第4回 『新選組!』のこと。
糸井 僕は、三谷幸喜という人のことを
いちばんたくさん考えたのは、
もう、4年前のことになるんですが。
三谷 『新選組!』のときですね。
糸井 うん。そうとうたのしませてもらいました。
毎週毎週、あれだけしつこく
『新選組!』を観て語っていると、
その向こうにいる三谷さんと、会ってもないのに
話をしているような状態になるんですね。
あの、宮大工の人たちって、
古い木造建築の天井裏なんかに入ると、
「昔の大工と話をする」
っていう感じになるらしいんです。
「あ、こうしたのか」と。
三谷 ああ、なるほど。
糸井 毎週、『新選組!』を真剣に観てると、
もう、三谷さんと、話してるような気分になって、
それはものすごくおもしろかったですねぇ。
三谷 いや、ありがたいです。
記事をいつも読ませていただいてました。
糸井 あ、そうですか(笑)。
三谷 あれが僕にとってラッキーだったのは、
糸井さんたちの連載がはじまったときには、
僕はもう、脚本をほとんど書き終えていたこと。
もしあれが脚本を書いてる途中に連載されてたら、
すごく影響されてた気がするんですね。
むしろ「この人たちをたのしませよう!」と(笑)。
糸井 ああ、それはよくない(笑)。
それは、僕らとしても不本意です。
三谷 (笑)
糸井 なぜ『新選組!』の話を出したかというと、
『ザ・マジックアワー』を観て、
『新選組!』のことを思い出したんですよ。
それは、分析とか批評じゃなくて。
三谷 はい。
糸井 映画の中では、佐藤浩市さんが、
「殺し屋の役を頼まれた俳優」として
演技をしていくことになるんですけど、
いろんな意味で「周囲をたじろがせる」ような
お芝居をしていくわけですよね。
で、たじろがせた理由がなんだったかっていうと
本人がいちばん、「そういう自分」を
信じてたからですよね。
この構造ってなんだったかなと思ったら、
『新選組!』だったんですよ。
三谷 あ、そうですね。
言われてみると、そうですね。
糸井 たぶん、意識されてないと思うんですけど。
三谷 うん、まったくしてなかった。
糸井 『新選組!』では、武士になりたい近藤勇が
武士である自分を信じたことによって
新選組という組織がどんどん大きくなっていく。
中心にいる人が無闇に強く「信じる」ことによって
周囲をどんどん巻き込んでいく。
『ザ・マジックアワー』では、佐藤浩市さん演じる
村田大樹がそれをやっているわけですよね。
「こういう仕組みでさ」なんて、
冷たい分析をするつもりじゃないんだけど、
三谷さんが考えているのって、ずっと、
そういうことなんじゃないかなと思ったんです。
つまり、「信じるんだ!」ということの強さで、
だからこそ物事が動くし、変わる人もいるし、
「そのおかげで迷惑だ!」
っていう人も出てきたりするし‥‥。
三谷 そうですね。
信じることで、だれもが予想してなかった
何かが力を持って動きはじめるという。
糸井 そうそうそう。
それは『王様のレストラン』でも‥‥。
三谷 ああ、確かにそうですね。
糸井 あれもそうですよね、
堺正章さんたちがやった川上音二郎一座。
アメリカに行っちゃった一座が
思い込みの連続で周囲を巻き込んでいく。
三谷 本当だ(笑)。
けっきょく、同じようなことを
ずっとやっているようなもんですね。
糸井 いや、人の「考えグセ」って
そういうものなんじゃないかなぁと思うんです。
同じこと、答えの出ないことを、何回も何回も、
「まだ足りない、まだ足りない」っていって
やることなのかなと思って。
三谷 僕が考えることというのは、
たぶん、そういうことに行き着くし、
なにより、僕が好きなお話というのが
そういうものなんでしょうね。
糸井 そして、僕が三谷さんの作品を
好きなのもきっと同じ理由でしょうね。
そういうふうに人が動いていったり、
変わっていったりというようなことが
僕はとっても気になるんです。
誰かと誰かはどうして違う運命になるのか。
同じようにわかり合ってた友だちが
どうして違う運命を生きていくことになるのか。
それは、映画だろうが現実だろうが、
おんなじように気になるテーマなんです。
『新選組!』なんかはそれを1年かけて
三谷さんがたっぷり描いてくれたようなものだから
もう、追いかけていて、たまらなかったです。
三谷 たしかに、大河ドラマっていうのは、
「たくさんの時間を自由に使える」という意味では
やっぱりいいなと思いましたね。
あれだけの時間を使えるというのは、
映画にも、舞台にもできないことですから。
それはすごくたのしかったし、
勉強にもなりました。
糸井 あれだけ長い時間をかけて
人の運命を動かしていくというのは、
たいへんなことだったでしょうね。
三谷 『新選組!』のときに楽だったのは、あれが
「ほぼ史実に基づいてる」ことだったんです。
つまり、「これは僕が考えた運命じゃないよ」って
言い訳ができる。
普通は、恥ずかしくて絶対書かないようなくさい展開も
本当のことなら書くことができる。
だから楽しかったですね。
(続きます!)

2008-06-11-WED



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