- 糸井
- お笑いの勉強は
どういうふうになさったんですか。
- 又吉
- 中学生のころは
毎日のようにネタを書いていましたね。
- 糸井
- 自分で考えたネタ?
- 又吉
- はい。
で、高校生になると、
学園祭の出し物とかありますよね。
教室でお笑いライブをやろう、
ということになって、
なんとなく周囲から
「又吉、書いてくれ」みたいなことを
言われるんです。
それで、高校1年、2年のときは、
ネタだけ書いて提供してました。
- 糸井
- 作家だったんだ。
- 又吉
- そうですね。
ネタだけ書いて、自分は出ていないんです。
うちは男子校だったんですけど、
学園祭には近所の女子校の子が来るんです。
一番恥ずかしがりな時期だったんで、
その前でネタやるのって
けっこう恥ずかしくて。
で、自分が考えたやつを
みんなにやってもらってました。
- 糸井
- うまくいったんですか、
人にやらせたネタは。
- 又吉
- わりとうまく‥‥
まあ、学園祭なんで、
なんでもだいたい笑うんですけどね。
- 糸井
- その冷めた感じは当時もあったわけですね。
「まあ、学園祭なんで」っていう(笑)。
- 又吉
- 考えること自体がすごく好きなんで、
うれしくてしかたないんですけど、
たとえば、見た人がアンケートを書いてくれて
すごく絶賛してくれても、
「そんなはずはない」というふうに
思ってましたね。
- 糸井
- ぼくも昔、学校で1番というのは、
学校の数だけ1番がいるんだと気づいたときに、
恐ろしいなと思ったことがあります。
市内とか県内だって、
相当な数の学校があるのに、
全国規模になんてなったら、
学校で1番とかクラスで1番なんて
何でもないんだなと。
それ知ったときに、
「え? みんなそれ、耐えられるのかな」
って思ったんです。
- 又吉
- それってどのタイミングで気づかれたんですか。
- 糸井
- 学校で1番という役割って
ちょこちょこありますよね。
サッカーだったらサッカーだし、
ぼくは生徒会みたいなことだったと思うんだけど、
小学校のとき一番よくできてて、
中学でだんだん悪くなっていったんで、
多分小学校でしょうね、気づいたのは。
- 又吉
- 早いですね。
- 糸井
- 当時、おもしろい友達と遊んでて、
その友達の姉ちゃんや母ちゃんが、
「糸井君、頭がいいから」とかって言うと、
ものすごく嫌なわけです。
そのおもしろい友達と一緒にいるのは
ぼくは弟子として一緒にいるわけで、
勉強ができるとかできないとかっていうのは
ぼくにとって何の価値もないから、
「そんなこと言わないでくれ、
お願いだから言わないでくれ」
と思っていましたね。
それと同時に、
そんなこと何の意味もない、
1番なんか100万人ぐらいいる、と思っていて。
- 又吉
- あぁ。
- 糸井
- だから、又吉さんの
「学園祭だからウケた」というのも、
「うん、そりゃうれしいけど、でもね」
という気持ちですよね。
どうしても相対化しちゃうでしょう。
- 又吉
- そうですね。
ぼくも、中学生のときに、
すごくおもしろい同級生がいたんですよ。
- 糸井
- ああ、やっぱいるんだ、そういうのが。
- 又吉
- 親友だったんです。
そいつも芸人になったんですけど、
そいつの存在がデカかったから、
気づいたんです、ぼくも。
ぼくは小学生のときからお笑いが好きで、
中学生になっても好きで、
ネタも自分で書いてて、
これだけは、この分野だけは‥‥って
思っていたんですけど、そいつが現れたときに、
大阪の、寝屋川市という狭いエリアの、
いくつも中学があるうちの1つのクラスに、
自分よりおもしろいやつがいるということは、
もうメチャメチャ普通のことなのかもなって
ぼくはそこで思ったんです。
- 糸井
- つきまといますよね、その気持ちって。
- 又吉
- はい。
- 糸井
- いまも、その意味では、
同じ気持ちが残っていませんか?
何やっても
「うーん、ま、本当はねえ」みたいな(笑)。
実は100万番になっちゃうようなことが、
狭い範囲においてだけ、
たまたま1番なんだ、みたいな。
- 又吉
- ずっとありますね。
- 糸井
- 消えないですよね。
だから嫌だという話じゃなくて、
それでいいと思う。
ぼくは「どうだ、1番だろ?」
って冗談は言ってみたいです。
ま、実際に言いますよ。
「俺、すごい」って。
ときどきそれやんないと、寂し過ぎるし。
- 又吉
- そうですね。
- 糸井
- 又吉さんはそういうこと言わなさそうだね。
落ち着いて、ただ見てるっていうか(笑)。
- 又吉
- 落ち着きたくなかったんですけど、
いろんな加速をさせてくれない
ストッパーみたいな友達が
必ず現れるんです。
結局ぼくは中学のときの同級生と
コンビを組んで吉本に入るんですけど、
その一番おもしろいやつは誘わなかったんです。
そいつは多分、そいつのやりたいことがあるし、
ぼくはぼくのやりたいことがやりたかったんで、
ツッコミに特化した別の友達を誘ったんですけど、
そいつからも
「いや、まあ、お前は友達の中では
オモロイと思うけど、そいつもおるし、
もっとすごいのがなんぼでもおるで」
みたいなことを言われて、
こっちを酔わせてくれないんです。
- 糸井
- ああ、なるほど。
- 又吉
- 芸人とかバンドとかやる人って、
ある程度、自分に酔わないと
できないじゃないですか。
人前に出ていってあんな怖いことするなんて。
なのに、酔わせてくれない中で
ビビりながらやるしかなくて。
- 糸井
- それはずーっとそうなんだね。
- 又吉
- そうです。
- 糸井
- 何て言うんだろう、
自分でちょっと酔うコツみたいなものを
身につけるというか
アルコールを静脈注射するみたいに
しないと無理だと思うんです。
それは、もうできるでしょう、きっと。
- 又吉
- それはまあ、はい。
- 糸井
- さあ、出番だって言って、
ちょっと静脈注射。
あれができるようになるのが
プロなのかもしれないですね。
(つづきます)
2015-04-06-MON