- 糸井
- サッカーをやりながら
お笑いの方面にはどんなふうに
かかわっていかれたんですか?
- 又吉
- お笑いは、中学生のころから
お笑い番組を録画して、
繰り返し見ていました。
で、自分でもネタを書きはじめて。
- 糸井
- サッカー中にもネタとか思いついた?
- 又吉
- 思いついたこともあります。
毎日1人で7キロ走ってたんですけど、
走りながらお笑いのことを考えるのが
好きだったんです。
- 糸井
- ああ、いいですね。
でも、人からはそんなふうに
見えなかったでしょうね。
- 又吉
- ただトレーニングをしてる少年に
見えていたと思います。
でも、頭の中はそんなふうでした。
- 糸井
- 自分の宇宙を持ってますね。
- 又吉
- その日あったことを
7キロ走りながら思い返して、
「あそこでああ言っとけばよかった」とか、
「次、同じ場面が来たら、これ言おう」
みたいなことをずっと考えて、
1人でニヤニヤ笑いながら走ってました(笑)。
- 糸井
- 反芻してるんだ。
- 又吉
- あと、ぼくの場合は、
中学校に好きな女の子がいたというのも
デカいかもしれないですね。
その子にウケたい、みたいな。
- 糸井
- その子はお笑い好きな子?
- 又吉
- よく笑う子だったんです。
- 糸井
- その子もちょっと好きなんでしょう、
又吉さんのこと。
- 又吉
- ぼくのことですか。
ぼくのことは多分、
全然好きじゃないと思います(笑)。
ぼくからしたら
1日に1回あるかないかのチャンスに
すべてをかけていたんですけど、
緊張してしまって、
何もしゃべれないこともありました。
それで、
「次同じ状況になったら絶対これ言おう」
というのを10個ぐらい溜めて、
その場面が来たときに、その中の‥‥。
- 糸井
- 引き出しから。
- 又吉
- はい。
- 糸井
- そのやりかたを
さんまさんは否定したわけだね(笑)。
- 又吉
- そうです(笑)。
捨てろと。
その場のアドリブで言えと。
- 糸井
- そのとおりだ。
でも、その準備してるときに、
明らかに自分は育ってますよね。
- 又吉
- そうですね、きっと。
- 糸井
- ぼくが最近、みんなにも言うし、
自分でもそう思ってるのは、
「自分の中での問答というものだけが
その人を育てる」
ということなんです。
ぼくも人から教わったことなんだけど、
「ああなりたいな」とか、
「こうありたいな」という理想の自分があって、
それと自分とのあいだに差がありますよね。
それを、
「できなかった。どうしたらいいだろう。
もっとこうしよう」
と思うその時間が、唯一自分を
育てることなんじゃないかって。
- 又吉
- ああ、そうかもしれないですね。
- 糸井
- 「どうだった?」って聞かれて
「よかったです」
って言いやすいですよね。
でも、自分では本当は
あまりよくなかったのを知ってるじゃない?
いまの又吉少年の話を聞いてると、
その自己問答の分量が
すごく多いなぁと思うんです。
だから、小説家にならなくても、
その溜めてた問いと答えを
どこかで出さないとやっていけないくらい、
溜めちゃってたんじゃない?
- 又吉
- たしかに、常にそういう
どうしたらいいか
わからんようなことがありましたね。
中学校のときはサッカー部で、
サッカー部ってだけで体育会系の
スポーツマンとして見られるんですけど、
本当のぼくは、いまのこれなんで、
体育会系とは違うんですよね。
で、自分と似た人を探そうと思って
教室を見渡すと、
隅のほうで男子が4人ぐらい集まって、
ぼくのわからん言葉でしゃべって
ケラケラ笑ってるんです。
それに対する憧れが
ものすごく強かったんです。
- 糸井
- その子たちは何しゃべってたんですか。
- 又吉
- ゲームの話をしてるんです。
『ドラクエ』の呪文を
日常生活に置き換えて言ったりしてるんです。
それで笑ってるんですけど、
ぼく、ドラクエやってないから
わからないんです。
でも、その呪文自体はわからなくても
なんとなく前後の流れで意味がわかるんで、
すごくそれがおもしろく感じて、
ずーっとそいつらの会話を聞いていて‥‥。
- 糸井
- 具体的に入って聞いてるんですか。
それとも横に立って聞いているんですか。
- 又吉
- 横ですね。
- 糸井
- 横で聞いてるんですか(笑)。
- 又吉
- はい。横というか、
教室の机に座って前を見ながら、
みんながしゃべってるのを聞いてました。
で、漫画の話とかも
みんなするじゃないですか。
そのたびに、そういう知識が
自分も欲しくなったり、
自分が言うことで彼らが笑うかどうかが
すごく気になったり、
そういうことをずっと考えていました。
(つづきます)
2015-04-02-THU