第6回:つきまとう気持ち。

糸井
お笑いの勉強は
どういうふうになさったんですか。
又吉
中学生のころは
毎日のようにネタを書いていましたね。
糸井
自分で考えたネタ?
又吉
はい。
で、高校生になると、
学園祭の出し物とかありますよね。
教室でお笑いライブをやろう、
ということになって、
なんとなく周囲から
「又吉、書いてくれ」みたいなことを
言われるんです。
それで、高校1年、2年のときは、
ネタだけ書いて提供してました。
糸井
作家だったんだ。
又吉
そうですね。
ネタだけ書いて、自分は出ていないんです。
うちは男子校だったんですけど、
学園祭には近所の女子校の子が来るんです。
一番恥ずかしがりな時期だったんで、
その前でネタやるのって
けっこう恥ずかしくて。
で、自分が考えたやつを
みんなにやってもらってました。
糸井
うまくいったんですか、
人にやらせたネタは。
又吉
わりとうまく‥‥
まあ、学園祭なんで、
なんでもだいたい笑うんですけどね。
糸井
その冷めた感じは当時もあったわけですね。
「まあ、学園祭なんで」っていう(笑)。
又吉
考えること自体がすごく好きなんで、
うれしくてしかたないんですけど、
たとえば、見た人がアンケートを書いてくれて
すごく絶賛してくれても、
「そんなはずはない」というふうに
思ってましたね。
糸井
ぼくも昔、学校で1番というのは、
学校の数だけ1番がいるんだと気づいたときに、
恐ろしいなと思ったことがあります。
市内とか県内だって、
相当な数の学校があるのに、
全国規模になんてなったら、
学校で1番とかクラスで1番なんて
何でもないんだなと。
それ知ったときに、
「え? みんなそれ、耐えられるのかな」
って思ったんです。
又吉
それってどのタイミングで気づかれたんですか。
糸井
学校で1番という役割って
ちょこちょこありますよね。
サッカーだったらサッカーだし、
ぼくは生徒会みたいなことだったと思うんだけど、
小学校のとき一番よくできてて、
中学でだんだん悪くなっていったんで、
多分小学校でしょうね、気づいたのは。
又吉
早いですね。
糸井
当時、おもしろい友達と遊んでて、
その友達の姉ちゃんや母ちゃんが、
「糸井君、頭がいいから」とかって言うと、
ものすごく嫌なわけです。
そのおもしろい友達と一緒にいるのは
ぼくは弟子として一緒にいるわけで、
勉強ができるとかできないとかっていうのは
ぼくにとって何の価値もないから、
「そんなこと言わないでくれ、
 お願いだから言わないでくれ」
と思っていましたね。
それと同時に、
そんなこと何の意味もない、
1番なんか100万人ぐらいいる、と思っていて。
又吉
あぁ。
糸井
だから、又吉さんの
「学園祭だからウケた」というのも、
「うん、そりゃうれしいけど、でもね」
という気持ちですよね。
どうしても相対化しちゃうでしょう。
又吉
そうですね。
ぼくも、中学生のときに、
すごくおもしろい同級生がいたんですよ。
糸井
ああ、やっぱいるんだ、そういうのが。
又吉
親友だったんです。
そいつも芸人になったんですけど、
そいつの存在がデカかったから、
気づいたんです、ぼくも。
ぼくは小学生のときからお笑いが好きで、
中学生になっても好きで、
ネタも自分で書いてて、
これだけは、この分野だけは‥‥って
思っていたんですけど、そいつが現れたときに、
大阪の、寝屋川市という狭いエリアの、
いくつも中学があるうちの1つのクラスに、
自分よりおもしろいやつがいるということは、
もうメチャメチャ普通のことなのかもなって
ぼくはそこで思ったんです。
糸井
つきまといますよね、その気持ちって。
又吉
はい。
糸井
いまも、その意味では、
同じ気持ちが残っていませんか?
何やっても
「うーん、ま、本当はねえ」みたいな(笑)。
実は100万番になっちゃうようなことが、
狭い範囲においてだけ、
たまたま1番なんだ、みたいな。
又吉
ずっとありますね。
糸井
消えないですよね。
だから嫌だという話じゃなくて、
それでいいと思う。
ぼくは「どうだ、1番だろ?」
って冗談は言ってみたいです。
ま、実際に言いますよ。
「俺、すごい」って。
ときどきそれやんないと、寂し過ぎるし。
又吉
そうですね。
糸井
又吉さんはそういうこと言わなさそうだね。
落ち着いて、ただ見てるっていうか(笑)。
又吉
落ち着きたくなかったんですけど、
いろんな加速をさせてくれない
ストッパーみたいな友達が
必ず現れるんです。
結局ぼくは中学のときの同級生と
コンビを組んで吉本に入るんですけど、
その一番おもしろいやつは誘わなかったんです。
そいつは多分、そいつのやりたいことがあるし、
ぼくはぼくのやりたいことがやりたかったんで、
ツッコミに特化した別の友達を誘ったんですけど、
そいつからも
「いや、まあ、お前は友達の中では
 オモロイと思うけど、そいつもおるし、
 もっとすごいのがなんぼでもおるで」
みたいなことを言われて、
こっちを酔わせてくれないんです。
糸井
ああ、なるほど。
又吉
芸人とかバンドとかやる人って、
ある程度、自分に酔わないと
できないじゃないですか。
人前に出ていってあんな怖いことするなんて。
なのに、酔わせてくれない中で
ビビりながらやるしかなくて。
糸井
それはずーっとそうなんだね。
又吉
そうです。
糸井
何て言うんだろう、
自分でちょっと酔うコツみたいなものを
身につけるというか
アルコールを静脈注射するみたいに
しないと無理だと思うんです。
それは、もうできるでしょう、きっと。
又吉
それはまあ、はい。
糸井
さあ、出番だって言って、
ちょっと静脈注射。
あれができるようになるのが
プロなのかもしれないですね。
写真
(つづきます)
2015-04-06-MON