2008-06-06
2008-06-09
2008-06-10
2008-06-11
2008-06-12
2008-06-13
2008-06-16
2008-06-17
2008-06-18

糸井 いつも三谷さんはスーツですか。
三谷 こういう場では、だいたい、そうですね。
糸井 それは意識的に?
三谷 映画を撮り始めるまでは
ネクタイなんか締めたことなかったんですけど、
映画の現場行ってみると、
あまりにもみなさんがラフな格好されてるので、
なにかちょっと自分なりのスタイルを
見つけなきゃいけないなと思って。
ヒッチコックとか背広でやってますもんね。
昔の映画監督はちゃんとネクタイしてたんだなと思って。
糸井 そういうことばっかり絶えず考えてるわけですね。
三谷 (笑)
糸井 僕が、あの映画(『ザ・マジックアワー』)を
観た直後だからそう思うのかもしれないですけど。
ほら、あれって、「映画の映画」じゃないですか。
三谷 そうですね。
糸井 もう、おもしろかったですよ。
いやぁ、おもしろかったー。
三谷 ありがとうございます(笑)。
なんか『THE有頂天ホテル』のときも、
「初のヅラ(カツラ)映画だ」という
独特のほめ言葉をいただきまして。
糸井 あれもおもしろかったです。
いろんな意味で、カツラの映画でした。
ご本人としては
「ヅラ映画」という評価はどうですか。
三谷 うれしかったです。
糸井 『有頂天ホテル』がヅラ映画だったとすると、
今度の『ザ・マジックアワー』は
ヅラを外したヅラ映画ですね。
三谷 そう、そうなんです。
糸井 もう見事で。
三谷 本当のヅラでいうと、たぶん僕よりも、
伊丹(十三)さんのほうが先でしょうね。
糸井 あ、なるほど。
三谷 伊丹さんの映画にも、
すごい頭の人がいっぱい出てきますからね。
僕はそれを観て、
「あ、この特殊メイクはいいなあ」と思って、
お願いして紹介していただいたんです。
江川悦子さんという方なんですけど。
糸井 伊丹作品を手がけている人と同じ方なんですか。
三谷 同じ人なんです。
糸井 伊丹さんについては、きっと三谷さんは
たくさんの思いがありますよね。
三谷 そうですね、いろいろお世話にもなったし。
『ラヂオの時間』を撮っているときは
現場に遊びに来られたんです。
で、その年にお亡くなりになったので、
とてもびっくりしましたね。
糸井 ああ、そうですか。
『マルサの女』を撮ったあと、
『マルサの女2』を撮るときに、
僕は伊丹さんにお会いしたことがあって。
そのとき、伊丹さんは2本の映画の
プロデュースの構造について教えてくれたんです。
「『マルサの女』をこうだとするだろ?」
って丸をひとつグルッと描いて、
「この外側にまだ観てないお客さんがいるんだよ。
 で、『マルサの女2』っていうのは
 この丸の外側にいる人を狙ってるから、
 丸の真ん中の『1』を見た人は、
 ちょっと不満なんだよ、おそらく。
 だけど、面積としては外側のほうがずっと多い。
 僕は『2』でそれを狙ってるから」
ということを図まで描いて説明してくださって。
三谷 ああ、なるほど、さすがですね。
糸井 三谷さんの映画を見るたびに、僕は、
伊丹さんが説明してくれたことなんかを
ぼんやり思い出すんです。
三谷 僕は、映画づくりのことを
ぜんぜん知らなかったので、
伊丹さんから教わったことは多いんです。
たとえば、伊丹さんは、
「スクリーンの中に
 映ってるものだけがすべてなんだ」
「だから、撮影現場では
 モニターの中だけを観てればいいんだよ」
っていうことをよくおっしゃっていて。
そうじゃない監督さんもけっこういらっしゃって、
むしろ古くから映画を撮ってらっしゃる方は、
俳優さんを目で見て演技指導をして、
っていうふうにする方も多いんですが、伊丹さんは
「そんな必要はない。
 とにかくモニターだけを見てなさい」って。
僕は、そのことばが残ってるもんですから、
いまも、ずっとモニターの前にいますね。
糸井 きっと、最初は腑に落ちてなかったというか、
たんに、言われるがままにやってたんでしょうね。
そういうことが腑に落ちるまでっていうのは
けっこう長くかかりましたか。
三谷 やっぱりかかりましたね。
糸井 ああ、そうですか、やっぱり。
三谷 10年ですね。僕、この
『ザ・マジックアワー』が4本目ですけど、
やっと、やっと手習いの時期が終わったみたいな。
まだ、お試し期間の最終章ぐらいな感じかな
っていう気もしますけど。
(続きます!)



  2008-06-06-FRI





この対談は、雑誌BRUTUSとの共同企画です。
BRUTUSの三谷さん特集もどうぞよろしく!
(ちなみに、この表紙、糸井事務所の会議室なんです)


(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN