家
 人 の 思 い を つ な げ て い く も の
‥‥三角屋・三浦史朗さんの仕事論‥‥
東京・青山の「ほぼ日」にいらしたお客さまが
ほぼ確実に、おっしゃることがあります。
「木の、いいにおいがしますね」
これは、天然の素材でものづくりする
京都の三角屋さんが内装を手がけてくれたから。
「気仙沼のほぼ日」をはじめ、
最近では、北参道の「ミグノンプラン」や
岩手アーク牧場のツリーハウスなど
「ほぼ日」まわりの建築でお世話になっている
三角屋の三浦史朗さんに、
人と密接に関わる「家」というものについて、
たくさん、うかがいました。
なかでも「すごいなあ」と思ったのは
木や石という生きた素材の、ポテンシャルの高さ。
木造建築って、手入れとつくり次第で
100年以上「もつ」って‥‥すごいですよね?
自分の家や身のまわりの道具を
もっと大事にしたくなるような、三浦さんの話。
「ほぼ日」奥野が担当します。
あ、三浦さんが「久々にドキドキする」という
東北でのお仕事のくだりも、いいですよ。
わくわくする建物を、どんどんつくってます。
三浦史朗さんのプロフィール
 



第1回
木と石で家をつくる

── 三浦さんが手がけている
「数寄屋建築」の教科書的な意味を調べると
「数寄屋」つまり
「茶室」を取り入れた住宅様式である‥‥と。
三浦 ええ。
── でも、三浦さんや
三浦さんの会社・三角屋さんの建築を見ると
そういう伝統的な感じというより
「素敵だな、カッコいいな」と思うんです。

若者向けのアパレルブランドの店舗なども、
手がけてらっしゃいますし。
三浦 ありがとうございます。

極端に言うと
数寄屋って「ぼくらに正解はない」んです。
── と、おっしゃいますと?
三浦 それは、施主やクライアントが持っているもの。

その正解に‥‥つまり施主の「好みや希望」に
とことん付き合うのが
「数寄屋」ということかなあと、思っています。
── なるほど。
三浦 ですから、いくらキャリアを積んだところで
施主やクライアントの求めていることを
正しく受け取れなかったら、
いつまでたっても「数寄屋」には、ならない。
── 数寄屋建築って伝統的なものでしょうし、
なんとなく「様式」があるというか、
もっと言うと「型にはまった」もののような
イメージさえ抱いていたんですが
今のお話だと、なんか、すごく逆ですね。
三浦 そう。
── その都度その都度、ちがうというか。
三浦 これまで積んできた経験や蓄積も大事ですが、
それらは、ひとまず置いといて、
目の前の人と向き合わないと、ダメです。
── 毎回、ゼロからのスタートみたいな?
三浦 もちろん、合理的に進める部分もあります。

やはり、長さの規格に合わせたり、
流通している部材をうまく使っていったり、
効率的にやらないと
無駄が大きくなってしまいますから。
── そうですよね。
三浦 ただ、それでも表に現れない要望が、ある。

だから、やはりぼくらは
「オーナーの好みに付き合う」ってことを
徹底してやっているんです。
── ある意味で「黒子」的な。
三浦 そうですね、家を建てるにあたっては
もちろん意見は言いますけど
あくまで「家は施主のもの」ですから。

その意味では、やはり「黒子」ですね。
── あの、歴史的に著名な建築家の作品集って
よくあると思うんですが‥‥。
三浦 三角屋の作品集は、ありえないですね。

建物は、ぼくらの作品じゃなくて
施主やクライアントの作品、ですから。
── でも「お手伝いしている」という感覚とも
ちょっと、ちがいますよね?
三浦 工事期間は、ぼくたちに全権が委任されて、
ぼくたちがよかれと思うように
全体をコントロールして動かしますけど、
竣工を迎えたら、
そこで、すべてがオーナーの手に戻ります。

オーナーが
「ここをつくるの、難しかったんだ」って
まるで自分がつくったみたいに
お客さんに話す姿を見て
「ああ、引き渡しができたな」と思う。
── 三浦さんが考える
数寄屋建築の「いいところ」って何ですか?
三浦 そうですね、いろいろあると思うんですが、
ひとつには、
世の中を流通している既製品に
縛られないで発想するところ‥‥です。 

素材から、自分に合ったものを、選ぶから。
── 「自分に合った」が、重要ポイントですね。
三浦 もちろん、カタログも見るんですけど
本当に大事な部分は、
まあ、カタログからは選びません。
── 大事な部分って大黒柱とか、ですか?
三浦 そうですね。

そういう、全体の発想に関わる部分、
家を立ち上げる際の骨格となるような部分は
ほとんど、
オーナーと対話しながら見つけていきます。
── 仮に、注文するオーナーの側に
数寄屋建築の知識が、なかったりしても‥‥。
三浦 大丈夫ですよ。
── 数寄屋建築にしたいという思いがあれば。
三浦 別に数寄屋じゃなくたって、いいんです。

家を建てたい人と話をしていくなかで
この人が求めているものは、
木や石というよりも
ガラスやコンクリートの空間だとわかれば、
ぼくらが下手に受けず、
ぼくらより上手くやれる人を紹介します。
── なるほど、徹底的に
「対話」「好みに付き合う」なんですね。

いま、「素材」のお話が出ましたけど
「木や石の良さ」って
どういうところにあると思われますか?
三浦 木や石や土‥‥という自然素材は、
ちゃんと呼吸をしていて、生きてますよね。

ある建物なり空間に入ったとき、
自分が、生きている素材で囲まれているか、
呼吸をしていない素材で囲まれているかは、
目をつむっても、わかると思う。
── なるほど‥‥。
三浦 だって、ぼくら自身が生きているから。

それは、人の住まいだけじゃなく、
お店だって、会社だってそうだと思います。
── いまの糸井事務所は
三浦さんに内装をしていただいたのですが、
床も壁も、木の部分がたくさんあるんです。
三浦 そうですね。
── 引っ越して、すぐに気づいたんですけど
みんな、それまでにくらべて
「朝はやく来る」ようになったんですよ。
三浦 あ、そうですか。
── どうしても夜が遅くなりがちなので
自分も含め、
どちらかというと朝は遅め、
昼くらいに来るって人も多かったんですけど
木の事務所になってからは
「なんか、みんな来るのはやくなったな」と。
三浦 それは、すごいね(笑)。
── 木で囲まれた場所に行く‥‥という行為が
朝の空気に合ってるんですかね?
三浦 やっぱり、生きている素材って、
ぼくらを
自然な方向へ引っ張っていくちからが
あると思います。
── 使い込んでいくうちに
経年変化、いわゆる「味」が出てくるのも
木や石のいいところですよね。
三浦 まあ、石の「味」を出そうと思ったら
100年オーダーですから‥‥。
── あ、そうか(笑)。
三浦 自分たちの世代だけでは
そこまで実感できないかもしれませんが
木だったら
10年オーダーで風合いが出てきます。
── ええ。
三浦 手入れの行き届いた木は
どんどんよくなっていくのがわかります。

表面に艶が出てくるんですけど
それは人工的に、
何かの塗料を塗って出した艶ではなくて
素材自体から出てくる。

つまり「劣化する素材」じゃないんです。
── 木は?
三浦 そう。木は、ね。

それに対して「石」は‥‥
とりわけ
ぼくらが数寄屋建築に使うような「石」は、
すでに長い時間を過ごした結果、
ある表情を持つに至った素材なわけです。

「木よりも、先行している」というかな。
── ええ、ええ。
三浦 建物の姿形を見てみると
足下は石で、その上に木を組みますよね。
── はい。
三浦 時代の先行している石の上に、木が載る。
これは安定します、建物として。

ピカピカの新しい基礎の上に
古いものを載せるのは、不安定だと思う。
── わー‥‥おもしろいです。

ちなみに、三浦さんたちのつくる家って
どれくらい「もつ」ものなんですか?
三浦 環境や住む人の個性にもよりますけど
ざっくり言って、
100年から150年に一度くらい‥‥。
── 100年? 
三浦 ええ、100年から150年に一度、
ほぼ解体に近い改修工事が要りますね。
── 100年から150年って
それ、木造建築の話‥‥ですよね?
三浦 もちろんです。

まず前提として、家でも店舗でも会社でも、
ぼくらがつくるものって
すべて解体できるんです、綺麗に。

つくる時点で、解体して建てなおすという
「次のサイクル」を想定してますから。
── へえー‥‥。
三浦 まあ、木や石を使った日本の伝統的な建築で
あるレベル以上の建物は、
当然そのことを想定に入れているんですが。

移築だとかね。
── そうなんですか。
三浦 そういうつくりになっていることを前提に、
やはり100年から150年に一度は、
裸の状態に戻して
傷んだ部分を取り替えたり
新しい素材を混ぜたりしながら、再生する。

それが、大きなスパンです。
── すごいです‥‥木の建築って。
三浦 もちろん、電気や水道まわりの設備類は
15年から20年ぐらいで交換です。

屋根の瓦は「30年に1回」とか、
いろんなサイクルが共存していますけど、
それらが適正に更新されていけば
木の家というのは
ぼくらの寿命よりずっとあとの時代まで
引き継いでいくことができるんです。

<つづきます>


2014-07-08-TUE
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木や石との対話。
株式会社三角屋 朝比奈秀雄さんの場合
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