- 又吉
- ぼくの人生で
サッカーをはじめたことがきっと
いちばん「変なこと」なんです。
- 糸井
- サッカー、変ですね。
だって、そういう人じゃないもんね。
なのに努力してサッカーが
上手な人になってしまって。
そこが変なんだけど、
仮に、すごくまっすぐな先生が
「自分の価値を見出したまえ」と言って、
「又吉、君はやっぱりサッカーがうまい。
これからもサッカーに絞れ」
と言ったら、ほかの99パーセントがなくなって、
1パーセントの輝きだけが残っちゃうんですよね。
だからそっち方面に行かなくて
よかったんでしょうねえ。
- 又吉
- それも、わりと早い段階で、ぼくの中では‥‥。
- 糸井
- わかってた?
- 又吉
- はい。
「サッカーではない」というのを。
ただ、サッカー自体は一番好きなことでしたし、
みんなの多分10倍ぐらい練習してるので、
「そりゃうまくなるわ」
という気持ちはあったんですが、
それでも最初のスタートの段階で
だいぶ遅れを取りましたし、
才能がないというのはもうわかってたんです。
サッカー選手になりたいと
思ったことは1回もないですね。
- 糸井
- 最初のスタートのときのことがずっと、
思い出になってるんですね。
でも、傷にはなってないみたいですね、どうも。
- 又吉
- 傷にはなってないですね。
- 糸井
- 人から見えてる印象と逆で、
前向きですよね、実は。
- 又吉
- そうですね。
意外とポジティブなんです(笑)。
- 糸井
- ですよね(笑)。
- 又吉
- 覚えているのは、
小学校5年生ぐらいのときに、
コーチがみんなを集めて、
「おまえら、自分でうまいと思うか、
下手だと思うか」という質問をしたんです。
ぼくよりうまいやつらがみんな
「下手」「下手」「下手」
「下手です」「下手です」って言ったんですけど、
ぼくの番が来て、みんなより下手なぼくが
「下手です」と言ったら救いようがないなと思って、
ただ「やる気あります」というアピールで、
「下手やと思いません」って言ったんです。
下手なんです、誰がどう見ても。
それがわかってるからこそ、
「下手やと思いません」と言ったら、コーチが
「いま、自分のことを下手やと言うたやつは伸びる」
って言ったんです(笑)。
- 糸井
- はずしちゃった(笑)。
- 又吉
- すげえ恥ずかしかったです。
- 糸井
- まぁ、そのコーチの言ってることは
ものすごく普通の話なんですよね。
- 又吉
- 9割ぐらいの人に当てはまる普通の話です。
それが恥ずかしくて、
そこからもっと練習しました。
- 糸井
- 「間違っちゃったかな」っていうの、
ありますよね。
ぼくも、いまでも覚えてることがあって、
体育の授業で、
跳び箱かなにかがうまくいかなくて、
「やる気あんのか!」って言われたんです。
で、やる気はあったし、
本当にそう思ったから、
「どうもやる気が空回りしちゃって」
と言ったら、ものすごく怒られた。
「偉そうなこと言うな!」(笑)。
- 又吉
- (笑)
- 糸井
- たしかに大人からしたら、
「おまえ何、何言ってんだ」。
- 又吉
- 大人の意見ですよね。
- 糸井
- でも、そう思ったんですよ(笑)。
- 又吉
- 先生からしたら、
おそらく返ってくるであろう答えの
範疇を超えてたんでしょうね。
- 糸井
- すっごい腹立ったんでしょうね。
- 又吉
- 部長クラスが言うやつですよね。
「やる気が空回りしちゃって」って(笑)。
- 糸井
- 自分でも、
「あ、やってしまった」と思って。
使い分けってやっぱり
子どもにはわかんないし、
思ったことは言いますからね。
とはいえ、文科系の先生に
「君のその言い方はおもしろい」なんて
過剰に言われたりするのも困るし(笑)。
だから、子どもって、不自由ですよね。
- 又吉
- ある程度、想定している
子どもでいないといけないってことなんですね。
- 糸井
- そうそうそう。
さっきも言ったように、
「一番きみのいいところを伸ばしたまえ」
というのはやっぱり、幻想だと思うんです。
そのとき見えてるいいところを
みんな探そうとするから、
「ぼく、明るいです」とか、
「ぼくは勉強できました」だとか、
同じような競争になっちゃう。
そうするとちっともおもしろくないのに。
又吉さんは、何と言うか、
金もダイヤも発見されてない
荒野のほうを選んだわけですよね。
- 又吉
- そうですね(笑)。
- 糸井
- サッカーという小さな金山があったのに、
潔くやめて、
またその経験が
自分を作ってるというところが
おもしろいんです。
- 又吉
- はい。
- 糸井
- それって、勇気だったんだろうか。
何なんだろう。
- 又吉
- ぼくの場合は、勇気じゃないんです。
たとえば、小学校の卒業アルバムに
将来の夢を書くところがあるんですけど、
みんなは平気で
「サッカー日本代表になって
ワールドカップに出ます」って書くんです。
ぼく、子どもながらに、
さすがにそれはちょっと書けなくて、
全然違うことをふざけて書いたんです。
周りはみんなプロを目指していましたが、
ぼくは高校サッカーに対する気持ちというか
情熱でやっていたんです。
- 糸井
- 「上がり」が高校にあったんだ。
- 又吉
- そうですね。
ぼくが小学生ぐらいのときって、
まだJリーグがなかったんで、
毎年正月にある高校サッカーの全国選手権を
1つのゴールみたいに思っていました。
- 糸井
- じゃあ一応、
そこまでで十分やった感があったんですね。
- 又吉
- そうですね。
- 糸井
- で、卒業後は、
それ以外の荒野に歩いていくわけですね。
そこには、あてもないし、
地図もないし、
先輩もいないんですよね。
- 又吉
- そのとおりです。
- 糸井
- それは平気だった?
- 又吉
- それはやっぱり、不安でした。
高校3年間はサッカーしかやってないんで、
サッカーが終わって、
やっと芸人ができる、という状況になったら
不安は大きかったですね。
高校がサッカー部の名門校だったんですけど、
そこに入ると、高3の冬までサッカーをやるんで、
みんなの進路が
「サッカー推薦」ばっかりなんです。
- 糸井
- そうか、それしかなくなっちゃうんだね。
- 又吉
- はい。
で、監督さんのことも好きですし、
進路で迷惑かけたらアカンと思ってたんで、
高1で入ったときから、
卒業後は父親の仕事を継ぐということを
最初から言ってたんです。
- 糸井
- ほう。
- 又吉
- 父親は別に社長でも何でもないんですけど。
- 糸井
- ははははは。
- 又吉
- 芸人になることは
中学のときには決めてたので。
- 糸井
- その嘘はもう既に才能ありますね。
親の後を継ぐという以外の答えは、
誰も認めてくれないですよね。
- 又吉
- そうですね(笑)。
- 糸井
- 何言ってもダメですよね。
- 又吉
- はい。
- 糸井
- 「親の後を継ぐ」だけはOKですよ。
それを発明できるお笑いのセンスが
当時もあったわけですね。
- 又吉
- いろいろ考えて、それが一番‥‥。
- 糸井
- 「これはいいぞ」と(笑)。
- 又吉
- はい。
- 糸井
- 練れてるもん、その答え。
- 又吉
- 多分、言い訳としては
それしか思いつかなかったんです。
(つづきます)
2015-04-03-FRI