「お金じゃないよ。大事なのは人だよ」と、田内学さんは何度も語る。
お金への見方が変わる経済教養小説
『きみのお金は誰のため』が大ヒット中の
金融教育家・田内学さんは、
「お金は無力である」という独自の経済観をもとに、
日本の人たちのお金に対する認識を
変えようと頑張っている人です。
もともと米投資銀行のゴールドマン・サックスで
長年働かれていた田内さん自身、
あるときからお金に対する考え方が変わったのだとか。

そもそも、お金ってどういうもの?
日本では投資について、けっこう誤解がある?
経済の話が苦手な人でも、中学生や高校生でも、
みんなにわかりやすいように、
お金と社会の関係について教えていただきました。
5. 社会って何なのかな?
みんなの意識が変わらないと。
写真
田内
「将来、社会保障費がすごく増えちゃうから、
いまのうちに日本の財政を整えなきゃ」
という話もよく言われますよね。
だけど実はこれもたぶん、
お金の部分だけで考えていたら解決しない話なんです。



つまり、社会保障費が増えるって、
医療や介護の分野で働く人の数も
増えなければ、成り立たないわけです。
お金だけあっても、働く人がいないと
そもそも支えられない。
計算すると年間3万人ずつ
人が増えなきゃいけないんだけど、
それって現状のままでは、ほぼ無理ですよね。



だから、そういう人たちが
働きやすい環境を作るのも大事だし、
少子化をどうにかすることも大事。



でもこういう問題って、話題に上がりかけても
すぐに「財源がないからできない」となるわけです。
僕からすると
「人が減ってて、人材を育てないと日本やばいのに、
財源ってどういうこと?」という感じですけど。



あとはそういうことって、
「それは制度を変えたりとかの話だから、
一般の人たちに伝えるというより、
政治家の人に直接言うのがいいんじゃない?」
みたいに思う人もいると思うんです。



ただ、やっぱりこういうことについて
みんなが知って、意識が高まることって
本当に大事なんですね。



というのも僕は以前、政治家の方々を前に、
そういう話をさせてもらったことがあるんですよ。
財政問題や年金問題、社会保障費といった
いろんな問題の根源には、
少子化だったり、若い人への投資が
うまくいってないところがすごくあるから
そこを変えていくことが必須ですよと。



そうすると、もちろん
「少子化をどうにかしなきゃダメだよね」
「確かに若い人に投資する必要があるね」とか
反応してくれる議員の方もいるんです。



ただ、話をさせてもらってすごく感じたのが、
政治家の人たちもそうは言っても、
まずは当選しなきゃいけないんですよ。
だから「いま、世の中の人たちが
どういう考えなのか」というのをすごく見てる。



単純に言えば、世の中の人の意識が高まれば動くし、
みんなの興味がそんなになければ動かない。
つまり、そういうことが政策に反映されていくには、
僕ら一人一人の意識が高まる必要がある。



僕がこういう小説の形式の本を出しているのも、
まずは普通のいろんな人たちに広く、
こういうことへの意識を持ってほしいという
思いがあるからなんです。
単に経済や政治の本として出しても、
たぶん届かないから、物語で面白がってもらおうと。
そしたらちょっと入りやすくなるかなって。



ほんとにこれ、みんなの問題なんですよね。
いま「自分は政治に興味ない」と思ってる人でも、
きっと
「将来は誰かに支えられて生きていきたい」
みたいな感覚でいると思うんです。
そういう、来てほしい未来がちゃんと来るためには、
いまのままでは多分ダメで、事前にそれなりに
対策しておく必要があるんですね。
「愛」と「仲間」と「お金」
田内
社会における人と人の関係って、
「愛」「仲間」「お金」の関係というのが
あると思うんです。



「愛」と「仲間」と「お金」について、
中学生や高校生たちに
「このなかで大切なのはどれ?」と聞いてみると、
中学生だと「お金」と「仲間」が拮抗する感じ。
まあ、恥ずかしさもあるのか、
「愛」は少ない。
高校生になると、だんだん
「お金」と言う人が増えてくる。
写真
田内
これ、僕の整理で言うと、
「愛」というのは、
「どんなときでもその人の味方になりますよ、
ケアしますよ」という関係。
家族とか恋人のほか、上司や友達かもしれないし、
いろんな場合があると思いますけど、
すごく近い関係ですよね。



その周りに「仲間」がいて、
これはなにか目的とかを共有していて、
サポートし合うような関係。
たとえば
「部活で一緒に県大会目指そう!」とか。
昔の村の共同体とかももそうですね。
「一緒に気持ちいい暮らしをやっていこう」
とかって。
写真
田内
だけどこの世界には、
「愛」でも「仲間」でもない関係の
人たちというのもいるわけです。
顔だけ知ってるとか、
そもそもまったく知らない人もそう。
そういう人たちは
「お金」でつながってる関係なんですね。
そして、そういう人というのは
お金があればなんでもやってくれるわけじゃなくて、
「お金を払ったら手伝ってくれる
かもしれない他人」なんです。



そしていまの社会では、みんながそれぞれに
「愛」してくれる人がいて、
「仲間」がいて、
それでは足りないところを
「お金」を払って他人に助けてもらって、
それぞれの生活を成り立たせているわけですね。



大昔、いまみたいな「お金」が無かった時代には、
たぶん基本的には「愛」と「仲間」の関係の中で、
家族や周りの村の人たちと支え合って暮らしていた。
そのあと「お金」がでてきたら、
全く知らない人たちも、
自分のために働いてくれるようになった。



とはいえ「お金」の関係って、
やっぱりちょっと頼りないんですね。
多くの場面で本当に頼りになるのは
「愛」や「仲間」の関係のほう。
増やしたいのはそっちじゃないですか。



だけどいま、僕らが
「経済」と呼んでいるものって、
「お金」の関係の話ばかりしてるんです。
「貨幣経済」という一部の話しかしていない。
他人との、お金を介した
関わり方についてばかり考えている。
「仲間」を増やすことをしていこう。
田内
今日のはじめに、中高生に聞いた
「将来やりたい仕事は?」という
質問の話がありましたよね。



「年収の高い仕事」「投資で儲ける」
「社会のために働く」の3つがあったとき、
中高生だと
「社会のために働く」より
「お金がたくさんもらえる仕事がしたい」
という感覚の人が多かった。



だけど「年収の高い仕事に就きたい」と思って
いろいろ動いていても、
「仲間」って別に増えないんですよ。
正直、隣にいる人が稼ごうが稼ぐまいが、
自分には関係ないですから。



クラスメートが
「俺は高い年収がほしいから、高い寿司を売りたい。
おまえ食いに来てよ」と言っても、
「なんで払わなきゃいけないんだよ」と思うわけで。



ところがこれが、社会のためにはたらきたくて、
「みんなにおいしいお寿司を食べさせたいんだ」
なら話が違ってきて、
「あ、俺も食べに行きたい」となる。



僕にしても昔、
「年収の高い仕事に就こう」と思って
いろんなことを頑張ってたとき、
すごく大変だったんです。
就活でもきつい競争に巻き込まれるし、
結局、親しか応援してくれない。
よっぽど能力の高い人なら別かもしれないけど、
普通はしんどいですよね。



そしてたぶん応援してくれる人が
いないことって、やっぱり成功しないんです。



その意味でも
「お金」を軸にやっていくより、
「仲間」が増えるようなことを
考えていったほうがきっといいんですよ。



「社会のため」とか言うと、日本だと
ちょっと自分と距離を感じるかもしれないけど、
「まわりの仲間のために何ができるか?」
というのも、社会を良くする動きですから、
「仲間」という言葉で考えるといいと思うんです。
そういうことをやっていれば、
応援してくれる人は増えていく。



もうひとつ僕の話ですけど、
実は僕、昔から国語が大の苦手だったんです。
小学校3年生のときに読書感想文で
挫折して以来、文章を書くのって
本当に自分は向いてないと感じてて。



ところがいま本を出せてる。
なぜかというと、いろんな人たちが
応援してくれたからですね。



「僕がお金を儲けたいから本を書きたい」だと
誰も協力してくれなかったと思うけど、
「未来の社会が良くなるように、
みんなのお金についての誤解を解きたい」
だったから、
編集者の方が文章の書き方を教えてくれたり、
出版社の方が
「そのテーマなら書いてほしい」と
言ってくれたりして、本までできた。



だから「お金をどう稼ぐか」じゃなくて
「どう仲間を増やして、やりたいことをやるか」。
そういう発想で考えていったほうが、
実はやりたいことへの近道かも?
みたいなことをいまは感じています。
写真
一人一人が、
社会という仲間の一員だ。
田内
今日の最初に紹介した、日本財団がおこなった
6か国の18歳の意識調査には、
こういう質問も入っていたんです。
「あなたは国や社会を
自分の力で変えられると思いますか?」って。
そして日本、この質問に
「はい」と答えた人の割合も
めちゃくちゃ低かったんです。
写真
田内
つまり、日本では国や社会について、
「一員としての自分が作り上げるもの」ではなく
「与えられるもの」みたいな印象になっている。
それで不満とかもつい言っちゃう。



でも実際には国や社会って一人一人の集合体だから、
自分たちの行動で変えていけるし、
そうやって変えていくものなんですね。



国とか社会と言うと
すごく遠く感じるかもしれないけど、
これも、周りの仲間の幸せとか、
地域の問題に
「自分にはどんな協力ができるかな?」
と考えるのでもいいんです。
周りの仲間が喜ぶようなことをやるって、
社会をよくすることにつながりますから。



あるいは「どうお金を稼ぐか?」ではなく、
「どの問題なら自分に解決できるかな?」
みたいに考えていくのもいいと思います。



なので、一人一人が
「社会という仲間の一員だ」
と感じてもらって、
「自分の行動で社会はよくなっていくんだ」
ということに気づいてほしい。
すごくシンプルな話ですけど、これもいま、
僕が若い人をはじめ、日本のいろんな人たちに
すごく伝えたいことですね。
(つづきます)
2024-11-19-TUE
写真
『きみのお金は誰のため』
─ボスが教えてくれた
「お金の謎」と「社会のしくみ」



田内学 著
(本の帯より)
3つの謎を解いたとき、
世界の見え方が変わった。
「お金自体には価値がない」

「お金で解決できる問題はない」

「みんなでお金を貯めても意味がない」
ある大雨の日、中学2年生の優斗は、
ひょんなことで知り合った
投資銀行勤務の七海とともに、
謎めいた屋敷へと導かれた。
そこに住む、ボスと呼ばれる大富豪から
なぜか「この建物の本当の価値がわかる人に
屋敷をわたす」と告げられ、
その日から2人の「お金の正体」と
「社会のしくみ」について学ぶ日々が始まった。



元ゴールドマン・サックスの金融教育家が描く、
大人にもためになる経済教養青春小説。