれたってことを
抽象的に書くよりも、
お金のことを書いた瞬間に
すごくその密度っていうか、
関係性が分かるとか。
それはお金をかければいい
ってことじゃないけれども、
そういうふうにして親とかと
つながっていってるものがあるし、
そこはやっぱり生臭い話になっちゃうけど、
ちゃんと書かなきゃいけないなって思いますよね。 |
糸井 |
ただ、リリーさんきれいだから
そこをちゃんと見ないといけないってことは
書かないから、
読み過ごされてるかもしれないよ。
けっこう何回も出てきますよね。 |
リリー |
だからおふくろに買ってもらったものを
なるべくその都度、その都度、
思い出して書いていったんですけど
俺、一番最後に買ってもらったものを
書くのを忘れてたことを思い出したんです。
ゲラで書き足して本に入れたんですけど。
最後におふくろが買ってくれたものは、
入院する直前に
靴下を買ってきたんですよ。
商店街で3足1000円みたいなやつ。
その時くるぶしくらいまでしかない
短い靴下があるじゃないですか。
こういうスニーカーはく時の
短い靴下あるじゃないですか。
どうも最近息子がこういうのを
買ってきて履いてるっていうのを
自分で勉強してるんですよね。 |
糸井 |
うんうん。 |
リリー |
で、短いの買ってきて、
「これがいいんやろ。」と。
「私は知ってるよ」みたいにしてたんですけど。 |
糸井 |
これ、他の仕事と並行してますよね。
この仕事は他の仕事の
邪魔になんなかったですか? |
リリー |
すごい邪魔でしたし、
他の仕事の何倍もかかりました。
書いてる時間は長くないんですけど、
書き始めるのが嫌っていうか。 |
糸井 |
無駄な時間が流れますよね。 |
リリー |
そう。その状態に持っていくのが
しんどいっていうか。 |
糸井 |
それでその間は他の仕事できないですよね。 |
リリー |
ええ。
でも、書き終わって、本にしていただいて、
供養の終わった清々しさは
少しあります。
淋しさは、変わらないけど。
(つづきます!)
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