- 糸井
- もう2作目とか書いてますか。
- 又吉
- いや、まだ書けてないです。
- 糸井
- 周囲からの要望は当然あるでしょう?
- 又吉
- そうですね。
ぼくは何も考えてなかったんですけど、
『文學界』に載った後の反響が
思っていたよりはるかに大きくて、
急に怖くなって、
ちょっと、書きにくくなったんです(笑)。
- 糸井
- 書きにくいですよね。
- 又吉
- 本来なら1作目を書く前に
この感覚になると
みなさん思ってたと思うんですけど、
わからなかったですね、最初は。
- 糸井
- これは、その人その人の判断だけど、
2作目を書かない権利は自分にありますから。
- 又吉
- そうですね。
- 糸井
- どうしてもそこを間違えちゃう人が
多い気がするんです。
サッカーで全国大会に出ても、
プロにならない権利は
自分が持ってるじゃないですか。
で、もっといいものを書けるかもしれないけど、
書かない権利も自分にあるし。
- 又吉
- 選べるんですよね。
- 糸井
- 選べる。
多分これから自問自答をされると
思うんですけど。
- 又吉
- そうですね。
まあ、でも、ちょっとしたら
書きたくなると思います。
- 糸井
- さっきの話で、
中学生の又吉さんが
『ドラクエ』の呪文を
しゃべり合ってる友達に、憧れを持って
横で聞いてるという状況って、
なんか、すっごくおもしろいね。
- 又吉
- そうですか(笑)。
- 糸井
- うん。個人的には
そういう構造の小説を読んでみたい気が。
- 又吉
- ああ。
- 糸井
- だって、いまのお笑いの中でも、
又吉さんは芸人だけど、
芸人さんたちの論争の輪には
入ってないじゃないですか。
- 又吉
- そうですね。
- 糸井
- しゃべってるのを
隣で聞いてる人じゃないですか(笑)。
その距離感というのは、なんか、いいですね。
- 又吉
- 教室で呪文をしゃべってた彼らに
ぼくは秘かに憧れてたんですけど、
でも、教室内での、
周りが勝手に下す基準で言うと、
ぼくはそのラインには入ってないんです。
サッカー部なんで。
だけど、ぼくみたいに彼らを評価してる人は
そんなにいないんです。
で、同時に、ぼくはすごく恐れてるんです。
たとえば、友達にネタ振られて、
クラスのみんなを笑わさなきゃ、ってなったときも、
彼らが笑ってるかどうかがすごく気になるんです。
- 糸井
- あぁ、そうでしょうね。
- 又吉
- そのころ、修学旅行で
それぞれ何か出し物をすることになって、
先生から、
「あいつらはまだ何も考えてないから、
又吉、ちょっと考えたってくれ」
って言われたことがあって。
ぼくからしたら
そいつらにネタを考えるなんて、
すごく怖いことなんですよ。
- 糸井
- うんうん。
- 又吉
- で、ぼくは歩み寄って、
「先生に言われたし、
ぼくが考えさせてもらってええかな」と言って、
緊張しながら書いて持って行きました。
で、まあ、なんとなく
台本読んで読み合わせして、
修学旅行に行く前々日ぐらいに、
「1回ちょっと合わせてるところが見たい。
公園で6時に待ってる」と言って約束して、
行ったんですけど、来ないんです。
8時ぐらいまで待っても来ないし、
その後も特に「ごめん」とか言ってこないんです。
- 糸井
- 向こうがビビったのかな。
- 又吉
- いや、どういうことなのかわからないです。
で、本番見たら、ぼくが言ったやつを
ほぼ完璧にやってるんです。
- 糸井
- はぁー。
- 又吉
- で、彼らのことがさらに怖くなったんです。
どういう考えを持ってるのかもわからなくて
ぼくの中でずっと、
「あいつら一体何なんや」って。
- 糸井
- そういう人が、
本当はほとんどなんじゃないですか?
ぼくも若いときに、すごく無口な
アートディレクターみたいな人がいて、
オシャレで、カッコよくて無口で、
何か言うと「うん」って笑ってて。
で、その人がどうすごいのか
よくわかんないんだけど、
なんだかすごいような気がするなあって
思ってたんです。
そのことを当時、営業だった人に
聞いたことがあるんです。
「あの人、何考えてんだろうね」って
ぼくはワクワクしながら言ったわけ。
そしたら、
「何も考えてないんじゃない?」(笑)。
- 又吉
- (笑)なるほど。
- 糸井
- 営業の人のリアリズムでは、
それは何も考えてないということなんです。
ぼくは、「あれは何か考えてる」と思うのが、
ぼくなんです。
で、本人は本当に何も考えてない(笑)。
- 又吉
- そうなんですね。
ぼくはやっぱりコントが好きやったし、
自分がいつも考えているから、
「何か秘密がある」とか、
「あいつらの中に
何か葛藤があって話し合いがあって」とか
思っていましたけど‥‥
向こうからしたら、
「面倒くさいし、行かんとこ」
みたいなことだった‥‥と。
- 糸井
- そうそうそう(笑)。
ふだんの関係のなかで
その人のことを定義してしまうからね。
でも、事実を1個ずつ取り出すと、
案外つまんないことだったりするんですよ。
- 又吉
- なるほど。
- 糸井
- 営業の人たちってまさしく
そこを理解しているんです。
「モノポリー」という
土地売買の交渉をするゲームがあるんだけど、
やったことがないやつを交ぜて一緒にやると、
そいつがうまいことやるわけ。
交渉事だから、何が得で何が損かを判断するのは、
本当はものすごく難しいんです。
だけど、彼は当たっている。
で、終わってから、
「なんでそんなにできるの?」って聞いたら
「ぼくは何もわかんないんで、
相手がしゃべってるときの目を見てるんです」。
- 又吉
- へぇ。
- 糸井
- 目を見ていると、
「あ、いま、やったほうがいいな」
っていうのがわかるって。
それはつまり、超実用の考えじゃないですか。
- 又吉
- はいはい。
- 糸井
- 又吉さんとかぼくとかは
その超実用の考えを持ってないんですよ(笑)。
- 又吉
- そうかもしれないです。
すべてに意味を求めて、
自分の目を通しちゃってるんです。
- 糸井
- そうだと思う(笑)。
だけど、そのことを知っても、
そういう人間にはなれないんだよね。
- 又吉
- そうですね、なかなか。
- 糸井
- 呪文を言ってる友達を
見ている又吉さんが、又吉さんですよねえ。
ずっとそういう資質があって
やってきたんだと思うんです。
だから、小説も本当によかったです。
ぼく、ここしばらく小説を読んでなかったんです。
でも、正月にフッと気が向いて
佐藤正午さんの本を読んだんです。
そしたら、何て言うんだろう、
1行ごとに、文章を書くことが
好きでしょうがないっていう感じが伝わってきて。
それを読んだら正月が
すごくたのしくなっちゃった。
で、その勢いで『火花』を読んだんです。
- 又吉
- あ、そういうきっかけがあったんですね。
- 糸井
- 呼び水みたいにね。
この『火花』って小説も
誰かにとってそうなるんじゃないかと思います。
「あ、小説っておもしろいなあ」
と思ってくれる人、
ずいぶん増えると思いますよ。
- 又吉
- うれしいですね、そうなれば。
ビビってますけど。
- 糸井
- たのしみですよ。
いや、本当にありがとうございました。
- 又吉
- こちらこそ、ありがとうございました。
(終わります)
2015-04-10-FRI