- 糸井
- 又吉さんのキャラには
自分を曲げないでいたい、
という部分があるんでしょうか。
- 又吉
- ありますね。
- 糸井
- 周囲によって、曲げたほうがいいかもって
思わせられるときはあるでしょう?
その髪型だって、
「ジョン・レノンかよ」
みたいなことを言われてますよね。
そういうときに、
「だったらもう切っちゃおうかなあ」とか、
そういう思いにはなりませんか。
- 又吉
- 出はじめのころにはよく言われましたね。
「切ったほうがいい」と。
- 糸井
- 言われましたか。
- 又吉
- 最初は坊主で吉本に入って、
「怖過ぎるから髪の毛伸ばせ」と言われて。
それでおかっぱにしたら、
劇場に来てるお客さんから
「マジで気持ち悪いからやめろ」と
苦情をもらって。
ぼくが好きな髪型を選んでると
どうしても、なぜか、
みんなが思う「イイ感じ」にはならないんです。
- 糸井
- (笑)
- 又吉
- 髪型とか、別にぼくは何でもいいと
思ってるんですけど、
「切れって言われて切るのもなんか嫌やな」
というのもありまして。
- 糸井
- 言ってる相手が
責任取ってくれるわけじゃないからね。
- 又吉
- 特に、劇場に来てくれるお客さんは、
ぼくたちに対して愛情を持って接してくれるんで、
手紙にもアドバイスのようなことを
すごく書いてくれるんです。
- 糸井
- わかる、わかる(笑)。
- 又吉
- 「ワケわからん服着るな」とか、
「髪型はこうするべきや」とか。
すごくありがたいんですけど、
ぼくが思うのは‥‥お母さんみたいなことを
みんなが言ってくれるけど、
実は、お母さんが言うことと全部
逆のことをやってきたから、
ぼくはいまここにいられるっていうことが
自分でわかってるんです。
ここにきて急にお母さんの言うことを聞きだすと、
全部掛け違ってくると思うんです。
かといって、このロン毛をみんなが嫌がってるのに、
これがカッコいいと言い続けたら、
それは恐怖でしかない。
気持ち悪いと言われながらも髪型は変えずに、
それがおもしろく見えるような
工夫をしたいなと思うんです。
- 糸井
- つまりハンディキャップとして扱ってしまえば、
前向きになれるわけですよね。
- 又吉
- そうですね。
- 糸井
- はぁー‥‥その目で見ると、
又吉さんがやってきたことって、
いままでずっとそうですね。
褒められていることも
ハンディキャップになるし‥‥。
でも、サッカーの話だけはなんか、
特別に偉そうですよね(笑)。
あれは本当に上手だったんでしょう?
- 又吉
- 一応、ちゃんとやってました。
大会出たり、選抜に選んでもらったり‥‥。
- 糸井
- そこがおかしいですね(笑)。
- 又吉
- サッカーの話って
自分ではあんまりしないんです。
なんか恥ずかしいんです。
10年くらい真面目にやってたんで。
- 糸井
- どうしてそんなに続いたんですか。
- 又吉
- 小学校3年のときにはじめたんですけど、
そのときは下手クソだったんです。
最初の試合を両親が見に来たんですけど
ぼくが際立って下手だったんで、
父親が
「恥かかせんな。二度と見に来るか」と言って、
本当にそれから高校3年まで見に来なかったんです。
それくらい下手だったんで、たのしくないし、
休みがちにもなりました。
ちょうどそのころイタリアワールドカップがあって
テレビでマラドーナを見たんです。
マラドーナは左利きで、
すごく上手で、これはいいなと。
ま、ぼくは右利きなんですけど。
- 糸井
- じゃ、何の関係もないじゃないですか。
- 又吉
- いや、それが、
「この人、左足で蹴ってる。
で、いちばん名前呼ばれてる」と思って、
次の日から普通にまたサッカー行きだして、
左足だけで蹴りだしたんです(笑)。
- 糸井
- 自分のゲームを作りはじめたんだ。
- 又吉
- はい。
でもチームメートとかコーチには
「右で蹴れ」って言われて(笑)。
ただでさえ下手なのに、左で蹴ると
全然違うとこにボールが飛んでいくんで、
練習が停滞するんです。
それでもずっと左足で蹴り続けてたら
左利きになりました。
- 糸井
- 松井秀喜も左打ちですが、
もともとは右利きなんですよ。
- 又吉
- あ、そうなんですか。
- 糸井
- 右で打つとホームランがデカ過ぎて
ガラス割っちゃうんで、
「おまえ、左で打て」って言われて、
しょうがなく、
ガラス割らないために、
左で打ちはじめたらしいんです。
- 又吉
- へぇ。
- 糸井
- 又吉さんも、
最終的には左利きの人になったわけですか。
- 又吉
- 小学校5年、6年くらいが
両利きみたいな状態で、
中学のときには完全に左利きになりました。
でも、シュートは左なんですけど、
小学校4年ぐらいまでに覚えた、
基本的なドリブルは
右のほうが相手を抜きやすいから
右で蹴ってたんです。
そのことでプレースタイルに癖が出て、
それもよかったと。
- 糸井
- 相手の目くらましになりますよね。
相手はこう来るだろうって
予測して動くわけだから。
いや、なんか又吉さんのこれまでの人生を
象徴しているような話ですね。
- 又吉
- そうですね。
そのころは、練習するのが本当に好きで、
ずっと1人で走り続けたりしてたんです。
- 糸井
- 目標に向かうんですか。
それとも、そのやってること自体が
好きなんですか。
- 又吉
- ただサッカーが好きで好きで
たまらないという感じで。
中毒症状みたいに、寝てるときも、
「早く明日になって、早くボール蹴りたい」
みたいな状態になるんです。
- 糸井
- 『キャプテン翼』の
翼君じゃないですか(笑)。
- 又吉
- メチャメチャ才能のない翼君です。
愛情は多分、翼君並みにあったと思いますけど。
(つづきます)
2015-04-01-WED