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糸井 |
最近、僕が発見した
ものすごい考え方があるんです。
「テングザルのおもしろさのポイントは
なんだかわかるか?」
という問いかけなんですけどね。
まぁ、「なんですか?」って
訊かれたいわけなんですけど。 |
三谷 |
え? それはなんですか? |
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糸井 |
ありがとうございます。
それはね、「目」なんです。
みんなは当然、鼻だと思ってるんです。
でもね、鼻は目につきやすいだけでね、
テングザルを何度見てもおもしろいのは、
あのでっかい鼻をしたテングザルが、
「オレの鼻、おもしろいだろ?」
っていう目をしてないからなんですよ。 |
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三谷 |
ああ、なるほど(笑)。
たしかに「おもしろいだろ?」って顔をしてたら、
ぜんぜんおもしろくないです。 |
糸井 |
おもしろくないんです。
このテングザル理論は、もとを正せば、
吉本隆明さんのパクリなんです。
といっても吉本さんはテングザルのことを
言ったわけじゃなくて、
「表現のいちばんの基本形は沈黙だ」と。
ことばの枝葉を生み出す幹には
沈黙があるんだとおっしゃったんです。
僕はそれを聞いたときに息を飲んで、
いろんなことを整理し直さなくちゃいけないな
と思ったんですが、その帰り道で、
この「テングザル理論」を思いついたんです。 |
三谷 |
なるほど(笑)。 |
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糸井 |
で、同じような話がもうひとつあって、
古今亭志ん朝さんのDVD全集のなかに、
柳家小三治さんが寄稿していてですね、
そこにこういうエピソードがあったんです。
ある日、志ん朝さんが、
お父さんであり大先輩でもある志ん生さんに、
「お父ちゃん、落語をおもしろくするには
どうしたらいいんだい?」って、
ストレートに質問したらしいんです。
そしたら志ん生さんは
「そりゃおまえ、おもしろくしないことだ」って
こう言ったというんですね。
つまり、表現の幹は沈黙であり、
落語をおもしろくするには
おもしろくしないことであり、
テングザルのおもしろさは目にある、と。 |
三谷 |
すごい! |
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糸井 |
見事につながったわけです。
とくにこのテングザル理論をわかってからの僕は
いろいろと成長しまして、
三谷さんにおける「テングザルの目」なんかも
ずいぶん堪能しましたね。 |
三谷 |
それはよくわかるんですが、
僕はわかったうえで、正直にいうと、
「おもしろいだろ?」と言って、
本当におもしろいのが、
いちばんおもしろい気がするんです。
だから、今回の『ザ・マジックアワー』というのは
もちろんコメディなんですけども、
じつはあの映画の中に、
「これはコメディです」っていうことは
ひとつも出てこないんです。
というときに、いちばんすごいのはやっぱり、
『喜劇・駅前なんとか』みたいに
タイトルに「喜劇」ってついてるものですよ。
ものすごい勇気ですよね。 |
糸井 |
思えばね(笑)。 |
三谷 |
すごいことだと思うんです。
だから、僕の夢は
『喜劇ザ・マジックアワー』みたいな作品を作って
本当におもしろかったときですね。
なんか到達点はそこにあるような感じがするんです。
「喜劇」ってつけたら、
もう、笑わせようとしてるのが丸わかりですから、
ふつうはつまんなくなると思うんです。
でも、本当は笑ってほしいのに、
テングザルのふりをしてるのは、
なんかずるい気がするんですよね。 |
糸井 |
でも、テングザルは
鼻に気づかないふりをしてるんじゃなくて、
本当に鼻のことに気がついてないんです。 |
三谷 |
だから、それには憧れるんですけど、
僕はすでに笑わせようとしちゃってるから、
もうテングザルにはなれないんですよね。 |
糸井 |
だけど、三谷さんは、
「三谷幸喜っていう人の役」で
いろんなテレビとかさまざまな取材に出るとき、
テングザルの目を演じてますよね。 |
三谷 |
演じてはいます。 |
糸井 |
で、それは、けっこう本当じゃないですか。 |
三谷 |
うん、うん。 |
糸井 |
「あなたは、僕がなにかおもしろいことを
言うのを期待してるかもしれない。
そして結果的にあなたは
おもしろく感じるかもしれないけど、
僕はウソを言ってるわけではない」
っていうのは、テングザル演技ですよね。 |
三谷 |
そうですね(笑)。 |
糸井 |
で、そういうジャンルを探してくれた
三谷さんという人に、僕らはすごく憧れますね。
「あ、またやってくれてる」っていう(笑)。 |
三谷 |
そのときの僕にとっての鼻はなんなんでしょう? |
一同 |
(爆笑) |
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糸井 |
結果的に、いまのセリフがそうです。
「僕にとっての鼻はなんなんでしょう?」
っていうセリフが、つまり‥‥。 |
三谷 |
うん、鼻なんですね。 |
糸井 |
つまらない人だったら、
違うセリフを返してきたと思うんです。
だから、それはやっぱり、
そういう鼻を持っちゃっているんでしょうね。 |
三谷 |
しょうがないですね(笑)。 |
糸井 |
だからね、『ザ・マジックアワー』もね、
おもしろいし、絶対当たると思いますけど、
あんまり「笑えますよ」とか
言わないほうがいいかもしれませんよ。 |
三谷 |
そのあたりは本当に難しいんですよね。
それこそ「笑えますよ」とか
「コメディですよ」ということが、
逆に引かせちゃうんじゃないかとも思いますし。 |
糸井 |
うん。鼻のことは、
あまり言わないほうがいいなって気がします。 |
三谷 |
「すごい鼻ですよ」っていうことですもんね。 |
糸井 |
僕は、もともと広告屋ですからね。
「この人は鼻です」っていう仕事をしてたんです。
その意味では自己否定なんです。
つまり、時代が変わったんですよ。
鼻はお客さんが気づいてくれたら
役に立てればいいんです。
最初は、やっぱりこの目の輝きです。
「お付き合いできるとは思いますけど、
どうぞよろしく」という無言のほうに
やっぱりいまは行ってると思いますから。
そういう意味では、宣伝しすぎないほうが
いいような気がしますけどね。 |
三谷 |
いまは本当にもう、それこそ
テングザルがバッと出てきただけで
笑えるというか、それを求めてる。 |
糸井 |
うん、そうですね。 |
三谷 |
でも、本当におもしろいのは、
向こうを向いて座ってるテングザルでしょう。 |
糸井 |
ああ、いいですねえ! |
一同 |
(爆笑) |
三谷 |
そこで笑いたいですよね(笑)。 |
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糸井 |
いいですねえ。
で、見る側が、向こうにある
テングザルの目を想像するわけですよね(笑)。 |
三谷 |
そうそう(笑)。
そうするともう、
いなくてもいいぐらいですよね。 |
糸井 |
いや、そうです、そうです。
さっきまでここにテングザルがいて、
向こうを向いてたんだよと(笑)。
うん、その構造はすごく、いい絵ですね。 |
三谷 |
でも、けっきょくは、
テングザルの中に、人を見るんですよね。
人を重ねるというか、人として見るというか。
それも、談志師匠と話したときに出たんですが、
すべての笑いは、けっきょく、
「人を見て笑う」ということになるのかと。
植物を見て笑うことってないわけですから。
逆に「爆笑できる花」とかあったら
すごいなと思うんですけど(笑)。 |
糸井 |
ああ、すごいですねぇ、あったら。
あの、植物っていうのは、
動いたりもするんですけど、
その‥‥時間がかかりますからね。 |
三谷 |
ずっと見てなきゃいけないから(笑)。 |
糸井 |
そうそうそう。だからね、
その時間に耐えられるという人にとってはね、
たとえば、ツタが、枝かなんかに絡まろうとして、
届かなくて「おっとぉ!」というのは‥‥。 |
三谷 |
大爆笑(笑)。 |
糸井 |
うん(笑)。
時間という概念さえ、どうにかすればね。
人間は永遠に時間という概念を
暫定的にしかとらえられないから。
だから、神のようになれば、
植物を見て笑えるようになると思いますよ。
つっこんだりして。植物に。
「それ、ハートのつもり?」みたいな(笑)。 |
三谷 |
ものすごい時間かかったツッコミですね(笑)。 |
糸井 |
うん。だから、もうそうなると岩で笑えます。 |
一同 |
(爆笑) |
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三谷 |
何千年もかけてツッコミを(笑)。 |
糸井 |
もう、弥勒菩薩とかが岩を見てね‥‥。 |
三谷 |
「‥‥今かよ!」みたいな(笑)。 |
糸井 |
そうそうそう(笑)。 |
三谷 |
ああ、おもしろいですねぇ。 |
糸井 |
というようなところは置いといて、
少なくともテングザル理論はね、
三谷さんにピッタリですから、
覚えて帰ってください。 |
三谷 |
うん。うかがって、
ちょっと成長した気がします(笑)。 |
糸井 |
ああ、それはよかった。 |
三谷 |
それだけでも糸井さんに
お会いできてよかったです。
どうもありがとうございました。 |
糸井 |
こちらこそ、ありがとうございます。 |
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(これで三谷さんとの対談は終わり‥‥なんですが、
ちょっと「オマケ」があるんですよ。
というわけで、もう1回、続きます!)
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