- 糸井
- 小説、おもしろかったです。
- 又吉
- ありがとうございます。
- 糸井
-
ご自身でも手応えみたいなものが
あったんじゃないかなって
想像しながら読みました。
- 又吉
-
これまで小説を書いたことがなかったんで
過去と比較はできないんですけど、
書いていて、なんかたのしいな、
という気持ちはありましたね。
- 糸井
-
どんなふうに読まれるのかとか、
考えたりしましたか?
- 又吉
-
多少は考えましたね。
これ、好きな人は好きなんだろうけど
怒る人もいるんじゃないかなとか
考えながら書いていました。
- 糸井
-
いや、基本的には
怒るような要素はなかったですよ。
ぼくは専門家じゃないんで、
どう言えばいいのかわからないんですけど、
「気張り」がなかったんです。
はじめて物を書くときって、
気張るじゃないですか。
要するに、みんな褒められたいんですよね。
でも、又吉さんの小説には
そのいやらしさが全然ないから、
どうやって自分を制御しているのかなぁと
思っていたんです。
- 又吉
-
その失敗は、デビュー当時に
コントや単独ライブで経験しているんですよ。
気合いが入りすぎて、
「自分はこうや!」みたいなものを
やりすぎて失敗しちゃって‥‥。
- 糸井
-
そうか、それで経験されているんだ。
たしかに、又吉さんがやっているボケって、
完全に
「俺の考えていることが通じなかった話」が、
フォーマットになっていますよね。
- 又吉
-
そうですね。
相方も先輩たちもわかってくれていて、
そのこと自体をいい感じで
バカにしてくれるんで(笑)。
- 糸井
- 成り立ってますよね。
- 又吉
-
好きなことを言って、
「ワケわからんこと言うな」と
言ってもらえる状況というのが、
最初のころはなかったんですけど。
- 糸井
- あれは素なんですか。
- 又吉
-
素ですね。
最初のころ、友達が多い人は
答え合わせが周りとできているんで、
何がウケて何がウケないかわかってるんですけど、
ぼくみたいに友達がおらんタイプで
1人でグーッて作るタイプは、
答え合わせができないんで、
自分がおもしろいと思うことが
おもしろいんだ、と思ってしまったり。
- 糸井
-
芸人さん同士がやる番組が出てきたおかげで、
芸人さんが自分の個性を際立たせることが
すごくできるようになりましたね。
昔だったらお客さんという相手しかいなかったのが、
いまは芸人さん同士が、
「あいつはこうで、こいつはこうで」
という棲み分けを、
番組の中でできるようになった。
あれはすごいことだなぁと思うんです。
- 又吉
-
たしかにそうですね。
舞台上に芸人が並んでいても、
ひたすら1人でお客さんに向かって
何か言って笑いを取り続けるタイプと、
横の関係性で生きているタイプがいます。
ぼくもどっちかというと、後者かもしれません。
- 糸井
-
だって、ずっとお客さんと抱き合ってたら、
ピースの芸が発見されない可能性が‥‥(笑)。
- 又吉
- ありますね。
- 糸井
-
他の芸人さんに
「俺らアスリートとして集まってんのに、
おまえ、足遅いやんか」
みたいな話を本番でされるわけでしょう?
すごいことですよ。
- 又吉
-
自分ではわかってないことも、
先輩芸人から見たらわかることが
いっぱいあるんでしょうね。
あるとき、さんまさんと
コントをやらせてもらう機会があったんです。
ぼくはアドリブで何かやるというよりは
自分が考えたことをやるタイプなんです。
でも、そのコントの収録5分前になって
さんまさんから突然
「じゃあ、これとこれとこれを
6発ぐらい俺が言うから、
又吉、それに応じた言葉で頼むわ」
って、急に振られたんです。
- 糸井
- 大変だ。
- 又吉
-
ディレクターさんとか作家さんからも
「又吉、大丈夫か」みたいに心配されて、
で、もう時間がなかったんで、
「ちょっと1人で集中させてください」と言って
ぼく1人で言葉を考えて、本番に臨んだんです。
- 糸井
- ほう。
- 又吉
-
台本にあらかじめボケを書いて、
それを見てやってたら、なんとかウケて、
あ、乗り切った、この調子であと5発‥‥
と思ったら、さんまさんが、
「おまえ、何カンニングしてんねん」って
その台本をパーンと投げて、
「アドリブで行け」と言うんです。
そこで「ゼロ」になりました。
で、さんまさんがその場で言うことに対して
とっさに何か言ったんですけど、
やっぱりうまくいかなくて。
でも、そういうときって
自分の好きな言葉とか好きな食べものとか、
根本にあるワードが出てくるんです。
- 糸井
- つまり個性があるものですね。
- 又吉
-
はい。その言葉に
さんまさんがつっこんでくれて、
ぼくが用意してきた1発目よりも
はるかにウケたんです。
それで、
「あ、こんなやり方があるのか」とか、
「あ、さんまさんはこれをやらそうと思って、
寸前に言わはったんやな」と。
自分では全然わかってなかったですから。
- 糸井
-
その人ならではのおもしろみというか、
発見されていない
ダイヤモンドみたいなものを
「俺のカットの仕方があるんだ」って
やってみせてくれたんでしょう?
- 又吉
- そうですね。
- 糸井
-
そういうのって、昔は人のいないところで
やってたタイプのことだと思うんですけど、
いまは、それそのものを
テレビで見られるわけですよね。
そうなってからというのは、
お笑いはきっと、ものすごく変わったんだろうな。
- 又吉
-
みなさんに認知されてる芸人が、
テレビ上で変ないじられ方をして、
そこで新しくキャラクターができるときなんかも
ありますもんね。
- 糸井
-
うん、又吉さんにもそういう経験があるから、
小説でも、どういう反応があるかとかを
知ってて小説が書けるんだと思うんです。
これまでにも、芸人さんが書いたものが
おもしろがられてるというのはありましたけど、
又吉さんの場合は、普段から
純文学志向に見えてたから、
ちょっとハードルがあったと思うんですよ。
「太宰出てくんのかな」みたいに
読者の側も覚悟してたというか。
- 又吉
- (笑)そうですよね。
- 糸井
- うすうす気づかれてました?
- 又吉
-
そうですね。
先輩からも
「おまえが書いたら、
だいぶハードル上がるやろな」
と言われたりしてましたから。
でも、ぼく自身は
「みんなにどう思われるやろ」というような
緊張感はそんなになかったんです。
雑誌にエッセイを書かせてもらってますが、
それほど反響もないですし、
小説もまあそういう感じだと思ってたんです。
だから、
「いや、あんまり注目されてないんで、
大丈夫なんですよ」
って言ってたくらいで。
- 糸井
-
ああ、そうか。
周囲の人とか、担当についた人たちとかは、
「これはなかなか
おもしろいハードルがあるぞ」
って見えてたと思うんだけど、
ご本人はそうなんだ。
- 又吉
-
でも、小説が載った
『文學界』が増刷されたって聞いた日から、
3日ぐらい寝れなかったです。
そんなに注目を浴びると思ってなかったんで。
「あ、みんなが言ってたことって、
これやったんや」と思いました。
- 糸井
- いまになると、怖いですか(笑)。
- 又吉
- 怖いですね。
(つづきます)
2015-03-30-MON