松原耕二さんプロフィール
『ここを出ろ、そして生きろ』アマゾンでの購入はこちら ぼくは見ておこう
その1 人生もそうだけれど、次の日はなにが起きるのかわからない。 その2 NY赴任時代に書いた、7篇の小説のかけら。 その3 人減を描きたいと思い続けて、50年かけてたどり着いた小さな一歩。
その3 人減を描きたいと思い続けて、50年かけてたどり着いた小さな一歩。
── 松原さん、3冊の本の出版、
おめでとうございます。
おどろいたのは、
ノンフィクションのコラムの新刊
そして文庫化のもののほかに、
「書き下ろしの小説」があったことです。
おそらく「ほぼ日」では
報道やノンフィクションの松原さんは
おなじみだと思うので、
きょうは「小説を書いた松原さん」のことを
お聞きしたいと思っています。
松原 はい、ぜひぜひ。
僕も正直、こっち(小説)のほうに
力を入れていきたいなと思ってるものですから。
── それが、とても意外なんですけど!
松原 僕もね、仕事場や、いろんな人に、
「報道やりながら、なんで小説なの?」と。
「え、小説?」みたいな、
ちょっと危ないものを見るような‥‥
── (笑)
松原 ある女子アナなんかと、
仕事場ですれ違った時に、
「松原さん、恋愛小説書いたらしいですね。
 キモチワルイ! 50の男がっ」
と言い捨てられて去っていったというのが、
ちょっとショックだったんですけど(笑)。
考えてみると、この年になって恋愛小説なんて書くと、
「何考えて生きてんの?」
みたいな感じに見られるんでしょうね。
── 拙い感想ですが、
まずは「とても面白かったです!」。
ジャンルで言うと、エンターテインメント?
松原 純文学とエンターテインメントの
真ん中ぐらいに、
中間小説って分野があるんですってね。
そのあたりじゃないかといわれるんですけど。
── どこに感情移入して読むかで変わりますよね。
帯に「渾身の恋愛小説」とありますが‥‥
松原 それは、林真理子さんが
「恋愛小説」っておっしゃってくださったので、
「これ、恋愛小説だったんだ?」というふうに
編集者も僕も思ったんですよ。
── 主人公であるさゆりを軸に読むと、
たしかにそうかもしれません。
けれどもぼくは恋愛小説というよりも、
ジャンという男の人生の話だと思って読みました。
それをさゆりさんの側から見ているんだと。
松原 ありがとうございます。
いろんな読み方ができるというのは、
もしかしたらその小説にとっては
最大の褒め言葉かもしれないですね。
小説って1たす1は2とかじゃなくて、
こうだからこうという論理立ったものだったり
哲学だったりするのとはまったく違う世界だから。
── 物語のなかに、知らないことがいっぱいあって、
そういうところも面白かったです。
イスラエルの入国のことだとか、
国連の人はパスポートを
2冊持ってるだとか‥‥
そのあたりの緻密さは、
報道の世界に生きてこられた
松原さんならではなのかなと思いました。
NGOというのも、非政府団体、みたいに
ことばの知識としてはありますけど、
実体がどうで、国連とどういうふうに絡んでて、
そこに一体どんな人たちが
どんな思いで活動してるのかなんてこと、
全然知らないでいましたから。
ましてやクライシスジャンキーなんて人がいるとか、
そのへんは、ノンフィクションみたいに読みました。
そもそもは、どんなふうに
書き始められたものだったんですか。
松原 もともと、小説を書くということとは別に、
この物語を書こうと思った瞬間があるんです。
それはニューヨークに赴任している時でした。
エルサレムに旅行に行ったんですよ。
空港に降りたら、もうすさまじいセキュリティで、
しかもプライベートも聞かれれば、
同じ質問を3回繰り返される。
その時一緒にいた僕の嫁さん、
彼女が国連に勤めていたんですが、
「何やってんだ。もう1冊パスポートあるだろう」
って訊かれていて。
「え、2冊持ってるんだ?!」みたいな、
だから、この物語の最初は
一緒に旅行行ったあとに、
「あのシーン面白かったなあ、あの空港のシーンは」
というところから始まっているんです。
エルサレムの空港に
国連の日本人の女性が降り立った物語が
できるんじゃないか、ということだけだった。
それ以外何も決まってなくて始めたんです。
── えー!
松原 そこから物語を始めて、
エルサレムに1人で行くの変だな、
感傷旅行かな、何か思い出があるんだろうなとか、
行ったらちょっと1人、サイドの登場人物欲しいから、
運転手さんはどうかなとか、
プロットがまったくないまま、
動き出すまま書いたんですよ。
書き進め方で言うと、
たとえばもう登場人物の1人1人、
すべての履歴書を全員書いて、
全部のプロットを細かく何十枚も書いたうえで
始めるかたもいらっしゃるとお聞きしました。
僕も、プロットって先に
書いたほうがいいのかなと思ったんですが、
それはしませんでした。
人生もそうだけど、
次の日は何が起きるかわからないし、
そこのドア開けたら何か待ってるかもしれないし、
ワクワクして書かないと、と。
自分の頭の中で組み立てると、
話を無理やり転がしていくような気がして、
多分書くほうもつまんないし、
読むほうもつまんないんじゃないかなと勝手に思って。
だから、自分がワクワクするために
次何が起きるかわからない状態で書き進めました。
── さらに「そもそも」なんですが、
ノンフィクションではなく、
小説を書こうと思われたのはなぜですか。
松原 はい。長くなるかもしれませんが‥‥。
『勝者もなく、敗者もなく』を書いた時、
冒頭に父親の話があるんです。
それを読んでくれた直木賞作家の方が、
酔っぱらった席でぼくの勤務先のTBSのある人に
「松原君に伝えてくれ」とおっしゃってたことを
メモで手渡されたんですね。
そこには「君、小説を書きなさい」とありました。
その伝えられた人間も酔っぱらってるんで、
もうぐじゃぐじゃでよく読めないんですけど、
とにかく「小説を書きなさい」とおっしゃっていたと。
でも、その時には、
小説なんて別の世界の人が書くもので、
僕とは違う頭の構造の人なんだと思っていたから、
うっちゃってたんです。

そしてしばらくして、ニューヨークに赴任した時に、
アメリカをテーマにしたノンフィクションを
書こうと思ったんですね。
ところがもうあまりに忙しくて、
独自の取材を続けて
系統立てて1冊書くってことは、
とても無理だろうと自分で諦めました。

でも、そこで思い出したのがその人の言葉で、
都合よく引き出しを開けて、
「あ、そう言ってもらったな。
 俺も書いていいのかもしれないな」と思い始めました。
「何か書きたい」という思いだけは
もう強烈にありましたから。
人間を描きたいという思いは、
コラム、ノンフィクションにかかわらず、
ずうっと、あったんです。
── そうか、人間を描きたいって気持ちは、
ノンフィクションも小説も同じなんですね。
松原 そうなんです。
その延長線上で、
ノンフィクションが書けないならば、
よっしゃ、小説書いてみようかと。
(つづきます)
2012-02-08-WED
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『ここを出ろ、そして生きろ』

 新潮社 1470円
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松原耕二さん初の長編小説です。
NY駐在時代、暗いうちに起きて、
出勤前の2時間を執筆にあて、登場人物が動くまま
物語をすすめていったという松原さん。
帰国時には中編2本と、書きかけの長編1本、
短編が4本が手元に残ったといいます。
『ここを出ろ、そして生きろ』は
その中編の1本を肉付けし完成度を高めたもの。
ご本人はそのつもりがなかったといいますが、
帯文には林真理子さんから
「壮大な恋愛小説」という言葉を
いただいたそうです。
ストーリーは‥‥(公式サイトより)
「目の前の誰かを救うため
 NGO活動に没頭しながらも、
 戦後利権に群がる民間組織の現実に
 戸惑いを覚えるさゆり。
 より危険な道を選ぶことでしか「生」を
 実感できない
 焦燥感に悩む、プロの人道支援者ジャン。
 コソボ、コンゴ、NY、
 エルサレムを舞台に、
 生死の境界を往く恋人たちの
  壮絶な闇を追う。」
立ち読み版は、こちらからどうぞ。
  『ぼくは見ておこう
 ニュースな人たちが教えてくれた
 生きるヒント25』

 プレジデント社 1500円+税
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27年間、テレビの報道の仕事に携わってきた
松原耕二さん。
これまで取材してきたニュースの背後にある
さまざまなドラマ、
人間のものがたりを描いたコラムが
一冊の本になりました。
筑紫哲也さん、吉田都さん、坂東玉三郎さん、
釜本邦茂さん、フィデル・カストロ氏、
スティーブ・ジョブズ氏、
クリント・イーストウッド氏、
ウォルター・クロンカイト氏、
さらには原発を止めるよう命じた
裁判長の告白もあれば、
9.11後の熱狂に立ち向かって死んでいった
ジャーナリストの物語、
日米をつなぐ奇跡のような人間のつながりも。
松原さんが直接向き合った人々から
こぼれ出た思いや、
彼らが明かした人生の物語です。


   
『勝者もなく、敗者もなく』

 幻冬舎 680円
 アマゾンでの購入はこちら


“ぼくは見ておこう”の前章ともいえる、
松原さんの2000年発表のコラム集が、
文庫化されました。
世界的な指揮者・佐渡裕さん、
1996年の孫正義さん、
ヴァージン航空のブランソン会長、
パラリンピック出場の平澤知緒理選手、
田村亮子に涙をのんだ女子柔道の長井淳子選手、
チェリストから為替トレーダーに転身した
田中雅さん、
そして、みずからの両親のこと、
日航ジャンボ機墜落事故の報道のことなど、
9つのエピソードを描くノンフィクションです。
   
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