- 糸井
- テレビの中の又吉さんは、
芸人さん同士で言い合ってる言葉を借りると、
「おまえ、同じギャラでずるいやんか」
という役をちゃんとやってますよね。
あれ、ほかの人では多分できないんです。
「あんまりしゃべんないで終わりました」
という役ができるって、すごいですね。
- 又吉
- 怖いですね、けっこう。
- 糸井
- 怖いところ渡ってますよね(笑)。
- 又吉
- でもまあ、基本的には
「無理しない」ようにしているんです。
ネタを磨くとか文章を書くとかの努力は
苦痛でないし、好きだからやるんですけど、
自分を自分以上に見せる努力というのは
絶対うまくいかないと思ってるんです。
相方とかぼくの周りの人は
みんなすごくがんばるんですけど、
それぞれ特性があるんですよね。
相方とぼくがもし同じクラスにいたら、
間違いなく相方が人気者になってるんで、
その横でぼくが人気者みたいな動きをしても、
ただ気持ち悪くなるだけなんで。
- 糸井
- (笑)
- 又吉
- まぁ、気持ち悪くてもいいんですけど。
たまにやりますし。
- 糸井
- 「わざとはずしました」というのは
やってますよね。
- 又吉
- やってますね。
- 糸井
- あと、芸人さんが順番に
ネタをやるようなときとか、
とんでもない振り方されて、
できないけどやんなきゃってとき、
逃げないでやりますよね。
で、「ああ、できませんでした」
っていうところまでお笑いなんですよね。
- 又吉
- そうですね(笑)。
- 糸井
- あれができるのは、
プロだからでしょうね。
- 又吉
- あれは‥‥好きやからですかね。
- 糸井
- 好きやから。
- 又吉
- はい。
- 糸井
- ああ、「好きやから」。
いい言葉ですね。
- 又吉
- 便利なんです。
「好きやから」。
- 糸井
- 本当なんでしょうね、きっと。
- 又吉
- はい。
- 糸井
- 嘘で「好きだ」って言ってる人、
山ほどいますよ。
- 又吉
- 本当ですか(笑)。
- 糸井
- うん。世の中はやっぱり、
「好き」と言った者勝ちですから。
よく冗談で言うんだけど、
釣り雑誌の飲み会とかやると、
どっちが釣りが好きかで、
「俺のほうが好きで、
おまえは好きじゃない!」みたいに、
罵り合いになることがあるそうなんです。
下手すると殴り合いになるくらいの。
- 又吉
- へぇー。
- 糸井
- おかしいでしょう、それ。
「好き」って
そういうものじゃないでしょう(笑)。
- 又吉
- そうですよね。
- 糸井
- だけど、そこに順番をつけると、
「俺のほうが好きだ」って
やっぱり言いたくなるんでしょうね。
マッチョイズムと
価値判断って本当は別なんですが。
- 又吉
- ぼくも、そこに疑問を持っていたんです。
たとえばよく‥‥
「私はこのバンドを昔から好きだ」。
- 糸井
- 言う言う(笑)。
- 又吉
- いや、いいんですよ。
昔から支えてるファンはいますし。
でも、それ言いだしたら、
ぼくの年齢で太宰が好きって言ったら
オールドファンに絶対勝てないんです。
- 糸井
- そうです。
ファンがいますからね、昔から。
- 又吉
- はい。
でも、そういうことじゃないんです。
- 糸井
- 違うよね。
- 又吉
- たとえば、ぼくは中2ぐらいから
太宰が好きで読んできましたけど、
もしかしたら昨日『人間失格』を
はじめて読んで興奮してる中学生がいたら、
ぼくより好き度が高い可能性がありますよね。
だから、順番でもないし‥‥。
- 糸井
- ないですね。
- 又吉
- 誰がいかに好きかでもないし、
それぞれの向き合い方があるだけで。
- 糸井
- 比べる必要のないものなんです。
でも、誰かが「好き」と言うと、
「おまえの好きはどれほどかな」
って言うやつが必ず現れるんですよ(笑)。
- 又吉
- 現れますね。
- 糸井
- あれで、次に好きになるはずだった人は、
避けて通るようになりますよね。
- 又吉
- そうなんです。
「あ、もうここの世界は
踏み込んじゃダメみたい」
ってなっちゃいますからね。
- 糸井
- 又吉さんが例に出された太宰も、
いま読むとまたおもしろいです。
実は、ぼくの高校時代の現代国語の先生が
太宰治の担当者だったんですよ。
- 又吉
- へぇ!
- 糸井
- 元編集者で、ちょっとしたエピソードを
国語の授業中に語ってくれるんですけど、
それがおもしろくて。
その縁があって読みはじめましたが、
とっても親切な大衆小説作家だと思うんです。
それをなんかみんなが抱え込んじゃって、
つまんなくしたってところがあって。
- 又吉
- 太宰はサービス精神が
すごいんですよね。
- 糸井
- すごい。
で、やっぱりあの当時も、
毒だって言われながらも、
キャピキャピ言いながら人は読んでたんです。
そのことをいま意識して読んだら
おもしろいですよねえ。
- 又吉
- おもしろいです。
- 糸井
- 吉本隆明さんも太宰が大好きで、
東工大で演劇をやってるときに
台本を太宰治本人に
見せに行ったことがあるそうです。
で、やっぱりファンとして
そのことがすごくうれしかったと。
そのときに
「男の本質はマザーシップだよ」って
太宰が言ったんだって。
それを吉本さんが、うれしそうに
「太宰がそう言ったんですよ」って言ってね。
そういうファンを作る人でしたね。
- 又吉
- 読めば読むほど、
誤解されてる作家やなと思いますね。
太宰は笑える作品もありますし。
- 糸井
- 『お伽草子』とかね。
漫画の原作ですよね、あれ。
(つづきます)
2015-04-07-TUE